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[7933]浅草8月
=八卦(関東)
=12/08/31(Fri)00:39



敬称略です。



1.MIKA

 逆光で、サファイヤ色の照明が射し込みます。
 頭上に花冠をのせた6人が、舞台中央に佇みます。
 雷雨が過ぎ、陽が射し、潮風が波の音を運んできました。
 小気味よいテンポで軽快に、裸足で砂浜を駆け巡るよう、顔を見合わせて笑みをこぼし、いかにも楽しげに踊ります。
 さっと横一線に広がると、6人6様のパレオの色が、目に飛び込んできます。
 タヒチのファッション、パレオを自在に着こなしてみせます。首の後ろで結んで水着のように着たり、腰に巻いて涼しげに見せたり。
 それから5枚のパレオの一端をひとりでつまみ、後の5人がもう一端をつまんでパレオを広げ、6弁の花びらを型取ってハンズ・アップへ。
 6人の気持ちがかたくひとつに結ばれます。

 ベッドは、往年のスウェーデン製ポップスのメドレー、軽快なテンポに上質なハーモニー。
 盆に足を踏み入れて、パレオを背中側に回してはためかし、その場で急速なターン。
 突き上げるようなポーズを立て続けに放った後、片膝ついて胸の前で手を広げて、反りかえって、姿をひときわ大きく見せます。
 天井から光が射し込んで淡い黄緑色に染め、盆の前方、斜め前から光が降り注いでラベンダー色に縁取って、白い肌をまばゆいばかりに輝かせます。
 花道戻りではおおらかに微笑んで、のびやかにポーズでまとめます。
 サファイヤ、ライトグリーン、レモンイエローの光のシャワーをくぐり抜け、片足あげのブリッジで、閉まりかけた幕の向こうに隠れます。



2.羽鳥かのん

 はっぴの背に大漁旗のめでたい柄があでやか、鯛やマグロがぴちぴちと跳ねています。
 鯛に負けじと男衆3人が、白いさらしに地下足袋で威勢よく、舟の櫂を手にして荒波をかきわけかきわけ、踊ります。
 わっせ、わっせと掛け声に似せたリズムに、お三味がころころと戯れるようにからんで、軽い興奮状態へと導きます。 重たい櫂を軽々と抱えたり振りおろしたりしながら、軽快に踊ります。
 腰の入れ具合、足の運びはいつもと勝手が違います。櫂を体と一心同体に扱わないと、重みで振り回されそう。
 額に汗してエイヤコラ、凛々しい表情で3人が花道をせりあがったところで、足を止めました。

 メインはシースルーの襦袢のような衣装に替え、花道踏みしめ盆へ向かいます。スカイブルーの生地に、薄紫や桜色の花柄の刺繍やアップリケがほどこされ、ゴージャスにサンゴ礁を思わせます。
 真夏の陽ざしのように、天井から照明がまばゆいほどに照りつけます。
 腰をすっと浅く浮かせたポーズで、足をすっと伸ばして静止します。力みを感じさせないで、不思議と穏やかな表情です。
 じわりじわりと辛抱強く動き続けたあとは、立ち上がりで爽やかな曲に洗われます。
 リズム・ボックスにスティール・ドラムの明るい音色がかぶさって、気持ちを浮き立たせます。
 花道戻りで振り返りかけて見せた横顔がいとおしく、旅先の記念写真のように心に刻まれます。
 気がつけば、遠浅の砂浜を洗う波の音が聴こえてきました。
 晴れわたる空の下、水平線がふと目に入ります。



3.浜野蘭

 3羽の蝶がところ狭しと舞台を駆け巡ります。
 舞台中央、椅子の上にメインは立ち、扇型の布を翼状に広げて、展翅板のうえのオオルリアゲハのように、じっと静止します。
 広げた羽根がスクリーン替わりになって、プロジェクターの画像がパッパと入れ替わり、
ドット、虹色のグラデーション、花柄にぼかしをほどこしたものなど、華やいだ画像が次々と、薄暗がりの場内に漂います。

 照明がいきなり明るくなり、3人の顔がくっきり浮かび上がります。白いブラにホットパンツ、栗色の長い髪を根元で縛り、激しく首を打ち振ってなびかせます。
 キレと勢いを求められる振付で、3人が絶妙のコンビネーションを発揮します。
 盆にせり出すシーンで3人が、重なり合いながらローテーション。時計回りに身を入れ替えて、時間差をつけて互いにの振りをなぞるように踊るところなど、編集された映像をみるようで見事です。

 ホットパンツを脱いで下手袖にぽーんと放り込み、ガーターから紐パンを引き抜くように脱ぐさまは、刺激的。
 リズム・ボックスにのせてゆったりとしたアダルトな曲で盆に入りますが、曲調は一転してブルースへ。
 魂をぶつけるようなシャウトで空気が張りつめるなか、のっけからガツンとポーズ、大技のブリッジを放ちます。
 しぼり出すような女性ボーカルに負けじと、荒々しいポーズで切って返します。
 雰囲気を生かしてタメをきかせた熱唱するブルースが佳境に入ったとき、ポーズを切る間合いとシンクロしてきたと感じます。
 花道を戻りきって別れを告げる瞬間に、スカッとします。



4.長谷川凛

 淡い恋心を抱いては、はかなく消えるひと夏の恋。
 それが自然の摂理でなくて、妖精の仕組んだ悪戯だったとしたら……!?
 4人の男女の諍いと関係修復を、操り人形のようにバックダンサーに演じさせ、妖精役のメインが、手綱とムチで操ります。

 舞台下手から順に、緑、黄、青、桃の衣装で役柄を見分けます。
 緑(男装)+黄(女)、青(男装)+桃(女)のカップルを崩したら、どうなるかしら?
 緑を桃に懸想させましょう。
 あらあらたいへん、女性どうしのいがみあいはヒートアップして、修羅場に…。
 当事者にとっては深刻なものの、それをどこか醒めた目で見ている自分がいます。
 魔法をかけた妖精も、あくびをこらえて事態の進行を眺めます。
 …もういいや。
 元のさやに納まり、みんなハッピーエンド。
 バックダンサーのリアルな演技が冴えました。

 さなぎから抜け出るように、手際よく脱いでメインはベッド着に。
 ちょっと勇ましく威厳の備わった曲で、颯爽に花道を駆け抜けます。
 息を呑むスワン、しなやかに体を伸ばしたポーズも鮮やかに。
 脚を宙に浮かせたまま流したり、差し上げた手を伸ばしたり、 一瞬も静止することなくゆるゆると動き続けて、次にくるポーズを呼び込みます。



5.鈴木ミント

 廓で評判の太夫なら、客を手玉に取るのはたやすいこと。肩に手をかけては押し返し、囁きかけて見つめあっては視線をさっとそらし、ふっと、あるかなしかの微笑を浮かべます。
 おだててなだめて、肌に触れさせて、あちきはぬしを帰しませんぞ…とかなんとか言っておけばァ楽なもの。蝶のようにあでやかに、おめかしして、蜜を吸って回ります。
 手玉に取られた男は、目もくらんで「しあわせ」の真っ只中。でもさァ、横取りされたをんなにとっちゃぁ、たまったもんじゃぁありません。

 今日も廓で繰り広げられる悲喜劇を、コミカルでシニカルな芝居で演じます。
江戸の情緒とはかけ離れた音ですが、破天荒なロックが咆哮し、享楽の限りを尽くします。
 ここは山林、藪の中、畜生どもがあさましく生きるところ…
 刃向かったところで、跪き、引きずり倒されるのがオチ…
 朽ち果てるまでゆっくりと、甘みな夢に浸るがいい…

 情熱たぎる荒々しいボーカル、のたうつような旋律に、日舞のようなおっとりしたしなやかな身振り・手踊りを、ぴったりと添わせるようにして重ねます。

 戯れから火が付いた遊女どうしの仲違いは、いったんエスカレートするととどまるところを知りません。
 別嬪さんどうしが角突き合わせりゃぁ…… 闘犬でも見るような塩梅に。
 負け犬が、ふんっ、なにさァ!と、いきり立って、席を立ったところでケリがつきました。

 神妙な面持ちで、メインは花道行きをしずしずと。
 朱の半襟に、紫の襦袢を着流します。おしろい匂わせるように、うなじ、肩口まで覗かせます。
 化粧映えのする面に、重い髷、豪華な鼈甲の櫛・かんざし、粋な玉かんざし。
銀細工のビラビラかんざしが、歩くたびゆらゆら揺れています。

 相好を崩さぬようにして表情で惹きつけて、ベッドは淡々と運びます。
 戻りの花道半ばで、キッと視線を客席に投げつけます。
 胸の前に掌をすっと差し出し、そっと上向け、指折り数えるように誘いの素振り。
 …今度、手玉に取られるのは、どうやらあなたの番かもしれません…



6.初芽里奈

 白い天幕が開くと、揃いのコスチュームの二人がもつれるように佇んでいます。
 スキャット風のボーカルが囀るように歌い、ジャズ・フィーリングたっぷりの伴奏に熱がこもります。
 頭の左サイドにショッキング・ピンクの飾りの造花、けばけばしいコルセット付きのランジェリーをお揃いで着け、気のないタチと空回りするネコの、レズビアン・ショー。
 触れ合うのもイヤそうにして役を演じるタチとネコ。
 気が合わなくても体が触れ合えば、火照らせて、いずれ業火に焼かれます。
 …この辺は説明的な演技はありませんが、気がつけば、タチは精神的に追い詰められ、ネコに瞼をひと舐めされて、…身を亡ぼすことの象徴でしょうか…、短刀で自ら左目をえぐります。
 …残されたネコはさぞや狼狽するかと思えば、さにあらず、にんまり笑って気がせいせいとした様子です。花道で寄り道しながら、客席に媚びを売ります。

 曲調が変わると一変し、それまで自由気儘に振る舞ってきたのが嘘のよう、しんみりしたムードに合わせて借りてきたネコのようにおとなしくなります。
 懺悔するようなシリアスな歌詞に隠された意味をあばくように、身振りと表情で歌い上げます。
 真っ暗で光明も見えない現世を現わすには、目隠で手さぐりの繰り返し。
 視界が開ければ、イキイキとした表情を蘇らせます。
 放り出すように脱ぎ捨てて散らばった衣装を、ひとつひとつ大事そうに拾い上げるのは、悔恨の念からでしょうか、ゆっくりと花道を戻ります。
 テキストに真っ向から立ち向かおうとする真摯な姿に、すがすがしさを感じます。



7.灘ジュン

 化粧台の3面鏡は、打ちひしがれて自虐的な、Lilicoの表情を映しています。
 その隣の金魚鉢に、きらきらと金魚が鱗を輝かせながら泳いでいます。
 金魚…… 交配で姿を変え、自然界ではお目にかかれないあでやかな朱や金色で彩られ、ぶくぶくとふくれた腹をさらし、それでもなお悠々と泳ぐ、不幸せな存在。
 そして金魚のように赤いコスチュームで6人のダンサーは、身震いし、忍び歩き、這いつくばり……と、まるで猫のよう。Lilicoの気を引こうとするように、しなだれかかり、かわいいけれど、どこか過剰なコケットリー。美しく整いすぎて、かえって不毛。
 Lilicoは、ふわふわした軽い生地であつらえた赤いドレスをまとい、自制できないエゴをむき出しに、エキセントリックにふるまいます。
 クスリをキラしたら、癒すのはまたクスリ。神経がキレたら、腹いせに奴隷を傷つける。
 切りそろえた前髪、自ら抉りだした眼窩をふさぐアイパッチ、血を吸い尽くすような色のルージュ。随意筋の動かし方を忘れたかのように、無表情で不遜な印象を与えます。

 神経を逆なでするために引っかきまわすようなギターで、ヘビーなロック・ナンバー。
 続いてさらにタイトなナンバーにのって、6人に取り囲まれて護送されるように、花道から盆へ。騒々しい轟音も、Lilicoの存在感を薄めるには至りません。
 混乱、錯綜、鎮静……そしてヒロイックな立ち上がり。
 運命に立ち向かうような悲壮な印象を残し、本舞台中央に据えたソファに、崩れ落ちるようにして座ります。



8.フィナーレ

 開放的なロックのリズムで滑り出し、和太鼓のリズムや三味線のフレーズが重なって、活発なダンスが威勢よく始まります。
 レモンイエローにライトグリーン、妖精のような愛らしいコスチューム。
 心浮き立つ軽やかなステップは、その場足踏みにとどまらず、八の字巡航、八の字逆行と凝っていて、目まぐるしく流れます。
 すっと照明消して、スポット・ライトに浮かぶトリの表情が、思案しているようにも煩悶しているようにも見えます。
 一瞬の静寂に侘しげな横笛が流れ、万感の思いが胸に迫ります。
 怒涛のようにロックと和太鼓の大合奏、縦列組んで花道を引く踊り子たち。
 スパークするように照明が輝いて、一瞬の夏が終わります。


                       以上

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