メカニカルスイッチの長所

 たいしてキーボードに興味がない方でも、上質なメカニカルスイッチのキーボードを一度使ってみれば、その良さが分かると思います。

 一般的に市販されている物の主流を占めるキーボードはメンブレンスイッチという物を使用しています。 これは現在メーカー品などに標準的に採用されているキースイッチで、構造が単純ゆえに安価なのでキーボード市場の圧倒的主流を占めています。 しかしメンブレンスイッチ採用のキーボードというのは、その構造上キーを一番下まで押し下げないとスイッチが入らないという欠点があります。(一部例外を除く) だから底までしっかりと押してやらないと文字が入力されないので、底突きの反発で指に負担がかかるのです。

 でもメカニカルスイッチの場合はだいたいキーストロークの半分くらいでスイッチが入るので、底まで押し切らなくても入力が可能なため、流れるようなタイピングをしても指使いさえ間違っていなければミス入力が起こらないというわけです。 慣れてくると底にほとんど達しないように手加減して打てるようになってくるので、指に対する負担が大きく下がります。 それに力の入れ加減を誤って底付きをし損なった、いわゆる「空振り」を起こしたとしても、メカニカルならばたいがい入力を認識してくれますので問題がないというわけです。

 また、メンブレン式のキーボードコントローラは同時押しのキー認識数が3以下の物がほとんどですが、メカニカルは押す位置にもよりますが5〜10個くらいの同時押しを認識してくれますので、ゲーム用途などでも大きな利点となる特徴もあります。(無制限の物すらもある)



「考える」ことを邪魔しないキーボード

 メンブレン式を使っていた頃は無意識のうちにぐっとキーを押し込んでいたのに、メカニカルキーボードでは軽くぽんぽんとキーの表面をなでるように叩くだけで文字が次々と入力されていくので疲労度がまったく違ってくる! ワシの場合はミス入力の減少、指への負担の減少、打鍵速度のアップなど、すべてにいい影響が出たんですよ。

 これらの特性を生かしたメカニカルスイッチというのは「考えることを邪魔しない」っていうのが一番の利点でもあります。 打鍵のミスが少なくなればなるほど思考を中断して打ち直すことが少なくなるので、次々と考えを形にしていくことが出来ます。 小説とかを書いたりする時にはこういったことが非常に重要になってくることでしょう。 それと打鍵時に手に負担がかからなければそれだけ疲労が少なくなり、思考に集中しやすいって事になります。



でも、現在主流なのはメンブレン…。

 メカニカルは性能・品質面でメンブレンに勝っておりますが、高価・複雑な構造であるがゆえにパソコンメーカーから敬遠され、また最近の低価格化傾向に引きずられて、パソコン付属キーボードは真っ先にコスト削減の対象になってしまっているというのが現状です。 良い物を買おうとするならメーカー付属製品はまず避けて、単体で売っている物から選択するしかないというのが現状です。 …それでも90年代前半頃までにはそれでも良い物がメーカー製品にもラインナップされていたんですけどね。 たとえば昔のApple Computerではキーボードをあえて別売りにして、高品質高価格なメカニカルキーボードと安価なメンブレンをユーザーの判断で選択させるようにしたりするなどの対策を取っていました。 …でも最近ではどのメーカーもほぼ壊滅状態です。 CPU速度のように分かりやすい「数値」でユーザーに訴えることができないのが一番のネックなのでしょう。



キースイッチごとの長所と短所

メカニカルスイッチ
 昔ながらの金属電気接点スイッチを配したキーボードスイッチ。 100前後もあるキーひとつごとに独立したスイッチが存在するために部品点数が極めて多く、また製造には高度な技術が要求されるために量産には手間がかかり、それゆえに高価である。 最近は安価なメンブレンキーボードに押されてしまい、市場では高品質の新製品を見ることは少なくなった。
長所
★タクタイル感やクリック音の有無、反発力の重さなどを豊富な種類から好みに応じて選択することができる。
★特定のキーが破損した際に、その部分だけのスイッチを交換することによって修理が可能。
★ストロークの中間付近で入力を認識してくれる物が多いので、最後まで強く押し込む必要がなく指に優しい。
★メンブレンキーボードよりもスイッチの耐久性が高い。(メーカー公称で2〜5千万回打鍵、一部の高品位スイッチは1億回ともいわれている)
短所
★良いものは最低ラインが1万円で2〜3万円クラスも珍しくない。 1000円程度からでも多様な選択肢のあるメンブレンと比較すると高価。
★コーヒーなどをこぼして浸水した場合に破損してしまう確率が高い。 分解洗浄も可能だが部品点数が多いために非常に大変。
★メンブレンと比較して動作音がうるさい。 ノンクリックタイプの物でも底付きの音はしてしまうので、とにかく静かな環境を求める場合には少々辛いかも。

メンブレンスイッチ
 構造が単純なために大量生産に向いているし、なにより安価なため最も普及している形式。 しかし粗悪な物が多く、著名なメーカー製品といえども一部の良品を除いて耐久性・信頼性は低い。 よく文字を打つ人の場合には1〜2年で使いつぶすことも多いようで。 反発材にはスプリングではなくラバードーム(ゴム製のお椀のような物)を使用している物が大半を占める。 NMB(ミネベア)など良質なメンブレンキーボードを製作しているメーカーもある。 ただし残念ながらNMBはメンブレン最高峰との評価を得ていたRT6652TWJP(CMI-6D4Y6)の生産中止を2005年に決定している。 メンブレン方式の詳細についてはこちらが参考になると思います。
長所
★価格が数百円から数千円程度と、とにかく安い。
★スイッチ部分が事実上三枚のシートのみという単純構造ゆえにメンテナンスがしやすく、事故で浸水してしまっても分解洗浄すれば使えるようになることも多い。
★低価格のためか市場には潤沢に品物が出回っている上に、形状や配列の選択肢が非常に多い。
短所
★メカニカルと比較して耐久性に欠け、接点の劣化による誤入力が発生しやすい。 寿命は通常メーカー公称で平均200〜500万回打鍵程度、質の良い物でも最大1千万回打鍵程度といわれている。
★キーストロークの最後までしっかりと押し込まないとキースイッチを認識してくれないものが多く、指に負担がかかり非常に疲れる。
★一部製品を除いてコントローラーに安物を使用している場合が大半で、複数同時打鍵時に機械的なミス入力を招くことが多い。
★そのスイッチの特性上、ゲーム用途などの押しっぱなしにしていることが多いような使い方の場合、メンブレンシートが加熱し焼損するなど劣化が激しい。

静電容量スイッチ
 基板に設けられたセンサーのような部分に電気伝導体を近づける(接触はしない)ことによって生じる電位の変化を読み取ってスイッチを入れる非接触型という珍しいスイッチ。 物理的な接点という物が存在しないためにスイッチ自体の耐久性や入力信頼性は非常に高い。 そのメカニカルをしのぐほどの入力精度から、高い確実性が要求される銀行などの高級業務用端末に使用されることも多い。 しかし、メインの反発材にスプリングではなくラバードームを使用している場合が多く、この部分の耐久性によってはキーのヘタリや打鍵感覚の変化が早くに生じるという問題点もあり、タッチの変化を気にする人には向いていないとする意見もある。 この方式を採用しているキーボードには東プレのRealForceシリーズやKeytronicの一部モデルなどがある。
長所
★耐久性が高く構造が単純なためにメンテナンスしやすいのに長寿命のスイッチ(3千万回打鍵程度)と、メカニカルとメンブレンの良い部分をあわせ持っている。
★メカニカルスイッチのようにキーストロークの中間点ほどでスイッチが入る構造になっている物が多く、底打ちしなくても文字が入力できる。
★スイッチが無接点方式のためにチャタリング(接点部の摩耗からショートのような現象が発生して1回の打鍵で何度も文字が入力されてしまう事)が原理上起こらないために入力信頼性が非常に高い。
短所
★スプリングに相当する部分に通常メンブレン物と同じようにラバードームを使用しているものが多いために経年変化によるタッチの差が出てくる。
★外観的には単純な構造であるとはいえ、特殊な方式ゆえに汎用性が無いため非常に高価。
★この方式を採用しているメーカーが極めて少なく、配列や言語などの選択肢が少ない。

ラバードームスイッチ(通称? 正式名称は不明)
 ラバードームスイッチは基盤のパターンの上にゴム製のお椀のようなものをスプリング代わりに載せてあるもの。 そのゴム椀の内部に電気伝導体が仕込んであって、これを基盤に押し付けることによって導通させる。 メンブレンスイッチのようにラバードーム部分がスプリングの代用というわけではなく、それ自体がスイッチも兼ねているのが特徴。 主にコンパクトタイプのモバイルキーボードや丸めることの出来るような軟質のキーボードに使用されている物で、どちらかというとPCのキーボードよりは主に携帯電話、ビデオ等のリモコン、ゲームコントローラーなどに多く使用されている。
長所
★価格が数千円程度と非常に安価。
★構造が単純でメンテナンスがしやすい。
短所
★耐久性が低い。
★入力確実性が低く、打鍵時にしっかりと底打ちをしないと入力ミスが頻発する。

タッチパッドスイッチ(通称? 正式名称は不明)
 FingerWorks(2005年に企業解散)のTouchStreamなどに採用されている特殊なスイッチ。 ちょうどノートパソコンのタッチパッドのような物が大きな板一枚になっているような物と考えるといい。 その一枚板の盤面にキーパターンがプリントされていて、そこに指を乗せることによって入力を認識させる。
長所
★板に指を乗せるだけのために打鍵時にまったく力がいらないので、ゼロフォースキーボードとも呼ばれるほど楽。
★TouchStreamの場合、キーボードの盤面自体がノートパソコンのタッチパッドと同じように使えるためにキーボードとマウスとの統合環境としても使用できる。
★独立したキーやスイッチが存在しないために耐久性に優れ、小型軽量コンパクトにできる。
短所
★特殊な物のために生産しているメーカーが1社しかなく、それゆえにかずば抜けて高価。
★キーストロークがない構造のために打鍵時に入力を知覚することができず、慣れないうちは非常にミスタッチが多くなると言われている。