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[7917]浅草12中・結
=八卦(関東)
=11/12/30(Fri)11:45




敬称略です。



1.MIKA

 横一線に並べた5枚の衝立をスクリーン代わりにして、顔も見分けられない5人の影法師だけで、舞台は始まります。
 ジャズ・ピアノがめまぐるしく速弾きで駆けめぐり、自由奔放にリズムの主導権を握ります。ドラムは落ち着き払って、渋くそれを受け止めます。
 激しいピアノにシンクロして、激しい振りを入れます。衝立の前に飛び出してからも、勢いを失わずに、5人は緊密なアンサンブルを続けます。
 ピアニストが鍵盤上に5本の指を走らせて、調和のとれたなめらかな動きを見せるような、まさにそんな感じです。

 続く2曲目は、花道上りから前盆でのベッド、そして花道戻りまで続き、陰鬱でほの暗く、ウェットな感じで空気を支配します。単調なリズムにのせてつぶやくようなボーカルがかぶります。
 ゼブラ模様のレオタードにストッキングで、ガーターの黒が引き締めます。揺れるたびに肩や頬をなでる長い黒髪が、小粋です。
 この長い曲全体をベッドととらえ、花道をまず歩んで上り、前盆では曲を活かしてシャープにポーズ。花道戻りは移動台でたおやかにポーズ。緊迫感のある曲調を逆手にとって、変化を添えて見せました。



2.かんな

 姉は黒袴、妹は桜色の振袖、紫紺の袴。仲睦まじく寄り添い、語り合います。
 …ほら、あの先にあるのが、***の星。〜どれどれ、あっ、それ知ってるぅ…
 映画の1シーンから切り取ってきたような典型的なお芝居に、その二人を覗き見て同調したり茶化したりする、おしゃまな猫を登場させて、舞台を引き立てつつ引き締めます。

 実は二人の間には、語り合いたいことや伝えたい思いが、星の数ほどありました。
 数えつくせない「永遠」という時間が、別れのこの「瞬間」で断ち切られます。
 残酷な事実を、どう伝えるか…
 姉は笑顔を残してその場をそっと去ります。振り向けた笑顔に対し、うつむいたときの悲しそうな表情が対照的です。毅然とした姉、純真で無邪気に振舞う妹。
 スペース・オペラのような精妙な音楽が、このシーンをやさしく包みます。

 やがて、アコースティックな曲にのせて、妹の思いがほとばしります。生ギターにドラム、ハーモニカをフューチャリングして、リラックスしたハスキーな女性ボーカルが癒します。
銀河に浮かべた小舟、心もとないけど、広い宇宙に星のカケラを探そうと… ロマンチックな歌詞にすっと感情移入させてくれます。
 身振り手振りで、逐語訳のように歌詞をなぞります。表情豊かに、歌いだしたくなるように。



3.桃瀬れな

 宇宙の調べにシンクロするような、やさしげな音楽が流れます。交信に応えて、本当に宇宙人が訪問してくれたのでしょうか。
 赤、青、緑、ぴったりとしたボディ・スーツにゴーグル、ヘルメット。交信用のワイヤレスマイクを、カラオケのマイクに見立てて、囁くように地球の言葉でコーラスします。
 アイドル風のかわいらしい振付に、関節がきしむようなぎごちないロボット・ダンスを交え、大真面目でユーモラスに。オルゴール風の電子音の間をくぐり抜けるように、ピアニカ風にキーボードが奏でられ、癒されます。
 口パクなのか、本当に囁いているのか、出演者の口元の動きをなぞろうと、つい耳をそばだててしまいます。

 ベッド着は、エレガントなドレス風。スカートの部分が二重三重に重ねて、ピュアなレモンイエローに濃淡を加えます。
 曲は、癒し系のスロー・バラードで、高音がかすれるように消えて余韻を残す、女性ボーカルのボイスに、心が温まります。
  Shooting Star
 はかなく消えゆく一瞬を、永く心にとどめます。
 曲のイメージどおりに演技を進め、感情を吐露するようにしぐさを操り、区切りをつけるように静止ポーズを放ち、喝采を浴びました。



4.仙葉由季

 プロジェクターで天幕に映し出す壮麗なプラネタリウム、とりわけ北の空に目立つオリオン座の雄姿に見とれます。
 天幕を開けて登場したプレアデス星雲の7人姉妹は、古代ギリシャ風の装束に身を包み、古風なヘアスタイルで姿を現します。マンドリンの雅な響きにつられて、アルカイックなフォークロア風のダンス。ゆるやかなステップに髪なびかせて、しっとりと麗しく。
 中間部はアップテンポで軽やかに。さらにバグパイプと太鼓が囃すようにひなびた音を奏でます。7人の神々はかかとで大地を踏みしめ、豊穣をもたらします。
 メインはいつの間にやらトップレスに。左足のかかとを踏みこんで、右のつまさきをストンとついて、左右、左右と繰り返します。
 花道わきにしつらえた6つの踏み台で、女神たちは体を揺さぶりながらステップを緩やかに刻みます。淡いクリーム色の照明に包まれて、夢のなかの出来事のように、淡々と進みます。

 メインのベッドは、緊迫感をはらみます。緩やかにいくつかポーズをつないだ後は、曲を活かしてなぞった、身振りの激しいダンスへ。勢い余って花道を戻りかけては、再び前盆に舞い戻って演劇的な身振り(マイム)。
 狭い祠ににじり寄り、こじ開けて広げ、つかみとったものを解き放つかのように、両の手を広げます。アトムが発散して天空に散らばるような錯覚を覚えます。
 花道戻りはオーケストラの響きに包まれて壮大に。薄暮に雪が舞うなかを、背中を見せて、さみしく力尽きるように。
 耽溺的な響きのなかを、シンバル一閃、オーケストラが咆哮したのちに、静かに引いてゆき、その余韻に浸ります。



5.平松ケイ(23日から広瀬あいみの代演として)

 始まりは、プロジェクターで舞台いっぱいに大写しする、泉鏡花原作の戯曲の題字。
 時;不詳 所;姫路白鷺城 五重の天守
何やら古風な映画の始まりを待つようで、ドキドキします。
4人の禿をいさめるように奥女中、続いて城主の奥方、富姫が登場します。
 絢爛たる着物に錦の帯、シルバーのウィッグで、この世のものとは思われぬ美貌です。
 扇子を開いて蝶のようにふらふらと舞わせて、へりをつまんでぶらぶらとぶら下げます。
 これは何かの比喩でしょうか、どうかの…と富姫が禿に視線をくれれば、4人はギロリ目をむき歯噛みして、異様な相で、体を強張らせます。
 緊迫した音楽にあおられて、ファンタジック・ホラーが快調なテンポで進行します。
 時代がかった演技に一糸乱れぬアンサンブルで、映画のようについ引き込まれます。

 天守に迷い込んだ哀れな図書之助(若侍)は、奥方の美貌に心が揺さぶられます。
 しかし禿に翻弄されて、縛られて丸太のように転がされ、ちっともいいところを見せられません。
 見かねて縛りを解いた富姫の心に(もしそれがあったなら)、憐憫の情か… はたまた恋心か… が、芽生えます。

 「千歳百歳にただ一度、たった一度の恋だのに…」

 目を見合わせる二人。互いが互いの言いなりに。
 定めにそぐわぬ、人と魔物の恋の路は、はかなく露と消えるばかりなり。

 後半は、原作のイメージをふくらませて、舞台効果を狙った白鷹の舞につなげます。
 鷹狩に使われた鷹は、人のなぐさみに供された不憫な存在。
 解き放たれた鷹は、思いのままに天を駆け、故郷(自然)へと戻ります。

 清涼で気高い鷹の舞いを、白襦袢に大振りの羽根扇ひとつで、雄渾に演じます。



6.はるき(26日で負傷降板)

 奇抜な衣装に奇想天外な試み。
 薄暗く照明を絞った舞台に、黄や緑、青の光が弱々しく瞬くと、キンキラの衣装が跳ね返して色とりどりに散乱しています。映画の一場面でよくあるように、夢を再現しているような映像美で、幻想的なシーンです。
 ケンタウロス祭の夜に… …地の文を語るときも、賢治の作品は詩情あふれます。ジョバンニは、まず自分の影と語り、次に会話もおぼつかない牛乳屋の老婆と話し、最後に銀河の祭りにはしゃぐザネリら友人たちと川べりで出くわして、一方的にからかわれます。
 ここまでを、踊り手が朗読した声をテープに録音して流します。背景に流す曲は、邪魔をしない程度に単調に… お経の木魚代わりに流します。

 その「木魚」のような曲を、メトロノーム代わりにして、スキップ、小走り、つま先立ちでターン…と、バレエやパーフォーマンスを交えた多彩なステップを披露します。
 仮に、背景で流れる物語を主役に見立てれば、地の文でダンス、登場人物のセリフをマイム、そして主人公ジョバンニの気分の高揚や好奇心の移ろうさまを、表情豊かに身振り手振りで演じ分けてみせるという感じでしょうか。八面六臂の活躍で、一人芝居を渋く演じます。

 花道から、トゥシューズのまま、つま先立ちで技巧を凝らして、前盆に足先がかかります。前盆の上は、頭上高くから垂直に届く色とりどりの光が混ざり合い、水面上の波紋のように広がります。
 ゴージャスに輝く金色の布を、マントやショール代わりにして、着流すように羽織ります。柔軟な身体を使って、ポーズは包み込むようにソフトにまとめます。



7.松嶋れいな

 前半は、せりふ入りの芝居と群舞とをうまく融合して、原作の1シーンをなぞります。後半は、もののけ姫に扮したメインのベッド。山犬に育てられたうら若き乙女は、人間を憎しみながら、自らは人間であることのジレンマに、悩み苦しみ、耐え忍んで…
 …心の葛藤を、原作にはないサイドストーリーとして、抑制のきいた演技で演じます。

 出だしから舞台上は、相容れないふたつの世界が並行して進みます。
 自然界の象徴する青々とした森のセットに埋もれ、息を潜めるもののけ姫こと、サン。(舞台中央)
 テクノロジーを切り拓いて銃器をも使いこなす、エボシ御前に率いられるたたら場の女ども。(舞台下手)
 エボシ御前が屋敷に帰還した、ヒーローのアシタカは既に客人として滞在中… …と、ここまでがせりふのやりとりから伺えます。
 サンが腰を上げた、神経質そうに鋭利な刃物を抱え、乗り込んできた、さぁその行く先は…

 挑発するような太鼓の音を呼び水に、聞きなじんだテーマ曲が、まるで闘いを煽るように威勢よく始まります。荒ぶるたたら場の女どもに真っ向から立ち向かい、ひるむ素振りこそ見せませんが、どうしたことかサンは軽々とした身のこなしにも関わらず、切っ先は地に向けたまま…

 敵対者と、決裂とも和解とも言えない状態のまま別れ、厭戦気分で花道へ。


 チャーミングな笑みも振りまけない、露骨な色気も表出しない、制約の多い舞台で心に語りかけるような演技。遠くまで届く、その強い目力で、ひたすら真摯に振る舞います。
 流れる曲は、くじけそうな気持を鼓舞するように、メッセージ性の強い歌。歌詞自体がこのシーンのテキスト代わりになって、サンにエールを送ります。



8.フィナーレ

 メーテル達はサンタのように赤い衣装揃えて、一体感。
 999の長い旅が、これほど艱難辛苦に満ちたものと、誰が想定したでしょう。
 それでも、夢を運ぶつとめを果たし、ほっとした顔が並びます。


                        以上

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