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[7918]浅草1月
=八卦(関東)
=12/01/30(Mon)21:08


敬称略です。



1.月城まおら

 背景の高い位置に特大の旗が掲げられ、今月のテーマである「凛」の一字が浮かび上がります。
 袴に道着姿の7人は横一線。ハチマキ・タスキは赤、それ以外は真っ白で揃え、覚悟のほどを示します。
 こちらに背中を向けていた7人が、振り返ります。まなじり決して潔く、興奮や動揺の素振りも見せません。
 裸足…すり足で踏み込みながら、(小ぶりの)木刀を握りしめ、振るいます。
 互いの間隔を詰めずに保ち、そぎ落とした所作はつとめてシンプルに。
 心持ち早口に聴こえる女性ボーカルは、高い音がよく通り、歌詞のひと言ひと言が胸に響きます。

 ベッドでも群舞で醸し出したきりりとした感じを崩さずに、真摯な表情を浮かべます。
 なめらかな動きで穏やかにポーズをまとめます。掌に視線を引きつけて、細い腕をゆっくりと伸ばします。そのままゆるりとスワンへ移行し、反り返った姿勢でビシッと静止します。すると、明るい色の髪が流れて腰まで届き、反らせた足先を髪に触れるか触れないか、というところで寸止めに。
 立ち上がりでようやく口元をほころばし、柔和な表情に戻します。
 抜いて掲げた木刀を、左腰の鞘に収め、一礼したところで、幕を閉じました。



2.杏野るり

 門付けの芸、お獅子の舞が我が家にもやってきました。わぁい…
 正月らしく、晴着姿の御嬢さんが門を開けてくれ、微笑みながら招き入れてくれました。
 笑う門には福来る。ほがらかな笑いを誘うコントが続き、しばし憩います。
 御嬢さんの振袖は、紺碧を地に、金、銀、朱の花柄を浮かべて色鮮やかで、麗しいお顔と一緒に見とれます。
 さぁさ、さあさぁ、腹を抱えて初笑い。福笑いもかなわない、奇怪なラバーマスクでご対面。お獅子もゴジラもゾンビでも、こけおどしではちっとも怖くありません。しかし、マツコの顔に睨まれたなら…、そりゃぁもう、たまったもんじゃぁありません………んって、そりゃそーだぁ!

 脱ぎ始めるのは舞台下手側、お獅子と門付き芸人が、恥じらう女性を無遠慮な視線からガードしてくれます。さぁ、したくができました。
 透き通る肌に白い羽毛のショールを羽織り、心浮き立たせて、軽い足取りで花道へ向かいます。
 柔軟な身体を駆使して惜しげもなくポーズをつなぎます。見ているうちに、心が解きほぐされて、安らぎます。



3.香山蘭

 さりげない普段着で、元気な3人の少女が登場します。
 パーカー着込んで、マフラーをぐるぐる巻き、イヤーマッフルあててと、お洒落な彼女たちにしては重装備。
 こごえるほどの寒風をものともせず、体内酸素の燃焼効率のいいダンスで、体の芯から温まります。
 はしゃぎっぷりも、また格別。おしくらまんじゅうがわりに、若い3人はアップテンポな曲にのって、一直線に踊りまくります。

 花道上りは、帰宅して、勇んでお風呂に入るときのよう。ばっさばっさと、服を脱ぎ捨てて、素肌にじかにキャメルのコートを羽織ります。
 盆では、もじもじと悶えるような身振りを、くねくねとした身体全体に至る揺らぎに拡大します。肩口…、胸元…、太腿…、コートから覗かせていた肌が、次第に露わになってゆき…
 落ち着き払って動じない表情もあいまって、迫力のある身体で威圧します。
 素直にのびのびと歌いあげる女性ボーカルに引き込まれようにして、静止する瞬間のない海藻のようにゆらぐ時間が、花道戻りから幕が閉じるまで延々と続いて、癒されます。



4.沙羅

 メインはピンクにホワイトを交えたドレス。ひとかかえもありそうな花束のような羽根飾りを背負って、ゴージャスに装います。
 腰を振るたびに背中の羽根が揺れ、胸をそらすたびに羽根がしなります。
 キューバンサウンドが息づいて、華やかなで爽やかなグランド・ステージです。
 エスコートする男役4人は、グレーやブラックの燕尾服、蝶ネクタイにシルクハットで気障な様子。片手をシルクハットのつばに、もう一方の手で服の胸元をちょっとつまんで、すまし顔に。
 ときに咆哮しときに静まるホーンセクション、あくまで繊細なパーカッション、憂いを含んでせつなげに歌う女性ボーカル… すべてが手を取り合って、幸福な時間を作りあげます。
 メインは優美な装いとはいえ、裾の長いスカートに足を縛られ、背負った羽根のせいで重心は高い位置にあります。肩から腕にかけてを泳ぐようにダイナミック使い、またステップは力強くこなして、微妙なバランスを保ちます。

 ベッド着は白いレース織で足元まで届くもの。
 悲しげな眼、翳りのある表情をときおり見せました。
 バラードの力強い歌声に共鳴して、感情の起伏をおしとどめられないほどに…
 声を押し殺して踊ります。

  …暗闇のなかから記憶のひとつひとつが浮かんでは消えていきます。そのなかから希望をすくいあげて、指折り数え、祈ります…

 掌から指の先までをきれいに流してみせて、アップ&ダウンのはっきりした曲に気持ちを添わせます。



5.彩音しゅり

 山なみのかなた、森閑とした森の奥、薄暮に包まれた舞台。
 龍笛の音が高く低く、くぐもったり切れたりしながら耳に届き、心を鎮めます。
 草叢に立つ5人衆、緑と紫の照明で幻想的に浮かび上がります。
 若き牛若がスポットを浴びて八艘飛び、笛をバトンに持ち替えて、舞いはしなやかに。
 山伏のような姿で、ますらを4人がすっくと立ち、牛若を庇護するように取り囲みます。
 すすり泣くような語りこそありませんが、切羽詰まったようにかき鳴らす琵琶、追いかける太鼓と、息をするように規則正しいリズムを刻みます。
 美貌、叡智、武運と、すべてを持ち合わせる牛若ですが、それでも自らを高めるため、自己研鑚の荒行に励みます。
 ますらを4人は仁王立ち、揃って小刻みに垂直跳び。片足立ち、両足着地を繰り返し、地ならしするように床を踏みつけます。上体に頼ったダイナミックな振付を、屈強な下半身で支えます。
 流麗で溌剌とした牛若の動きと、ますらをの動きとは、コントラストが際立って絶妙なアンサンブルを作ります。曲の終わりに近づいたほんの一時ですが、牛若がますらを4人の動きに吸い寄せられるようにシンクロする瞬間がありました。牛若の成長を見るようで、うれしくなりました。

 背後で銀色の幕が閉じました。
 薄い襦袢を羽織り、しずしずと花道をたどります。表情を消し、そぎ落とされた所作を演じると、つぶらな瞳をした牛若は神秘的で、稚児のように見えてきます。
 襦袢は淡いブルーと、レモンイエローに部分的に染め分けられていて、照明の配色もそれにならうと、クールで清澄な世界が広がります。



6.空まこと

 チームダンスよりもいっそう酷なソロダンス。月間150回、寸分違わず繰り返すパーフォーマンスの試みです。
 プロジェクターで背景のスクリーンに、クローンのような4体の影が投影されます。
 メインの振りを追って、色つきの影絵が踊りだします。
 軽快なリズムでノリよく、はやる心を抑えて柔らかいステップ、ところどころ粘りつくフレーズで、一瞬にギア・チェンジ。
 クローン4体はそれぞれ個性的。互いに色違いのコスチュームを身にまとい、思い思いの感性で… …はしゃぐヤツ、サボる奴…
 レゲエ風のアレンジで一息ついた後、冒頭のリズムに戻って自ら鼓舞するように元気よく演じて、まとめました。
 魔法がとけるようにして4体が消え、白いスクリーンは目もさめるような瑠璃色に染まり、スポットを浴びてメインの姿が鮮明に浮かび上がります。はっと息をのむ瞬間でした。

 白の下着姿で花道を上り、ベッドはもの静かな曲、とぎれがちにつぶやくような歌詞に聞き入るようにして。なだらかなメロディ・ライン、アコースティックな伴奏、ブルース・ハープのような感じでオカリナの音色がかぶさってきて、胸を締めつけます。
 片手片膝立ちで、もう一方の脚を宙に流したまま静止して優美に見せます。
 もう一方の腕を天に指し伸ばすと、その手首には何個か、七色のブレスレットが目に入ります。ブレスレットどうしが触れ合ってかすかな音をたて、その場の緊張感を和らげます。



7.ayami

 映画音楽のように、緊迫した曲が新撰組決起の瞬間の空気を伝えます。
 陣幕の向こうでうごめく影、不穏な動き。表舞台に飛び出して、メインを挟んで2人、4人、…8人と、志を同じくする者がシンメトリーに並びます。
 揃いの羽織は色鮮やかにスカイブルーで、袴の落ち着いた色と好対照。
 胸を張れ、顎を引け、気を引き締めろ!
 それぞれの胸に去来するものは様々あれど、すでに心はひとつ、思案するメインの決断をみんなで促します。
 一段高くなった台から順に一人ずつ跳びおりたり、メインにつき従って一列縦隊のまま先頭の所作を模倣したり。意志や決断といった抽象的な概念を、具体的な身振りで示します。お芝居やナレーションという手段をとらずシンプルな演出で、凛とした空気をストレートに伝えます。
 メインを先頭に立ててにじり歩き、そうかと思うとチェスの盤面のように複雑なフォーメーションに移るにはさっと大股で歩きます。ダンスとは趣きの違った、統率のとれたマスゲーム風の動きは、新鮮です。

 花道上りは移動台で、正座の姿勢で襦袢に着替えます。
 背景には日の出の画像を投影し、シンフォニックな演奏でドラマチックに盛り上げます。
 オーケストラが最強奏、ティンパニが連打した後、残響が消えてゆきます。
 間を置かず、女性ボーカルがよく通る声で滑り出しました。

 ♪最初の約束…

 心地よいテンポで進み、旋律はゴスペルのようなうねりをはらみます。
 明るい表情で、繊細に指先を泳がせます。
 曲の息づかいを汲むように、しなやかにポーズを連ねます。キメたポーズを引くように、なだらかに見せる切返しが、歌の流れのままに面白いように運びます。
 花道戻りでミラーボールに吸い込まれそうになる頃に、いよいよ曲は大詰めに。

♪風が吹いてゆく…

 3度目には半オクターブ上で歌われます。片膝をついて上体を反らせ、のびのびと翼を広げるようにして、気持ちよさそうに演技を終えました。



8.フィナーレ

 祭り太鼓に法被で、にぎやかに。おくんちの龍踊りのように、メインが持つ玉を吹き流しで追わせて、圧巻です。
 この1年の門出を祝い、晴れがましい顔が舞台に並びます。


                                      以上

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