1.Guy Clark
/ The Dark ( Sugar Hill 1070 ) ここ数年コンスタントにアルバムをリリ−スし、決して駄作のない安定したアルバムを世に送り出しているGuyの新作。
毎度の事ながら「昔語り」の老人のような枯れた味わいには、ポッと出の新人には絶対ないものだ。「Old
Friend」以来、Verlon Thompson, Darrell Scottらのチ−ム・ワ−クもバンドとしてのサウンドが確立されている。本来、地味な人なのだろう。「Old,
No1」なんて後世に残る大名盤を送り出した後の世間の評価も気にせず飄々と世を渡ってきたような観もあるが、どうしてナッシュビルでは「重鎮」である所が、案外この人のしたたかさを垣間見せているようではある。新作も変わらずよい。
2.Steve
Forbert / Any Old Time ( KOCH 8400 ) 映画「O Brother」のサントラ盤の成功からか、最近「ル−ツ回帰」指向のアルバムが目につくのだが、これもその一枚と考えてよいだろう。僕にとって久しぶりのSteveだけど、彼の中に「Jimmy
Rodgersを歌う」背景があったとは浅学非才故、知りませんでした。(そう言えば、以前ガスリ−の「This
Land Is Your Land」をJack Hardyと歌っていました)。
とは言え、このアルバム彼の「古き良き時代を辿る世界」は案外成功している風で、面白い出来なのだ。彼本来の野太いしゃがれ声が、スネアやアップライト・ベ−スの音とよくマッチしていて、その昔のRamblin'
JackのMonitor盤なんてのを連想してしまう。然し、苦言。Jimmy Rodgersと言えば「ヨ−デル」だ。これだけは、「も一度お勉強!」
3.Diane
Zeigler / Paintbrush ( no number, no lavel ) デビュ−以来「凛」とした歌声が気持ち良いダイアンの公式には3枚目(実質4枚目)のアルバム。私生活では夫と子供にも恵まれ、何不自由ない家庭生活はこの花に囲まれた野外で撮影されたジャケ写真の満面の笑みから充分伺える。
ラウンダ−25周年のカタログの表紙カバ−を飾り、同じ頃かのカ−ビルで新人としては破格の扱いを受けた彼女。CDとしてはリリ−スされなかったカセットのみの一作目には、当時の才気溢れるばかりの彼女が等身大で映っている。次作は、その作品にバックを付けた公式に相応しいアルバム。前作は、アルバム作りが前提にあって作られたような消化不良気味の感じがあったが、今回は、アイリッシュやザディコといった香辛料も適度には振りかけてはいるものの、曲が進むに従い「いつもの彼女」が顔を覗かせてくれる。安心出来る一枚には違いない。
4.Dave
Carter with Tracy Grammer/ When I Go ( Signature Sounds
1272 ) これ又カ−ビルから出てきたDaveとTracyのユニットの3作目にしてラスト・アルバム。
Daveの死亡記事は各フォ−ク誌に記載されていたのでここで取り上げる事もないが、一口で評すれば「アメリカン・トラディショナル風味のコンテンポラリ−・フォ−ク」に尽きると思う。Daveの死が今になれば象徴的なタイトル曲では、彼のフレイリング・バンジョ−にTracyのフィドルが艶やかな音色で絡みつく。一枚目ではDaveとTracyは対等の立場であったが、Daveのソングライタ−としての比重がこのチ−ムで重くなりはじめた頃から、Tracyが一歩下がる立ち位置に変わり始めた。その頃から、より「トラディショナル風味のコンテンポラリ−・フォ−ク」と言った風になった気がするのだが・・・・・・この辺り聴いていると、棚からNew
Lost City Ramblersのアルバムを取り出してしまいそうだ。
6.Nancy
Lee Baxter / Touch & Go ( Harvest Moon ) 親友であったPhil Ochsへの追悼曲が収録されていたTom Paxton「Heros」に参加した事でその存在を知り、又、80年代にはNYで産声を上げた「The
COOP / The Fast Folk Musical Magazine」に参加した事で、一部フォ−ク・ファンにその存在を知られたNancyの初ソロ・プロジェクトである。それ以外の経歴は全く知られていないが、人生経験を積んできた女性ならではの落ち着きと余裕が歌声からも充分感じ取る事が出来る。
冒頭の自作の「Harvest Moon」なんぞ良い例だ。丸味を帯びた歌声からは安息の日常を送る様子が伺える。自作、共作、カ−ビルの常連Dana
Cooperの作品からなるアルバムだが、録音はナッシュビル。東海岸フォ−クのノウハウもあすこに行けばあるのだろうか?
7.
Townes Van Zandt / A Gentle Evening with T V Z ( Dualtone
80302-0119 ) 底知れないリスナ−としての欲望の結論は、「シンガ−には死んでもらおう」という所だろうか?Townesが物故してから、随分と時間が経過した気がするが一向に冷めやらぬ彼のアルバム・リリ−スである。今回は、デビュ−間なしの69年にカ−ネギ−・ホ−ルで行われた所属レ−ベル・シンガ−のセットライブでのTownesのライブが発見された。さすがデビュ−して日も浅く、大舞台に慣れていない初々しさも随所に顔を出す、無論、当時は酒で荒れた声帯を披露する事もない、晩年の歌声では想像も出来ない彼の当時の姿が、この一枚に収められている。
さて、冒頭の言葉「いつまでも歌い手の歌を聴き続けるには、生きていてもらわないと困る訳だが、死んでくれないとお蔵入りの音は先ず聴く機会は巡ってこない。」音源の権利関係もあるだろうが、「死人に口無し」で、ここ最近John
Hartford や John Duffyの例でも知られる通り「未発表作品」のリリ−スが多い。無論、Townesとて例外ではない。これは、その端的な例ではあるまいか?
8.Mary
McCaslin / Rain - The Lost Album ( Bear Family 16232
) 西海岸フォ−クを語る時、屡々出てくる彼女の名前。それを証明するかのようなアルバムが今頃になって「突然」出てきた。
その経緯の詳細は添付されたブックレットを手にして頂くとして、選曲の興味深さ。自作以外はビ−トルズ、マイケル・ネスミス、レナ−ド・コ−エン、ルイス&クラ−クとしてのマイケル・マ−フィ−、バ−ト・ヤンシュ。録音は67年から68年にかけて行われたと伺わせる参加スタッフは制作には、かのニコラス・ベネットを筆頭にバ−ニ−・リ−ドン、ダヅ・ディラ−ド、リック・ク−ニャ、ア−ル・パ−マ−、デビッド・コーエン等。「そそられる」選曲と人選ではある。この時代の音楽に今も関心のある方にはマスト・アイテムの一枚だろう。
9.Rick Robbins
/ Walkin' Down The Line ( Seeds Of Man RR00197CD)
Arlo Guthrieの幼なじみ、Arloの15才の頃には二人して父親とCisco Houstonの足跡を辿った事もあると言う男。これだけの材料で食指の動かないフォ−ク・ファンがいるだろうか?
果たせるかなそのArloと当然Ramblin' Jackも録音に参加。何故か、往年のGuthrie Thomasを彷彿とさせるデビュ−のしかたではあるが、あの頃と現在の時間的な落差を感じないではいられないほど、誰も騒がないのは何故?録音にはJohn
Sebastian,Eric Weissberg, Larry Campbell。プロデュ−スにはJohnの嘗ての恋人Rory
Block。2作目「Don't Deny My Name」には、かのGarth Hudsonも参加。当然「良い!」
10.V,A
/ Banjoman ( a tribute to Derroll Adams ) ( Blue Grove
1420 )
Derrollが亡くなってもう2年近く経過した訳だが、生前から「ミュ−ジシャンズ・ミュ−ジシャン」として敬愛の対象だった人だけに、いずれはこの企画は出てくるだろうと思っていた。企画、制作はArlo
Guthrieと現在オ−ストリア在住のホワイト・ブル−ス・シンガ−(Eric Von Schmidtの影響が色濃い男だ)Hans
Theessink。
Derrollの作品は、「禅」の影響を深く受け、日本の「俳諧の世界」にも通じるようなシンプルなそれでいて奥深い歌世界を作り上げているのだが、その作品群を、嘗てRamblin'
Jackと共に欧州に「アメリカン・フォ−クの種」を蒔いて、その種を大事に受け取って大切に育てたRalph
McTell、 Wizz Jones、Allan Taylor、Tucker Zimmerman、何故かDolly
Parton、当然のRamblin' Jack、 Donovan、Happy Traum、Arlo Guthrie等が歌っている。60ペ−ジに及ぶブックレット、装丁も豪華。現在、入手先が企画制作したArloとHansのHPのみ、というのが残念だ。因みに、小生はHansから入手。このアルバムで最初にアプロ−チしてきた日本人はお前が最初だといわれた。調子にのってT-シャツも購入。駄目な私、はい。