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[7973]10中・結 源氏物語
=八卦(関東)
=17/01/14(Sat)21:01


敬称略です。



1景 藤壺  小野今日子

霧が晴れるようにやわらかな光が満ちてきて、闇を払います。
茫洋とした雅楽の音があたりを包みます。
ステージ中央に藤壺が姿を現します。
白地に明るい藤色を合わせた正装で威儀を正します。
すがすがしく、自然とあふれる色香は
5歳下の光の君をとりこにしてしまいます。



今は亡き実母桐壺の宮の面影を重ね合わせ、
光の君の『おねえちゃん』だったのでしょうか。
いとおしさも過ぎればアダになり、
運命を狂わされて色情地獄に突き落とされます。



すっくと立った藤壺のその姿、しとやかな立居振る舞いは、
そうした原罪を想像させません。
ただひたすらなまめかしく、イノセントな雰囲気をたたえて、
闇夜にしだれる藤の花のように咲き誇ります。



2景 空蝉  観月奏

ゆるやかなロック・バラードで幕を開けます。
はかない命をメランコリックに歌い上げます。
細く切り裂かれたスカートをまとい、裸足、トップレスでバレエのステップ。
張り裂けそうな心の内を訴え感情移入。

‘without you……’

君はいなくとも思い出を胸にして、歌い続けるよ。
痛切な想いをつづるボーカル。



曲は詠嘆調から転じて、直裁なメッセージへ。
打ちひしがれ、苛まれ、それでも君を放したくない。
技巧的なステップから、身を沈めてスプリット、
はじける笑顔で一目散に本舞台へ駆け戻ります。
抜け殻を脱ぎ捨てるように、はらりと着衣を落とし、
幕を閉めました。



3景 夕顔  高崎美佳

何も見えない。お互いを知らない。
耳元に熱い吐息を感じるだけ。
ゆきずりの恋、一夜だけの炎。
あたしは過去のしがらみから解き放たれました。
苦い記憶も消しました。
リセット、リスタート。
・・・懺悔の2文字を「刹那」に換えて。



半暗がりのステージ、レンブラントのような逆光の効果。
ミラーボールの遥か上の4灯を灯しては消し、
その下の2灯をボンボリのように灯します。
ゆるやかなテンポでロック・バラード。
はかない命をメランコリックに歌い上げます。

‘You don’t have to put on the red light.’

平安貴族のシルエットダンス。
恋の快楽に溺れるふたり、悲劇的な結末をいとわず死の舞踊へ。



雅なチェンバロの響き、R&Bのねっとりしたリズム。
白いベッド着をするりと脱いで、すらりとした姿態を覗かせます。
夕まぐれに咲きほころぶ夕顔。
一夜をかぎりに、はかなくしぼみます。




4景 六条の御息所  藤月ちはる

‘おぉ、運命よ(全合奏、合唱)’
マントを羽織り、顔をうずめる5人の立姿。
翼のようにマントを広げます。
‘月の満ち欠けのように〜
  Crescis aut fecrescis ’
阿鼻叫喚のように響き渡ります。
一瞬、背景がかっと燃え上がり、5人は血しぶきを浴びたように真っ赤に染まります。

カンタータを用いてドラマチックに展開します。
ラテン語で語る盛者必衰の教え、仏教的無常観。
六条の御息所は御所で微妙な位置におられますが、そのことを暗示するのでしょうか。



世間体から抑え込んだ欲求ですが、
光の君との恋を一度は開花させ、恋のエネルギーを一挙に開放します。
恋に身を焦がし、見限られては嫉妬に身をやつす女の性。
暗転後、舞台上にひれ伏す姿、表情を消し憑かれた眼差し。
空をつかむ右拳、力をこめた指が被害者の喉元に届きます。



精神のバランスを危うく保ち、夜叉の相でベッドを演じます。
一転して移動台戻りでは、やすらかな表情を浮かべます。
カミの御許に迎えられ、魂の浄化を果たします。



5景 若紫  早瀬ありす

幼いやんちゃなふたりをほほえましく眺めます。

いぬきったらあたしの雀を逃がしちゃった。
今度はあたしのお人形を横取りするの、
いぢわるぅ、えぇ〜ん

取り合いしたお人形さんをほっぽりだして遊びにいったふたり。
ところが「人形」にちなんだバレエ曲がかかると、あぁら不思議。
人形は自立歩行、若紫ちゃんといっしょに優雅にワルツを踊ってみせます。

 ’タラッター、ラッタ、ラッタター、チャラリラリラリン♪‘

やんちゃ盛りでいくつになってもお人形さんを手放せない若紫、
しとやかで聡明な紫の上(7景)の面影は、まだ見てとれません。
光の君を兄上のように慕ってすくすくと育つ若紫。
そんなキュートな魅力を笑顔に託し、
ポーズベッドの合間にかわいらしいしぐさをちりばめます。



6景 朧月夜  大見はるか

品のいいローズピンクのドレスに、とさかと尾羽根の羽飾り、
白い羽毛が華やかさを引き立てます。
流麗な動き、フロアをすべるような足捌きでしゃなりしゃなり。
背負った羽飾りに振り回されずにターン。
耳ざわりよくアレンジされたスタンダード・ナンバー、小粋です。

2曲目、対照的に活発に。

‘Beat of my heart!’

光の君に偶然お会いしたあの日、あのときを思い出すたびに、
胸の鼓動が収まりません。

ノリノリで、満面の笑みで盆へ。
手にした扇をさっと開き、あおる、かざす、口元を隠す。
身分を伏せての逢引は甘い経験でした。
名乗ることなく交換しあったその扇は、恋の戦利品。
高揚する心をカントリー調の曲が引きたてます。
バンジョーがつまびかれ、スティールギターがさざなみを立て、
隙間を縫うように澄みきった女性ボーカルが飛翔します。
花道からステージへと戻りきり、お月さまのような笑みで照らします。



7景 紫の上  伊沢千夏

ステージ中央にどんと和太鼓を置きました。
光の君と紫の上がそれに寄り添います。
仲睦ましいふたりが・・・と、思いきや、
紫の上がいやがる素振りで身をかわし、
光の君の手を振り切って身を投げ出します。



紫の装束にはスリットが入っていて、太腿を晒します。
腰を浮かし、揺らしてベリーダンス、
足を左右踏み鳴らし、上半身を左右に揺すれば、
長い袂がつられるようにして宙にたなびきます。



バックダンサー8人による群舞が囃すように、
俄然、熱を帯びていきました。
ファンベールは、開いた扇の先より長いシルクの生地を垂らしたもの。
顔の前で小刻みに震わせれば、まるで熱帯魚のヒレのよう。
頭上で互い違いに振れば、1mを越すシルクに振動が伝わり、
飛天か龍か、雄渾にたなびいて群舞をする頭上の空間を埋め尽くします。



光の君は追いうちをかけるように、すりこぎ棒ほどもあるバチを握りしめ、
ここぞとばかり和太鼓に叩き込みます。
振動が空気を震わせ子宮に届くさま。
宮廷雅楽のようなのどかな響きにステージは満たされて、
なにか厳かな儀式に立ち合うような気持ちにさせられます。



花道上りはいわゆるカノンで、開放的な和音の響きが心地よく、
目の覚めるような菫色のお引きずりの打掛で盆へ上がります。
ポーズでのけぞり、右手を高く差し上げたかと思うと、スワンで左手を頂点に。
ここでの歌詞は、達観したような口ぶりでいて、実は迷いに迷って逡巡するもの。
・・・迷い、立ち止まらされても、きっぱり捨ててしまえない・・・
そんな‘たかが愛’さと、結びます。



8.フィナーレ

オーケストラをフィーチャーし、和楽器の音色を浮き立たせた合奏です。
管弦楽の厚い響きを尺八が切り裂き、渋く琵琶が歌います。
メンバーが赤色、橙色、黄色のベールを背負い、
両手で頭上に掲げ、波打つようにひるがえします。
横一線に並んだり、横走りでステージを横切ったりとダイナミックな動き。
個々にはシンプルな振りも全員一丸となれば、寄せて返す波のよう。
凛として潔いエンディングを迎えます。




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