Cheiropyge(Suturikephalion) saijoi
ケイロピゲ サイジョウイ
西城祐一採集
胸尾部の上に遊離した頭部が付いていた。
胸尾部は側葉の中程に突起を確認出来る唯一の標本。
Subfamily Brachymetopinae ( ブラキメトプス亜科 )
ペルム紀叶倉統岩井崎階
気仙沼市月立字表松川石切場跡
  
それは奇妙な形をした三葉虫だった。私の許に標本を持ち込んだ西城祐一自身、これが三葉虫
なのか否か半信半疑だったようだ。確かに三葉虫の尾部らしい形をしてはいるが、Pseudophillipsia
Ampulligrabella を見慣れた目にはやはり奇異に見える。腕足類の一部にも見えないことはなかった。

 私はそれを三葉虫だと確信し西城に告げた。ところがこともあろうに西城は、今度は疑いの目を私に
向けてきたのである。それほど Cheiropyge が奇妙な三葉虫だったのか、それとも日頃の私の行いが
そんなに悪かったのか(爆)は とりあえずおく。私は西城を伴い市図書館に向かった。

 当時気仙沼市図書館の司書をしておられた荒木英夫氏は、OCHOBblを繙き これをCheiropyge
himalayensis
の近似種と同定された。Cheiropyge は中央ヒマラヤ.アラスカ.ロシアなどから
ごくわずかに知られているが、いずれも部分な標本に過ぎないようだった。

 Ditomopygeの探求が一段落していた頃でもあり、ここに新たな目標が生まれたのである。
しかし私は焦らなかった。Ditomopyge に関して成果を得るために一年以上も費やしているだけに、
今度も長期戦になるだろうと踏んでいたのである。

 西城が再び私の家にやってきたのは、それから何日もしないうちだった。しかも今度は明らかに
興奮していた。私に見せたのはCheiropyge の完全体だった。予想外の展開に私も慌てた。
早速、西城の案内で訪れた産地はDitomopyge を追っていた露頭の更に上にあった。
そして、そこにハンマーを入れるとこれまた予想以上に多くの標本を得ることが出来たのである。
その日を含め数回の採集行で頭・尾部を中心に若干の完全体を含めて50個を越えるCheiropyge
十数個のAmpulligrabella  が掘り出されたのだ。

 Cheiropyge の完全体は世界初だった。モノグラフの記載に西城の名は無い。しかし西城なくしては
この発見は未だ成し得ていなかったかも知れない。だからこそ私はこの三葉虫をC.saijoi と呼ぶのである。


【追記】Cheiropyge は近年、上八瀬他でも産出が認められている。その産出層位は落合層下部
(叶倉統下部)とされ、叶倉統上部から産出している本種とは時代的な隔たりがある。
よって同一種とは断定は出来ないが、落合層下部からは他にAmpulligrabella sp.  
Neogriffithides sp.  ,Nipponaspis? sp.
が産しており非常に興味深い。(未確認情報)
2004.7.4


【産地情報】表松川


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