敬称略です。
1.香山蘭 「安息を与える」
あたしの旅立ちの日は雨になりました。
可愛がっていたネコとも、そしてあなたとも離れ離れになるなんて、あたし耐えられません。
おお、ポール… ああ、ホリー…
慈しみ、惑い、寄り添うふたり、重なるシルエット。
突如、乾いたギターの音色、ミディアム・テンポの曲に、ドラムがガツンガツン、カントリーロック風にボーカルがシャウト。
バックダンサーを加え、どしゃぶりの中、表情豊かに楽しげにステップ。
6人がステージ全面に広がり、水しぶきを浴びながら、水たまりをよけるように。
金色の光を浴び、雨は銀色に乱反射。バトンを振り回すようにして、アンブレラで雨のしずくを払います。
花柄のワンピースの裾を翻して、花道から駆け込むように盆へ。
たおやかなベッド、ふわりとポーズを宙にのせ…
花道戻りは、アコースティック・ギターの弾き語りでのびやかに。
放浪者ふたりの行き着く先はここ、マンハッタン島。
波乱万丈の出会いを追い求めたふたりでしたが、安息とやすらぎの場所をここに決めました。
♪…ムーン・リバー アンド ミー……♪
蕩けるようなスマイルを、ロマンチックな旋律が彩ります。
2.聖京香 「躾ける」
トニー賞候補のケン・ワタナベで決まりです!
いいや、今年こそゴジラ・ブームです!
浅草ロック座、深夜の企画会議は紛糾しました。
議長、そろそろ御決断を。
んじャ、両方のエエトコ取りで、ほないこかァ〜
かくして、ケンとゴジラのハリウッド2大スタァ(和製)が早替わり。
主人公の「私」ことアンナが、AD代わりに特撮スタジオをセッティングします。
♪ドシラ、ドシラ、ドシラソラシドシラ…♪
伊福部昭作曲の土俗的なテーマで登場したのはゴジラ。傲岸不遜、傍若無人、悪の権化………のっしのっし、ガオゥ〜ウ。
破壊の限りを尽くし、ステージは阿鼻叫喚の地獄絵図、東京大空襲もかくあらん!
そこに割って入ったのがヒロイン、マリア。手取り足取り、ゴジラに社交ダンスのステップを仕込みます。
♪アン、ドゥ、トゥロア、アン、ドゥ、トゥロア♪
かくしてゴジラの脅威を、個別的自衛権を行使することなく排除できましたァ…とさ。
サッと気分を変えて、2曲目半ばでいち早く盆へ。
満を持して3曲目は、透き通るような声でカントリー風バラードが続きます。
穏やかなアコースティック・サウンドに、ちょっと鼻にかかったような女性ボーカルがとけあって癒します。
流れるようなベッドで応じ、自ら気持ちを盛り上げて、しなやかなポーズ。
力まず、あるがままの立ち姿に後ろ姿で魅せて、きれいにまとめます。
3.小宮山せりな 「施す」
カリカチュアされたキャラクターを線画で白い背景に描いた、絵本の中の世界。
余白を埋める想像力が、とどまることなく広がります。
ワイルド作の「幸福の王子」にも似たストーリー、しかし突き放した結末は教訓も悟りも追い求めません。
疲れ果てた主人公に、切株に成り果てた「おおきな木」は、自分の上に腰掛けるよう勧めます。
木陰を与え、果実を与え、伐採した枝葉を与え、製材用に幹を与え…
…それを簒奪とは呼ばず、施しと呼んでいいのものか、私にはわかりません。
その深い物語を、ジェスチャー豊かにコンテンポラーのように裸足で踊りあげます。
夏の草原を駆け回る少女は白いワンピース姿、木の精霊の仮の姿です。
アコースティックのギター・デュオが、せつなげな旋律をむせび啼くように歌い上げます。ジェスチャーと表情づけで、曲想を忠実になぞります。
2曲目は心地よく響き渡るピアノに、パーカッションが花を添えます。
花道から盆に駆け込んだ瞬間に、ピアノが1オクターブ駆け上って、ベッドへ入るメインの背中を押したかのようでした。
続くベッドは、瞑想的な詞で語りかけるスローバラード。
一人称で彼の記憶を回想しながら、目の前を飛ぶほたるに自分の気持ちを仮託します。
彼との関係は清算して、気持ちもとっくに冷めたはず…、それなのに残るこの空虚な感じはなんなのでしょう。
「ほたる〜」と4回リフレインします。
3回目までは「〜舞い上がれ」と続けましたが、4回目には「〜鮮やかに心を焦がせ」と続け、本心を漏らします。
♪全てのときは一瞬だと〜♪
舞い上がるほたるの光に、劫火に焼かれた狂おしい心を重ねます。
ゆったりと流れる時間に身をゆだね、3,4回とポーズを連ねます。徐々に浮き上がるように、重心を上げていきます。
感極まったところで暗闇にフェードアウト。
闇に沈む寸前に、フッドライトのように盆の下側(裏側)から射す光が、乳白色に発光したままぼうっと消えていきます。
取り残された、せつなさを感じます。
4.有沢りさ 「陵辱する」
讃えよ独裁者、跪け愚衆ども…
太平の世、日本でないヨソのどこか、once upon a time…
残虐の限りを尽くした独裁者の物語、もっ、もちろん虚構のお噺を綴ります。
すっぽりと黒衣をまといベールをかぶり、快楽にむせぶ表情を隠します。
元のお噺では4人のやり手婆に、4人の権力者が唆されてサディスティックな行為に覚醒し、120の陵辱と拷問を繰り広げます。
今夜の獲物はあなたに決めました。
髪乱し、着衣ははだけ、伏せた顔に怯えた目。
苦悶に耐えきれず声を漏らせば、その声こそは天使の声ならん。
♪Fall on your knees,
O hear the angel voice
uh……… horrid voices!!
とかなんとかうそぶいて、スラッシュメタルでがなりたてます。
磔にされていた4人の生贄から、気に入られたひとりが剥がされて、引ったてられました。
おぞましい光景から立ち去ると、メインは表情を変えました。
シャープに引いたアイライン、厚塗りのルージュ、揺らすバスト、揺れるヒップ。
睨みつけるように威圧的な態度から、獣じみたしどけない姿態に熱い視線を集めます。扇情的で、なおコケティッシュで……
変幻自在に描く、牝の顔。
5.柏木由紀奈 「慰めを与える」
開放的なムード、土俗的でスリリングなリズム、異国情緒あふれるジプシー・ダンスです。
メインに、バックダンサー2人、踊り子2人を加え、ステージ全体を使います。
ウエストをキュッと絞ったフラメンコ衣装で颯爽と。
バックダンサー2人は堂々と、胸をそり、肘を張り、肩をそびやかし、躍動感あふれる動き。
踊り子2人は軽やかに、腰を泳がせ、スカートの裾をふわりと翻し、片手でタンバリン振りながらいなすような動き。
対照的な2組4人に挟まれて、ジプシー娘のエスメラルダはどこか飄々として、どちらの陣営にもつかず離れず。
始動が揃ってもシンクロは巧妙に回避して、自立性を保ちます。ただひとり、ポーを振り回して悠然と、お祭り騒ぎを楽しむかのようです。
ふたつの陣営は、上手に密集したり、W字の陣形を描いて横に広がったりと、予測し難いダイナミックな動き、それがかえってジプシー娘の自由奔放さを引き立てます。
ブラウンの髪に軽くウェーブがかかり、いきいきとした表情を引き立てます。
2曲目からメインはひとり、花道を隅々まで使いこなし客席の気を引きます。
3曲目は鄙びた感じの古風な舞曲でやすらぎを与えます。
終曲は野趣溢れるジプシー・スタイルのアコースティックギター・アンサンブル。
しゃがれ声で朗々と歌い上げるボーカルにのせられて、ダンサブルに。
アクロバティックなポーズを気前よく繰り出します。
煽って、燃焼して、一気に本舞台に流れて、タンバリンをキメて、去りました。
6.瀬能優 「夢を与える」
なつかしさをおぼえる「星の王子さま」。
愛らしいキャラクターで、バラの精とのメルヘンチックなデュエット。
瞑想的な楽曲に、神秘的な響き、触発され照明までもが幻想的な空間を広げます。
説明的な筋立てはなくとも、子供でもわかるシチュエーション。
王子はバラが好きなんだね。
♪The way you call me
the way you surround me
the way you breath
…… I remenber……♪
ささやく声で歌います。チューニングするような電子音に、ラジオの雑音のブツブツ途切れる音がかぶり、宇宙の広がりに身を置くような……
王子はもう1回ダンスを踊りたかったんだよ、きっとバラと…
そうだね、もう1回会えるといいのにね。
バラはねぇ……、王子の住むB612(小惑星の名)には、赤いのしかないんだよ。
ステージは背景では、カスケード状にまっ青な光が、縦に走査線のように走ります。
止まったままのミラーボール。青白い光線をサイドから当て、反射した光でもやもやと立ち上ってオーロラのよう。
その夜空が暗幕に隠れ、バラの赤さながらの、裾の長いベッド着で、裸足のまま献身的に踊ります。
さっきは光が揺らぎました。
今は2曲目のボーカルがファルセットのたびに揺らいでいます。
ロマンチックなメロディが、壮大なオーロラの眺めを連れてきます。
五感に訴えるプラネタリウム。
メインは赤いベッド着を気ままに揺らし、曲の旋律を活かしてフリースタイルで踊ります。
優雅な裾さばき、機敏な動き。
たたみかけるように連なる曲のフレーズにノリまくり、飛翔するよう。
7.灘ジュン 「愛を捧げる」
小劇場のように、暗がりをスポットライトが裂き、寝台の上で寄り添うふたりを浮かび上がらせます。
軍服の男、黒のボンデージに黒光りする編み上げブーツの女。
地べたを這うようなベース、ヒステリックなギター、ぐずるように刻むドラムが、謎めいたムードを盛り上げます。
主人公を遠巻きに取り囲む4組の男女は、花嫁衣裳と黒子の組み合わせで、マリオネットのパントマイムを延々と続けます。
一幕物の心理劇は、日常を切り取ってきて見せつけるように、重いテーマさらりとこなします。
睦言〜〜嘆願〜〜動揺〜〜拒絶から逡巡へ〜〜
’I am yours. Do anything you want me to.'
〜〜鞭が炸裂。
ことをなし遂げ、女は立ち上がりました。
毛皮一枚をバスローブのように羽織り、寝台ごと移動台で本舞台から花道半ばへ。
♪I keep crying.♪
この一言を合図に、動く移動台の後ろで幕が閉まります。
3曲目のバラードは突き抜けた明るい感じで、場の空気をがらりと変えました。
寝台を降り、花道を歩みます。
♪ダイヤモンドとパールをあげるよ…♪
キラキラとしたゴージャスな曲に浸り、耽溺的なベッド。
終曲はスローに、イントロからドラムがタイトに…、メインの指がしなやかにスナッピングで応じます。悪夢もこれで覚めましたでしょうか…
女性ボーカルが力強くシャウトしたところでポーズ、そして立ち上がりへ。
移動台上でオーラを解き放ち、まばゆい光を浴び、光の海に吸い込まれていきます。
8.フィナーレ
灼熱の赤で揃えたコステイロ、背負った7人が楽しげに。
ぴんと伸びたおみ足が、サンバシューズで引き立ちます。
バックダンサーは洒落た男装で、アクロバティックに踊ったり、コミカルな演技を織り交ぜたりして大活躍。
整然と隊列組んで、ステージを横切ったり、2列で交錯したり。
歓声を受けて幕が閉まる瞬間、名残惜しさを覚えます。
以上
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