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[7913]若松5結
=八卦(関東)
=11/06/05(Sun)17:02




敬称略です


1.春乃はなみ

 水の変容をテーマに、曲、衣装、振付まで一貫したコンセプトでまとめあげた、すがすがしい作品です。
 せせらぎが流れて、乾いた心に沁み渡ります。水面に見立てたアクアブルーの布を、捧げるように両手で水平に持ち、奥ゆかしく下げて水面から顔を覗かせます。
 序奏が神秘的に響くなか、スポットライトが端整な顔を浮かび上がらせます。
 続く2、3曲目はおだやかなアコースティックっぽいサウンドで、規則正しいリズムを脈打つように伝えます。心地よいテンポを揺らさないままに、次第にアクセントを強め、音の輪郭を鮮明にしていくと、ステップも活気を帯びて次第に白熱していきます。水の流れは、緩やかなものから、奔流へ…
 青一色のロングドレスや髪にかぶせた羽根飾りが、次々と置き去られるように離れてゆき、その下から白一色の衣装が現れます。解かれた黒髪はさわりたくなるような、つややかな光沢を放って、腰のあたりまで届きます。
 ハープのさざめき、ピアノのささやきに、したたる水の音。
 急流を思わせるなめらかなターンを連ねて、花道を上ります。
 水流を象徴する青い布は、肌をなでるように、体の近くを通って振られます。
 盆では体にまきつかせながら、流麗なポーズを繰り出します。ピアノで、あるいはドラムで巧妙に波の音を写しとると、劇場はおおらかな音の広がりのまっただなか。ボサノバの心地よいに音に浸りきります。



2.酒井蘭

 創作着物は片袖のみ大きくゆったりと、膝上まで垂らします。赤地に白抜きのドット、そしてそれを反転させた生地を使って、明るくモダンで瀟洒なデザインです。
 歯切れのよいリズムに軽快なステップで応え、フレーズが揺れて音が途切れ途切れになるところで、ゆらりと体を揺すって大きな袖に振り回されるように動きます。朗らかに笑みを振り撒きチャーミング。
 対照的に2曲目は叩きつけるように激しいユーロビートに、ノリノリで押しまくります。4、5色の照明が入り乱れ、軌跡が交錯し、はじけるようにフラッシュをくらわせて煽ります。
 舞台中央の天井付近から7色に変化するレーザービームが瞬いて、気の狂ったようにミラーボールも回って、圧巻です。赤いミニスカートから生足を蹴り上げ、腰をうねらせて、ディスコのお立ち台のように、音に身も心も任せます。
 3曲目で灯を落としたように舞台を暗くします。ミラーボールから散乱する光が、幾筋にも分かれて銀の雨を降らせます。しずしずと歩く姿を支えるように、か細い女声でしみじみとコーラス、静まりかえった舞台をエコーで満たします。
 静寂の隙間をついて、2声の女性ボーカルに琴が優雅に合わせます。
 襦袢がはだけ、しごきは解かれて盆の上、乱れたままにしておかれます。伏し目がち、恥じらう面、手に捧げ持っていた花一輪を髪にさし、哀しげな目元、もの言いたげな口元。
 感情を引きずったまま、すっと立ち上がって舞台に去り、ピンスポットの丸い囲みから消える顔。哀しげで、泣いたとも微笑んだともしれないどっちつかずの表情で、はかなげな印象を残します。



3.白雪恋叶

 碧い海、抜けるような青い空、吸い込まれるように平和の使者の白い鳥が、「しま」の願いを抱いて高く飛んでゆきます…
 沖縄のイメージを彷彿とさせる民族衣装を使い、のどかな曲をメドレーで連ねます。
 朱の着物は紅型の染め、花鳥文様をちりばめます。血のように濃い朱を地色にして、イエローやグリーンの図柄を染め抜くと、燃え上がるように輝いて火照るよう…
 襟足をえび茶色で引き締めて、「しま」特有ののどかなリズムに身をゆだねます。
 2曲目は一転してメリハリをきかせたリズム、サンバのノリで激しい振り、切返しをシャープに、所作をアクティブに。黄色い地のはっぴのような衣装で、軽快でエネルギッシュに踊ります。
 花道上りでは、ぽつん、ぽつんと、爪弾く三線の音。軽いタッチのピアノが饒舌に旋律を歌うとき、三線はくさびを打つように音の流れを堰きとめて、渾然とした世界を作ります。
 シーツ大の布をまとい、なびかせながら盆へ進みます。布にはピンクの濃淡でバラの花をプリントしています。
 ベッドは見るからに癒し系。沖縄方言の、そしてまた民謡の、あの朴訥で独特な響きを声楽(クラシック風)に置き換えて、流麗なソプラノで鈴を転がすように歌います。歌のなかに埋もれた哀しみも、浄化されるよう。
 しなやかに反らした身、高々と上げる指先やつま先が天を指し、祈りを捧げるようにスワンで静止して、カミに、宇宙に祈ります。



4.チーム「ちまき」

 全体3部構成を、2人別々にソロ・パート、そして2人とも出ずっぱりのチーム、の順に、ノンストップで演じます。

 まず1人目は、気品を湛えた情熱的な赤のダンス着を着こなします。
 ソロ・ヴァイオリンが喜悦に満ちた旋律を歌いあげ、変奏部を経て元の主題に戻るまでを、粘り強く膝を送って優雅に踊ります。
 続いて、耳になじんだミュージカル映画の曲が流れ、魅惑のワンシーンを見るようにショウ・ガールスタイルでコケティッシュに。
 悩ましげなベッドは、場内の視線を一手に引きつけて、体の位置をずらしながらその視線を次々に逃げ水のようにかわし続けて、かえって強烈に視線を引きつけます。

 かわってもう1人の方へ。黒のジャケットにパンツ、ハットを目深にした男装で、スマートにキメてダンサブルに。
 ロカビリー、ジャズ、カリプソ、ボサノバ…
 どんなリズムが流れてきてもひるまずたちまちに、流麗なステップでいなします。
 力の抜けきった上半身と、それをしなやかに受ける下半身、軸足。足元を浮かしたように見えるトリックのようなステップで幻惑します。
 ベッドはほの暗く、うつろな闇を覗き込んでつぶやくような歌にのせ、やるせない気分に沈んだまま悶えます。

 さて第3部は、いったん幕を閉めて、幕間からこっそり客席を覗くように顔を出し、ピンスポットがその嬉しげな表情を捉えるところから始めます。
 ハープが囁き、弦楽器がつややかに流れて、甘みなムード。優雅なしぐさで登場し、一瞬で幕間に駆け込みます。
 続いて2人揃ってバージンホワイトのウェディングドレス。軽快なウェディングマーチが流れると、親しげにアイコンタクトを重ねて、氷上をすべるようにターンもなめらかに。出立を祝う、悦ばしいシーンです。
 続いて、軽快なテンポにのせて、2人仲良く並んで振りを揃えた、いかにも楽しげなダンスへ。プライベート感を出した夏服で爽やかに、手振り、身振りを愛くるしく、振舞います。
 白のランジェリー姿になって、ちょっと恥ずかしそうにして、見せつけるコケットリー。舌っ足らずな女性ボーカルは、フランス語で囁くように歌ってアンニュイに聞こえます。
 ガーシュイン風のメランコリックな旋律、そしてかすれ声の女性ボーカルによる祈りをこめた歌声と、それまでの熱気をさまして心を落ち着かせてくれました。
 静寂をはさんで、教会のチャペルが鳴り出しました。
 花嫁の脳裏には、さまざまな思い出が走馬灯のように巡ることでしょう。出立の悦びをかみしめて、祝祭的な気分に満ち溢れます。
 2人顔を見合わせ、息を合わせ、手を取り合い、実感のこもった笑みを交わします。
 ウエディングマーチの一音一音を、確かめながらなぞるように、触れ合う手から手へ、手から肩へと伝えます。
 高ぶる気持のピークに向けて、2人で組み合わせポーズを築きます。あたたかな気の流れで舞台を満たします。



5.加瀬あゆむ

 Blood、血の贖い。
 バンパイアの変身と転生を、ミステリー形式のドラマに仕立てます。
 ダンスもポーズベッドもわずかに痕跡を残していますが、限りなく演劇に近づけた作品です。レビューやミュージカルの演出の手法に頼らず、映画の手法(カット割り)やラジオドラマの効果音(擬音)を取り入れて、斬新な出来栄えです。



 重苦しくよどんだ空気。
 神経にさわる効果音がきしみ、第一部は冒頭から、抜き身をかざして容赦のない殺戮シーンで始まります。リアルな所作が血なまぐさいリアリティをかきたてて、映画のワンシーンを彷彿とさせます。
 場面転換して、ぐっと落ち着いた年増風情のお女郎さん。ねずに絣模様の着物が渋い味わい。早足、すり足で廓の長い廊下をせわしなく小走り。
 腕をまくりあげて真白い腕をさらし、静脈が浮き出る手首にがぶりと歯を立てます。
 あたかも死者ののど笛にくらいつくようで、スプラッターの残虐極まりないシーンを思い出させます。
 さて次に登場したのは、時空を超え、気品ある白いドレスの婦人姿。暗闇と化した舞台に白い紗を引いて、蚊帳を通して見るように、陽炎のようにゆらめくダンス。手にしたろうそくがふっと消え、引き裂くように紗を割って、目隠ししたまま盆へ。
 目隠しを剥いで身震いする体。マゼンダの照明を溺れるほど浴びて、阿鼻叫喚の血の池で悶えます。空をつかむ掌にしっかと握られた目隠しの紐が、かきむしられ千切れたはらわたのように映ります。



 ここまでの第一部では、一貫して映画の実写映像のようなリアルな演技に徹し、生々しくおどろおどろした刺激を間断なく伝えます。総力をあげてサポートした、音響、照明も見事です。
 第二部は、ワルツや剣舞を加えて幾分舞台らしさを増し、映画風のナレーションを場面転換ごとにはさんでストーリー性を表面に出してきます。
 悲劇的な結末を予告する不気味な効果音をたたみかけ、魂の抜けたように茫然とした表情をクローズアップして見せ、最後には死人から野獣のようにバンパイアへ変身するさまを見せつけます。身の毛もよだつエンディングに、カタストロフィを感じます。



 滅びるべき肉体は、いつかは灰に帰す…
 そんな陰鬱な色彩の鈍いグレーのドレスで「死の舞踊」。享楽のすぐ隣に不吉な死の影が寄り添います。
 暗転、フラッシュバック。
 黒ずくめの貴公子が現れます。自ら血管を裂いて舌なめずり、喉の渇きを癒します。
 残虐で好戦的な貴公子は、敵とみれば何の躊躇もなく切りつけます。切り込んできた敵の剣をはね上げ、ループした切っ先がぐさり、ひと突きでやすやすと心臓へ届きます。
 切れ味鋭く剣をふるう動きが、急ぎ足の音楽にシンクロして興奮を誘います。
 しかしついに打ち破れて、冥界をさすらう身に…
 うらぶれた音楽に混じって、ここまでも幾度となく繰り返された不吉なテーマ旋律が回帰します。
 主人公不在のがらんとした舞台、血しぶきを浴びて深紅に染まった舞台の奥の壁。
 ミルキーウェイの手すりの影が、舞台奥の壁に映りこんで、墓場に林立する十字架と見まがいます。おもむろに階段を降りてゆく登場人物…
 宿主の理性を、寄生しているバンパイアの獣性が、食い破ります。見るも無残な結末へ。
目をそらさなければ、グロテスクな景色から立ちのぼるエロスに出会えます。






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