敬称略です。
1.加瀬あゆむ
泰西名画の裸婦群像を、ズームアップからゆっくりカメラを引いて、額縁がちょうど舞台に収まるように投影しました。
怜悧な大理石を思わせる、乳白色のきめ細かい肌、なめらかな質感、再現性とリアリティの追求において、この時代の具象画を凌駕するものはありません。
ならば、生身の「リアル」を対置させましょうと、いずれ劣らぬ絶世の美女7人が、プラチナ・ブロンドのヘアーに引きずるほどの白布1枚を羽織り、彫像のように立ちつくします。
夢か、うつつか、幻か… 額縁を境にして虚実入り乱れ、イマジネーションは膨らむ一方です。
上質なセンスあふれるポップスが2曲目で流れ、はっと現実に引き戻されます。
背景の暗幕も出演者7人の肌もスクリーンと化して、走査線、ドット、カラフルな色彩分割、PCモニターを覗き見るようなシーンが続きます。
花道上りでまっさらなボディをさらし、ベッドでは澄んだ歌声にのせてアンニュイに。
プラチナ・ブロンドの陰から黒い瞳は、思わせぶりに無言で囁きます。
終曲は退廃的な香りさえするバラード、冷ややかなギターに背筋も氷ります。いっそうやるせない感情に迫られて、余分な動きをそぎ落として引き締めます。
もの言いたげな唇を開きかけ、親指の腹でなぞるように触れ、さりげなく立ち上がり。
振り向きざまに歩き出せば、彫像のような裸体の輪郭が目に入り、遠ざかる後姿で強い印象を残します。
2.楓乃々花・美咲カレン
むかしむかし、あるところに…
舞台いっぱいにプロジェクターの静止画を映し、品の良い英語のナレーションを入れて紙芝居風に始めます。
息抜きと刺激でコミカルな挿話もありますが、入れ子構造の芝居仕立てで、恋を成就へと導いて、めでたしめでたしで仕舞う、メルヘンのかたちを借りています。
スクリーン上の紙芝居は、ヒロインが手に携えた本の中の世界。本を手にしたままいつのまにかまどろむうちに、乙女は劇中劇のお姫さまに変身しています。お相手は、マント姿で覆面に素顔を隠し、社交ダンスで言い寄ってくる、ちょっと胡散臭い若造です。
でも妖精たちの手助けを得て、苦労のうえに、優美なダンスの動きでお姫さまを魅了します。そして、覆面をとったら、あぁなんと、お忍び中の王子様だったとは…
結ばれるふたり。でも、ベッドシーンはそもそも初めに登場した乙女の夢想のなかの話のはず。M女のお姫さまに、王子様が残虐な仕打ちを浴びせて、燃え上がる蕩けるさまは……これも乙女の妄想の産物でしょうか……あまりにもリアルで、お子さまには語り聞かせられないほど濃厚なおとぎ話……
肩にかけた指がぴくりと震え、獣どうしが嘗め回すように互いの体をむさぼり、精を使い果たしたあげく、背中合わせにぐったりとしたふたり。
やがてシンセサイザーの精妙な音色が、星降る夜を思わせて、チェンバロにもスチール・ドラムにも聞こえる澄み切った音色で、ふたりをロマンチックに包みます。
仲睦まじく手を携えて、ふたりは永遠の愛を誓うように、「メルヘン」の予定調和的な世界に浸ります。
3.仙葉由季
一閃、闇を引き裂くように登場した、見返り美人。見やる先には、糸のような月。
白地のお引きずりを蹴とばしながら、逃げるように走り去ります。
なにやら風雲急を告げるよう…
ジャジャーン、第一主題がものものしく響いて、着物の早替え、剣劇、和太鼓の生演奏…と、ケレン味たっぷりの舞台が、いえ戦いが、いま始まりました。
4人が2組に分かれて長胴太鼓を両サイドから打ち、さらに2人は平太鼓にこん棒のようなバチを叩き込みます。武者震いさせる暴れ太鼓に、膝を乗り出させるロックのビート、
変幻自在なバチさばきでふたつを融合させて、興奮をかきたてます。
奏者がそのまま演者になりかわり、しかも日舞とは相容れないアクロバティックなパーフォーマンスを繰り広げます。裃姿に白足袋で、八艘跳び、渦巻くように半時計回り、時計回り… 息が切れたところで見得を切る。
型によらない剣劇は、クロサワ流にリアルで、サム・ペキンパー並みに血なまぐさく。腰を落として大地に足をつっ立てて、抜き身を払ってダンビラ振るう立ち回り。太刀筋見切ってメインがひと暴れ、悪党蹴散らせば、モンハンの興奮にも迫ります。
疾走感あふれる第二主題を弾き終えて、肩で息して、ヤァーッと掛け声ふりしぼってバチを置きました。
メインが自ら置いた刀を、御付きの者がうやうやしく戴いて、下げました。民謡風の朗唱に背を押されて、覚悟を決めて花道をたどります。
舞台奥の障子の衝立に、不死鳥が燃え尽きる寸前で羽ばたく姿を投影しますが、それも今しがた闇に沈みました。
斬り合い、掴み合いを凌いできた軍鶏の猛々しさは、なりを潜めます。
清々と、襦袢を花道半ばに敷き、山吹のお腰をひとつで喝采浴びて盆の上へ。
鷹が飛翔する姿を仰ぎ見るような、片手片足を伸ばして広げるポーズ。お腰をつかんでさっと翻して、見得を切るように…
神秘的で象徴的なテーマが訥訥と流れるなかを、晴れ晴れとして和やかに花道を戻ります。
背後では、舞台照明が大道具を紅に染め抜いて、落日を見る思いがいたします。
4.はるき
静まり返った場内。スポットライトの先に浮かび上がる、沖縄民族衣装。
コンサート会場のような粋なはからいで、潮騒や虫の音を、かいくぐるようにして、みやびな音色のサンシンをつま弾きます。
ひとふし弾き終えて、メインはにこっと笑って下手に引くと、おもむろに幕が開きました。おそろいの民族衣装の女性3人が登場、マイクスタンドを前にサンシンの奏者まで加わって、のどかに沖縄の旋律を唱和します。
単調でいてシンプル。エキゾチックで興味尽きない和声。素直に心に沁みる旋律が、上り、下りを繰り返して…
…その息遣いはいつしか寄せては返す波のリズムに重なります。
研ぎ覚まされた単純明快さに、はぁ、イィーヤァー、サッサァーと掛け声入れれば、場内の気分は酒盛りでも始めたかのように盛り上がります。
素足で踏み出すステップは、その都度歩幅を変えてみせて、大胆ななかにも繊細に。
赤いレースの襦袢1枚になって、そろりそろり素足で花道をたどります。
冷めた恋心を嘆いて、また火を灯したいと言いたげに歌うバラード。
襦袢の紐を解き、玉かんざしをさした頭を傾げ、物思いにふけるように遠くを見やる視線。その先は、碧い水平線に注がれているのでしょうか。
エェイ、ヤァー…と始めて、息長く歌う終曲は、鬱屈も諦念も振り払って、やるせない感情を素直に歌い上げます。リズムボックス風な音を、ベースが支えて淡々と…
ベッドの動きは大げさにならない程度に、粘りつくように始めて、花道戻りでとどまることなくスケールを拡大してゆきます。
5.瀬能優
赤一色のアラアビヤン。スパンコールに細い鎖が、照明の三原色を反射します。
はねる、跳ぶ、小走りに駆け回る… 舞台を縦横無尽に使ってダンサブルに。
相方を務める男装のダンサーは、スマートでダンディなお方。これまた赤一色のジャケットにパンツで、エキセントリックですが、メインとの相性は抜群のようです。
メインに絡み、包み込むように抱き、ときに突き放して、またあおって、ハートに火を点けます。
激しく燃えさかる恋の業火。
ふたりは接触してスパークしたあげく、移り気な男は背を向けて立ち去ります。
興奮覚めやらぬまま、白のベッド着に着替えて、メインは花道へ。ダンスの余勢をかって、エモーショナルに腰で踊り、白のガーター姿でコケティッシュに迫ります。
俯いて髪に顔を埋め、恥じらうように振舞いながら、腰から脚へと流れるうねりは、大胆で挑発的。
盆から浮かび上がるようにポーズ、リズムにのって花道を戻ります。
6.伊沢千夏
御伽草子「竹取」を翻案した、スペース・ファンタジー。なじみ深いストーリーは駆け足で進め、表情ひとつで喜怒哀楽を語らせる、メインのベッドに時間をかけています。
高い解像度を誇るプロジェクターを駆使して、冒頭から竹林のフォトを大写しするシーンは、タムタムが響いてジャングルの密林のなかのよう。
神々しい光のなかから、中国の王侯貴族が纏うような立派な衣装で、「玉のような子」ではなく、成熟した姿で出現します。
おつきの4人(チャイナドレス)を率いて、街に繰り出すように、黒人系のナンバーにノリノリで、かぐや姫はおおはしゃぎ。
言い寄るイケメンひとりひとりに、無理難題をせがんでは、袖にします。
しかし突然、かぐや姫の表情に翳りが…
煌々と明るい満月の光にほだされて、望郷の思いにかられて、居ても立ってもいられません。ドラマティックなこのシーンでは、群舞でアンサンブルを部分的に崩してみせ、動揺を巧妙に表現し、センターに据えたメインを引きたたせます。
惜別の念をにじませて、早着替えで白地のチャイナ風のベッド着に。
心変わりというにはせつないのですが、かぐや姫の肉体はもはや、「地球外」のもの。
地球での記憶も薄れゆくなかではありますが、楽しかった日々・親しかった人々との別れはせつなくてなりません。でも、月へ帰る喜びは抑えきれず、恍惚の表情を浮かべます。
月の光は乳白色、天井付近から照らすサファイヤブルーの光と渾然一体となり、まるで熱帯魚の水槽のよう、盆に幻想的な眺めを作り上げます。
ベッドの入りの澄んだ女性ボーカルでは、悲嘆に暮れる哀しげな顔。明るい曲調に変わってからは、ほのかに頬に朱がさしたよう、心やすまるイキイキとした表情を取り戻して、癒します。
花道戻りでふと見上げた先に、38万キロの彼方に浮かぶ、碧い地球の姿。
月から地球がよく見える晩に、かぐや姫はこの19日間を思い起こして懐かしむのかもしれません。
7.フィナーレ
…あんまりそわそわしないで…あなたはいつでもキョロキョロ ♪
星から降ってきて初対面の地球人にいきなり恋心を抱く、人騒がせな異星人。
なつかしいアニメのオープニング・テーマが心地よいボサノバの調べにのって流れます。
かぐや姫のパロディと言えなくもない、対照的な世界。
垂涎のバニーをコスチュームに、機会仕掛のオルゴール人形のパントマイムから抜け出してきて、とぼけた味わいのブリブリダンスです。
カーテンコールを終えた11人から、ひとり去りふたり去り…、最後のひとり=かぐや姫役が愛想を振りまいて、もう1度、サヨナラを告げてくれました。
以上
[前へ]