[戻る]
[7912]浅草1月前半
=八卦(関東)
=11/01/08(Sat)10:57




敬称略です。


0.三番叟(灘、仙葉、沙羅) 〜3日まで

 “新年あけまして〜”の口上から、三つ指揃えたスタァ3人が、面をあげました。
 やおら立ち上がり、神楽に見立てたテンポのよいロック調の曲で、きびきびと踊りだします。
 剣先烏帽子、薄手に透ける直垂、黒地に梅が枝をあしらうお引きずりの着物。払うように扇をしゃしゃんと振れば、左袖を内向けた梅の柄と、右袖を打ち向けた黒の無柄が、袖振り合って対置され、赤地の裏地もちらり垣間見えて、カラフルでモダンなアクセントをつくります。
 擦り足に片足立ちに、つま先立ちと、優雅ななかにも忙しく。かしこまった表情も険しく緊張した面持ちで。
 金や銀の舞扇に、“鈴なり”の鈴をしゃんしゃんと、タンバリンのジングルのように高く澄んだ音をたてれば、邪鬼を払い精霊を迎える効能もあらたかに、厳かな神事もピークを迎えます。



第一部
1.空まこと

 エタ・ジェイムスばりのソウルフルな歌声に感化されて、一念発起、夢に向かう旅へ。
 アメリカン・サクセス・ストーリーの始まり、始まりぃ〜
…ってなもんで、いっぱしの活動弁士気取りで書きたくなる気持ちを、どうぞ察しておくんなせぃ。
 幕前で劇場の楽屋風景を寸劇に仕立て、いざ出陣? ぉおっと開幕へ。
 派手な電飾(久しぶりの大道具 きらびやかで安っぽい感じが上出来です!)、
 迫力あるサウンド(活気あるドラミング、のっけからワクワクしっ放し!)、
そして気前よく9人も引っ張り出して、まばゆい電飾の金字を背景に銀ラメのショウガールたちの狂喜乱舞。
 セクシーで、エネルギッシュで、ときに猛々しく野生的。
 なかでもひと際エネルギッシュな3人が花道上りを寄り添って、ミュージック・クリップの大写しのシーンのように、重なり合い、触れ合い、自らボディタッチを繰り返すダンスでセクシーさを強調します。
 ベッドには白いブーツのままで、ハードロックにラップにと大活躍。
 火を点けた興奮の冷めやらぬまま舞台を後にし、2景のポールダンサーとすれ違います。物語はフロア・ダンサーの哀しみを描き、舞台は切れ目なく2景に引き継がれます。



2.彩音しゅり

 無関心、モノを見るような興味本位の視線、はたまた退屈しのぎのチョッカイ…
 日銭仕事のショウガールには、ありふれたワンシーンです。
 エロティックで扇情的な曲をバックに、メインがひとり黙々とポールダンスを続けます。
 その脇で、3人に配役を振り芝居を打たせて、小道具まできちんと揃えて情景描写。メインの心理に踏み込みます。
 
 胸の内では、徒労感、挫折感が頭を持ち上げますが、葛藤から克服へ、さまざまな思いが駆け抜けます。
 それでもショウ(演技)は続けます… と決意にも似た歌詞が聞こえ、心に重く響きます。精神的高揚を迎えてベッドから立ち上がり、花道戻りに余韻を残します。



3.かんな

 3つのパートに分けて場面転換を重ねます。
 まず2曲はバーレスク讃歌、歌い手が自ら書いた曲を、思いを込めて歌っています。
 フィンガースナップ(指パッチン)、足踏み、忍び込むような足取りで下手袖よりダンサー達。深くため息をつくようにときおり休止をはさむリズム、スティックがシンバルをかすめ、華やかでセクシーなショウが、さぁ始まるというときのドキドキする緊迫感を伝えます。声量豊かに、張りのあるシルキーな歌声で、興奮をかきたてます。
 やがて哀愁を帯びたバイオリンの旋律に、深い声がからみます。チョッと見せますわね、もっとよく見たいって? じゃぁもう少しチップをいただけないかしらん…(ウィンク) 
 そう、言ったとか言わないとか。ベルベッドのようにつややかな声で、ウィットこめて囁きます。
 椅子をひきずり、しなを作って媚を売る、コケティッシュな姿態のショウダンサー4人。
 客の視線をからめとりながらも、どこか気のない冷ややかな表情は、前景の余韻でしょうか。

 続いては、幕前で黒子役のように、ピンクのうさぎの被り物のふたりが現れます。脱ぎ散らかされた着物を片付けているところをみると裏方さんなんでしょう。
 退屈しのぎに発声練習して、ディープなブルースナンバーをシャウトすると、あぁら不思議! 幕開けの呼び水になり、舞台がするすると開いて、本物のダンスシーンが始まります。

 前半のフィナーレがわりの、大人数によるノリノリのナンバー。
 憂さを晴らし、いっとき現世を忘れ、胸ときめかすこの瞬間。
 人格者も道徳家もなく、日常から解放された者が、享楽にふけり相好崩す瞬間。
 客席のエネルギーが入り混じって、るつぼのよう。
 喝采を浴びてメインのベッドは表情豊かに、チャーミングで魅惑的。
 花道戻りで後姿を見せながら反り返るポーズでは、その一瞬、電飾がいっせいに輝いて、蜃気楼のような夢を最後に彩ります。



第二部
4.仙葉由季

 メインとバックダンサー6人とを切り離して対比させています。
 6人はくすんだ灰緑色に茜色と、アーシーな色使いでスパニッシュ風の衣装、柔らかそうなフリルをなびかせます。
 その一方でメインは着物姿で、衝立の向こう側に立ちます。網戸のように細かい目のスリットを通して、液晶画面に大写しに映る画像のようにかすみます。
 さて、いったい何を始めようというのでしょうか?
衝立を左右に走らせ、衝立から逃げ惑うように踊り手を動かし、そのうえ踊り手を二分して、一方に和太鼓を担わせます。休む間もなく、バチを振るうか手踊りか…
 秩序正しいマスゲームとは対極の世界で、混沌から生成へと向かうダイナミズムを示します。
 過酷な群舞に続いて、花道・ベッドは穏やかな、なじみやすい安定感のある世界を築きます。黒の下着姿でSっぽくアクティブにムチを振るい、白地の襦袢を羽織って柔軟な静止ポーズへ。
 ベッドは、ソフト&メロウに。艶やかなギターがしたたるようにスライド奏法を、シンセサイザーが教会オルガンのように重厚な響きを奏でます。人工的な音の海に浸りながら、なぜか懐に抱かれたような懐かしさを覚えます。



5.鈴木ミント

 薄暗がりの舞台に蛍光イエローの衣装をフィットさせ、幕開けとともにパッと明るくしてやおら3人が動き出し、やけにフィーバーしてみせます。つとめて明るく、アイドル風パーフォーマンスにユーモラスな振付もごった煮で沸騰し、3人3様の感性でポジティブに振舞います。
 2分持たずに、あたし疲れちゃったのぉ、とばかり、音楽がクールダウンしたら3人揃ってふて寝して… チャージ完了したらさらにハイテンションでブレイク!
 メインが下手袖にはけて白いシースルーのベッド着に着替える間、残されたふたりのダンスバトルはデッドヒートへ。ふたり向き合い、鏡像関係のように振りの見せ合い、真似し合い、掛け合い三昧が手詰まりになるまで延々と。
 メインは楚々として下手から歩みだし、取り澄ました表情からチャーミングな笑みを時折こぼします。慎重なうえにも慎重さを重ね、やわらかく収めるポーズにも血が通います。



6.沙羅

 踊り手の技量を誇示するのも、この難しい景の目的のひとつかもしれません。
 静寂をフラメンコ・ギターが破ります。厳しく刻まれるリズム、耳から入ってくる音に即座に応え、7人が研ぎ澄まされた感覚で反応して、一糸乱れずに振りが揃います。
 シンプルにバーミリオンの衣装を揃えた7人による、精巧なアンサンブル。もちろん全体として振りはぴったり揃えていますが、ダンサー各人の個性は自ずと表われます。とりわけメインは、息の長いフレーズに合わせて振りで歌わせるよう、シャープでしなやかな動きが際立ちます。
 2曲目はたっぷり時間をとって、リラックして花道を踏みしめ盆へ進みます。たそがれるようなブルーやグリーンの光のなか、鮮やかなブルーのベッド着をまとい、メランコリックなベッドで癒します。
 立ち上がりからは、花道戻りを移動台に揺られて、おおらかにポーズを切って自由奔放に振舞います。



7.灘ジュン

 羽衣伝説を原型にして、無垢な童女に諌められた末に、優男が天女に引かれ、焦がれ、もつれた末に恋が成就して… と、ロマンティックな物語を紡ぎます。
 優雅に官女らの舞う別世界のシーンは、総員投入のフィナーレにまたがって、カーテンコールの間にもロマンスは進展していきます。
 ストーリー性を尊重して、軽演劇やコントでごまかさずに、羽衣ひとつにスポットを当てた象徴的な手法で、観る者の想像力を刺激します。

 天女姿のメイン登場、花道往復を挟んで、イメージビデオのような沐浴シーンがベッド。
 舞台奥から、そして盆の下から放つ澄んだブルーの照明のおかげで、明るい表情でのびのびした振舞がたいへんすがすがしく映ります。

 続いて優男と童女による、沐浴中の天女の衣の争奪戦へ。
 軽いタッチでドタバタ劇をコミカルにまとめ、スピーディーな展開の末、大団円。お互いの瞳を見つめあうカップルに …幸せそう。

 最後に、月を象徴する吊り輪(本舞台の巨大ミラーボールの手前)へ、ゴンドラのようにちょこんと腰掛ける天女の姿をフレームアップ。地上の優男達と切り離し、神格化された者としてカットぉ… ここは美化された映像的なイメージを最大限に利用します。

 最後にフィナーレへ。宝塚のようにゆったりとしたカーテンコールの直前まで、天女をさらに躍動し目を奪います。







[前へ]
[次へ]

[戻る]

- Light Board -