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[7916]SNA11頭
=八卦(関東)
=11/11/12(Sat)23:40




 敬称略です。



1.清水愛

 幕を左右に割って、漏れてくる光に包まれて神々しく登場します。
 黒一色といっていいくらい、丈の短いジャケットから裾がひろがるスカート、ブーツまで揃えてコーディネート。鋭利にしてスタイリッシュ。
 原始的な鼓動に挟まれて、洗練されたポップス・センス溢れるメロディラインの音楽に、突き動かされるようにツイスト&ターン。引き込むような腕の動きが、身体の動きにつられて連動して、一体感をつくります。
 ミドル・テンポの2曲目は、ジャケットを脱いで軽やかに。重く感じるはずのブーツで、やすやすとステージをすべるように跳びまわり、いく分リラックスした風情です。
 しかしベッドでは、先ほどの1曲目の高揚感と緊張感をそのまま持ち込んで、緊迫感が伝わってきます。音の隙間を狙いすまして、ねっとりとした動きに抑揚をつけ、曲の盛り上がりを待って、黒光りするブーツのまま大胆なポーズをズシンと放って、気を吐きます。
 ループして、ねじれが戻ってゆくようにして、立ち上がり。舞台を振り返る前の一瞬に、挑発するような目の輝きが精彩を放ちます。



2.桜ひめの

 イカしたイントロで、渋めの、気取ったロックでかっこよく。
 黒を基調に、アクセントに白を配色した衣装です。胴は胸元にダイヤの格子縞、格子の隙間を白で抜き、黒い薄布を浮かせるようにボリュームを持たせたスカートには、八つ裂きの布が所々にかぶさって、ホワイト・シルバーに輝きます。
 スモークを焚きフラッシュを浴びせれば、煙草の煙が漂う場末のミュージック・パブの気分。はしゃいだドラマーが、口ずさみながらスティックを叩き込むさまが、目に浮かぶようです。髪を振り乱す、腰を振る…、このシーンはムードで引っ張って、表情づけと演技力で支えます。
 冒頭から盆に仕込んだ、赤と、淡いピンクのバラ2輪。赤の一輪を手にして上手袖に引くと、曲はフラメンコ・ギター風のスパニッシュへ。華麗でメロディアスなギターの旋律をしょって、肩肘張った演技から無理なく移行し、丈の長いベッド着を肩に引っかけて盆へ。
 見開く眼、きゅっと結んだ唇、凛々しく見せて、ベッドは手堅くまとめます。表情を抑えて秘めた気持ちを高揚させて、ベッド着がはだけるのもいとわずポーズでLへ。白いブーツを頭上に蹴り上げて、盆に残っていたピンクのバラを取り上げて、もったいぶるように弄んで、香りをかぐしぐさ…

 なお、振付けたのは同期の舞姫でした、活動期間3年の。



3.林里南

 ♪ アタシって、ホラ、こんなに良い子でしょ、あばずれなんかじゃないわ…♪
 映画「バ―レスク」のサントラでなじみの曲にのって、セルリアンブルーの可愛らしい衣装につば広帽、愛想を振りまきます。
 女の子が「良い子」を背伸びしてアピールするさまは、けなげでキュート。
 ゆったりとしたミドルテンポで、ステップも余裕をもって、大胆に。
 2曲目はシルバーやゴールドの縫い取りの、クリーム色がかった白の衣装。大きな瞳でこちらを見つめます。かくかくと動いてコマ送りするように、マイムを思わせます。
 赤いドレスに着替えて3曲目へ。和製フォークの英語バージョンで、羽を広げるようにのびやかに。続いて品良くアレンジしたメロディアスなブルースには、動きをなじませて瞑想的に。
 そして立ち上がりは、雄渾で開放的なロック・バラードで。
 温かみのある音色のギター・ソロに励まされ、オペラ風の発声のコーラスに優しく包み込まれて、いかにも幸せそうな表情に。
 はきはきと話すように明晰な身振り、振る舞いでつないで、果敢にポーズで切り込んで、場内をわかせます。



4.はるか悠

 一語一語を吐き出すように歌う序奏を過ぎて、なめらかにのびのびと歌うボーカルがアップテンポですべりだします。
 淡いイエローと空色を取り合わせたダンス着で、全身を使って手話を表現したかのように、ダイナミックな振付をはつらつと、疾走するように踊ります。チアリーディングのような手の捌き、振り切るような腰使い、満面の笑みではじけるように一直線。
 曲を止めないで暗転、幕を閉め、点燈で幕前の盆の上で、勢いをそがずにダンスしてフィニッシュ。
 重々しい間奏曲に変わり、背を向け、閉じた幕を指して、開けゴマと念じます。舞台中央には椅子の背もたれに、淡いブルーのベッド着がかけられています。天井からスポットライトがシャワーのように注がれて、肩のまるみ、ヒップの盛り上がりと、着替える身体を彫像のように浮かび上がらせます。
 息も乱さず、なまめかしいベッドへ。
 1曲は、小気味よいテンポのテーマにのせて、漂うように体を浮かせ、すべるようになめらかに動きます。感情の表出を抑え気味にして、憂いを湛えた表情を凛々しく見せて、想像力をかきたてます。
 そして終曲はメロウでスローなバラード。頭の位置をむやみと動かさず、顔から遠ざけるようにして送る指が、繊細で魅力的に見えました。



5.杏野るり

 ケーブのような白い薄布を羽織った下には、競技ダンスで見かけるような、エンジ、朱、黄をちりばめたボディ・スーツ風の衣装です。花束のように見えるのは、紅葉、秋桜を
あしらったもので、発色が鮮やかです。手にしたまま、歓びいさんではしゃぐように、ダイナミックな動きで跳ね回ります。朗らかで嬉しさを隠しおおせないよう、こちらまで明るい気持ちになれました。
 感傷的な往年の歌謡曲が、アコースティックなオリジナルから、踊りやすいリズムにアレンジされています。心地よいテンポが2曲目にも引き継がれて、花道途上でばったりと倒れ伏すまで使われます。
 ストレッチの延長線のように蠱惑的な動きから、横たわって片手づきで身体を振り絞るように煽ります。
 爽やかでアコースティックな歌声が、思春期の淡い恋を歌い上げて佳境に差しかかったところで、紅葉の花束を振りかぶって聖火のように頭上に振り上げます。
 すがすがしい秋空が夕焼けに染まるころ、血の色の滲んだように輝くその光は、落日で一瞬のうちに力を失ったかのように翳って、さめて落ち着いた朱色に変容します。歌詞に登場する紅葉坂も、そんな風にして染まったのでしょうか…
 ベッドのクライマックスのシーンでは、そんな光景を思わせるような、赤や黄の光を燦々と降り注ぎます。
 ノスタルジーを感じさせる歌声と相まって、懐かしい思いがこみ上げます。



6−1加瀬あゆむ

 白雲たなびく秋空のように、つき抜けた青地の着物には、こがねにくれないと、秋の葉ちりばめて、色鮮やか。
 見とれる間もなく、そろり、そろ、そろ…、お引きずりで、快調なテンポの曲を踊りきります。足元には散り敷かれるようにもみじ、手にして捧げた枝にもみじの葉。
 体ごと揺さぶるような大きな動きもまじえて、抑揚つけて大胆に。
 着物を脱いで赤襦袢姿に転じて、秋風そよぐように、気まぐれなアルゼンチン・タンゴへ。
 浮遊するように足元は軽やかに、肘から手の先までを吊られたように浮かして、素早い動きのなかに不随意な動きを取り入れます。
 暗転後、白い襦袢姿で登場します。仲秋の名月を眺めながら、三方のお供え餅を月のうさぎと仲良くいただきます。ぼぉっとかすれたような淡い金色の光が注いで、幻想的でした。アコースティックな曲に聞き惚れて、そのまま盆へ…
 凛々しい立ち姿でひきつけて、しっとりとした佇まい。おだやかな表情のまま、肩口、胸元…と、次第にあらわにしてしどけなく。
 やがて、アルト・サックスの咆哮で目覚めたように、活発に開放的なポーズを放ちます。
 腰巻だった薄布を膝や太ももにのせて、脚を高々と上げれば、帆船が帆を上げるように壮観に、まとめます。



6−2 チーム(清水愛・加瀬あゆむ)

 便宜上、シーン1〜9に分けました。
  曲数でいうと、この倍くらいはありました。



シーン1
 背中合わせで盆の上から始めます。すっと立ち上がって、蝶が舞うように、舞台狭しと踊ります。
 白足袋ですり足、早足で、着物の裾はお引きずり。腰を据えての手踊りで、肘から指の先までをぴんと一直線に扱います。
 淡いクリーム色、および空色の町人風の着物、爽やかでいてモダンな印象を与えます。
 漆黒の帯が、着物のいろどりをギュッと引きしめます。
うたかたの夢に浸る、のどかなジャポネスク・ロマン。蝶が花に引き寄せられるようにして、ふたりは舞台中央に戻ります。
 居並ぶ姿、互い違いにすっと伸ばしたふたりの手。「X」の字をかたどって、フラッシュ一閃、姿を消しました。



シーン2
 赤い襦袢にお腰をまとい、足元には対照的に高いヒール。和物の扇子をジュリ扇のように捌いて、ふたり横並びでノリノリのダンス。
 さーっと流れたシーン1の音楽に対し、シーン2ではタメを効かせた引っかかるようなリズム。金銀箔をちりばめた扇子を、両手で捧げ持って、そのまま返し、持ち直して片手で切り返し…
 引っかかるようなリズムにピタリと寄り添って、流麗に。
サイドに、バックにと歩幅大きく踏み込んで、腰をくねらせて…
 シーン1とはうって変わって、リラックスした表情を見せてました。



シーン3
 ブーツ、膝を出した短いスカート、短めのジャケット。
巻き髪にグラサンで(うーん言ってもいいものでしょうか)、夜の蝶。
 深夜のクラブのフロアさながらに、プライベートのノリで踊りまくります。
 ふたりの衣装は黒、白、と、色違い。メイクもビシッとキメて完全武装。獲物に狙いを定めて、視線をくれて、満を持して笑顔で気を引きます。
 仲よさそうなふたり組の、喧しい笑い声が聞こえてきそうな、夜でした。



シーン4
 ベッドは3回ありますが、いずれも短めに仕上げて手際よく進めます。
 まずここは、清水さんのひとりベッド。
 舞台正面に立てたついたてをブラインドにして、ヒップまで覗かせて、隠れて男物の白いYシャツを羽織って、颯爽と盆へ。
 ばねのような筋肉で、流れるようにしなやかな動きを紡ぎます。脚をはらう、腕を伸ばし旋回させるように捌いて、身体をせり上げるように支えて、そのまま静止ポーズへ。
 シャープでキレ良く、それでいて雄弁なベッドになりました。



シーン5
 いったん閉じた幕がするすると開いて、長胴太鼓を前にしていなせな姿の加瀬さんが、2本のバチをふるいます。
 踊り子の余興に過ぎないかもしれませんが、左右のバチへの力のかけ加減で、多彩な音色を発します。スナップを効かせたやわらかい響きに魅了されます。



シーン6
 和太鼓のあたたかい音色に馴染んだ耳には、異質に響くロック。カルト的で邪悪な雰囲気が立ち込めます。
 下着同然の露出度の高いコスチュームで、胸元のラインをえぐって見せ、シースルーやビニール素材の生地で、ふたりはフェチでエロチックに装います。
 身体を揺さぶるような、あるいは漂うようにも見える特徴のある振付です。
手にした白黒まだらの紐は布製で、その両端には房飾りが垂れ下がります。この紐を、あたかもチェーンのように頭上で振り回したり、ムチのように叩きつけたりと、器用に扱います。
 このシーンが最もふつふつとエロスを感じさせてくれました。
 加瀬さんが突き転がされて、這いずって、盆に辿り着いたところで、倒錯した被虐的な世界が広がります。



シーン7
 アカペラの発声練習のように途切れ途切れに発せられたボーカル(発声)が、魂のあえぎを代弁します。
 シルバーのビニール素材をするりと身から引きはがし、ためらいながらも迷宮の深み、奈落の底へと沈むよう。
 両手にしていた手袋が中途半端に片手にだけ残り、シーン6で振り回した紐が締め付けるように腰に巻かれています。虐げられた生身の身体に、わけもなくそそられます。



シーン8
 ふたりの襦袢はそれぞれ赤と白、番傘を手にしてしっとりとしなやかな身のこなし。
 曲のさらりとした歌いぶりと相俟って、大衆演劇の影響を強く感じさせるシーンです。
 赤の襦袢で青い番傘さして、物思いにふける憂い顔。先に清水さんひとりで盆にせり出して、次にシーン7から着替えて加瀬さんも戻り、ふたり並んで掛け合い風に、流麗で落ち着いた舞を繰り広げます。
 左右に立ち向き合って、肩を入れ互いに一歩踏み込んで、襦袢の裾をからげて持ち上げたまま振って…、シンプルでやさしげな振りを、ふたり仲睦まじく演じます。
 優雅な足捌きに、襦袢の裾もふわりとなびきます。



シーン9
 盆に進んだふたりは、襦袢姿のまま、ひしと抱き合います。
 それからは、言葉にならない思いがわき起こって、ふたりを突き動かすようでした。
 大事そうに互いの簪を交換します。互いの手を合わせ、手と手をギュッと握りしめ合います。固く片手を握ったまま、腰をおろし片脚を上げ、上げた片脚を伸ばしきり、背腹を返して、背筋をぴんと伸ばして静止ポーズへ。
 ふたりの姿勢、それに切り返しのタイミングを、きっちりシンクロさせました。
 襦袢を羽織ったままで、盆の立ち上がりから約20秒。
 本舞台に戻り、ひとつ傘の下に寄り添うふたりのシルエットが、黄金の光を浴びた後に、闇に溶け込むように消えてゆきます。

                         以上

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