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『アマチュア演奏家から見たマンドリン音楽』をテーマとして、団体の内外を問わず、演奏家が持つ独自の音楽論を堅苦しくない雰囲気で掲載していくコーナーです。他団体の方からの寄稿大歓迎です!

記念すべき第一回目は、おかテリ氏です。

第1回 おかテリ氏が先輩から教わったこと
「トレモロはふり幅だ!」

初めて楽器に触ったのは、高校1年の4月。場所は図書館下の、通称ピロティーでした。

当時、マンドリンどころか音楽的な素養も経験もない僕は、もちろんやる気などまったく なく、「どうやってこの地下牢から逃げ出そうか。」ということしか考えていませんで した。

先輩(今思えば、現中大コーチのE氏)に連れられて、マンドリンを弾いている先輩に 嫌々楽器を持たされ、「弾いてごらん」と一言。 「はぁ」なんて答えて、チャンチャンと弾くか弾かないかのうちに、「うまい!この子 には素質がある!」なんて言われてしまって、それから13年です。

先輩、本当に僕はあのときうまかったのですか?素質がありましたか?

チャンチャンやっている内に一週間ほど経ち、めでたくマンドラに配属も決まり(当時、 ドラを希望する一年は少なかったので、最も流されそうなタイプを先輩が指名したようで す)、いよいよお客さん扱いされることもなくなりました。

当時の先輩(これがまた大人物で、未だにこの人には頭が上がりません)に教えられたの は一つだけ。

「A線を弾くんだ。そう、その下から二番目の弦な。そこを弾くときに、上の弦に思いっき り引っ掛けて、下の弦まで一気に振り下ろすんだ。俺らが合奏してる間はそれを練習して いるんだよ。それでさ、神の声がいつか聞こえるから、もうそれはできたよーってさ。そし たら次のこと教えてあげるからさ。」

先輩、合奏って3時過ぎから6時過ぎまでやってましたよね。僕は毎日3時間思いっきり振り 下ろしていましたが、一向に神の声が聞こえる気配はありませんでした。今に至るまで、 聞いたことがありません。

聞こえないまま日は経ち、今までのは実はダウンだったと。今度はアップを教えてやる。 なんて言われても、戸惑うばかりでした。しかも、ダウンとアップの連続がトレモロなんだ と言われても全くイメージが湧きません。とんでもないクラブに入ってしまったという思い だけが強くなります。

でも、気が弱いものですから主張などできるはずもなく、僕の意思とは無関係に指導は進み ます。アップの際のアドバイス。

「A線を弾くんだ。そう、その下から二番目の弦な。そこを弾くときに、下の弦に思いっき り引っ掛けて、上の弦まで一気に振り上げるんだ。俺らが合奏してる間はそれを練習して いるんだよ。それでさ、神の声がいつか聞こえるから、もうそれはできたよーってさ。そし たら次のこと教えてあげるからさ。」

マジっすか?何か力学的に反している気がするんですけど。永遠にできる気がしません。 とは言えなくて、またひたすら練習。ちなみにこの時の勘は正しいものでした。未だにできな い。

二ヶ月ほどそれをやっていると、さすがにちょっとはできるようになってきます。しかし、 まだトレモロなんて呼べるものでは到底なく、ガリガリベリボッターンなんてひどい音が出 ています。

8分くらいまでは結構できるようになっても、16分は世界が違う気がしてました。この勘も 正しいものでした。

練習風景
練習風景

そんなこととは関係なく定期演奏会は迫ってきて、戦力としても一年を鍛えなくては演奏 会にならなくなってきます。当時のドラは3年1人、2年1人、1年2人という少数精鋭でした。 思えば少数精鋭以外で演奏会をした経験があまりありません。

先輩の声が冷たく聞こえるのもこの時期です。

「はーい、今からトレモロします。メトロ一本。120の16分ね。遅れないこと。」 ああ、すいません。メトロ一本という単位はありませんね。これは当時使用していたネジ式 メトロノームが尽きるまでという意味です。約25分。必死になって、早く尽きるメトロを探し ましたが、どれも変わりはなく。ボロメトロだから切れる5分くらい前になると振幅が小さく なって段々速くなるという代物。疲れた頃にもう一つギヤを上げなくてはいけません。

「昔の先輩は毎日2本これやってたんだからねー。」 なんて言われてもなんの慰めにもなりません。

「広島カープの正田はキャンプで毎日バットを3000本振ってたんだからねー。」 と言われるのと同じくらいの現実味しかありませんでした。

120の16分を、楽器弾き始めて二ヶ月の人が25分弾く。これはきついです。できません。 10秒弾いてはピックがずれ、また10秒弾いては腕が疲れ、苦痛以外の何者でもない練習でした。

頭が悪いので先輩に相談します。

「ピックがずれちゃうんですけど。」 「ああ、それはしっかりピックを持ててないからだな。」

どうすればしっかり持てるかは教えてもらえませんでした。

「トレモロが速くできないし、ピックが弦にひっかかってガリガリ言うんですよ。」 「大学の去年のドラトップは160の16分でスケールできたらしいぞ。」

適切な回答ではありませんでしたが、力強い説得力がありました。

できないまま8月の合宿に突入。

「一日3時間しか寝かさないからな!」 なんて脅かされましたが、当時の先輩方は人間ができていて、4時間くらいは寝かせてもらいまし た。

合宿では、昼間はパート練習したり、とんぼを焼いたり、合奏したり、卓球したりしていました。 雀の死骸を焼いていた先輩もいました。

夜はロウソク立てて、道路で練習していました。ひたすら基礎練習。 練習の意味がわかりませんでした。先輩に見守られながらひたすらダウンアップ。真っ暗な中で練 習するから、アップのときにE線の上のところにピックが入っているのに気づかなくて、A線の練習 をしているのにE線切ったりして。

「こんなことしても多分うまくはならないんだろうなぁ。」 と思いながらも、熱心に教えてくださる皆さんの好意を無下にもできず、バイーン、バイーンと ダウンアップを繰り返していたのです。

合宿も無事に終了し、帰ってからもひたすら基礎練習が続きます。

当時基礎練習に意味を見出していなかった僕は 「もう曲の練習してもいいですか?(もちろん、このときには合奏にも参加していたので、質問とし ては比較的妥当なものです)」なんて聞いては、

「お前ら、基礎練てのは何時間やってもやりすぎってことはないんだよ!」 なんて先輩に怒られてその後、例によって

「はーい、今からトレモロします。メトロ一本。144の16分ね。遅れないこと。」 少し速くなっています。できるか!と。

ところが、やってみたらできました。25分間一回も止まることなく引き続けられたんです。

マンドラ弾いてて、あれだけ「うまくなった!」という実感があったことはないですね。 ピックもガリガリいいませんでした。ちゃんと持てるようになってました。 今思えば、楽器弾くための筋肉が付いてきたのでしょう。トレモロのふり幅が段々大きくなっていっ たのだと思います。合宿で嫌々ながらやった練習が、大いなる意味を持っていたのです。

ここから13年、トレモロの苦痛の修行が始まるのですが、基本はこのとき先輩に習ったことですね。 いつも頭に置いてやっています。たまに、後輩に指導のまねごとなんかするときもこればかり言って ます。

「上の弦に引っ掛けて、弾く弦の下の弦まで一気に振り下ろすんだよ。」

これは中大の伝統的な指導方法なんですかね?

ドラの巨匠に聞いてもやはり同じことをおっしゃっていました。 ふり幅が大切だと。上の弦に引っ掛けて振り下ろすのは、プロレスラーがロープの反動を利用して走る ようなもんだ、と。さすがにわかりやすいです。

やっぱりプロでもアマでも、上手な人はトレモロのふり幅が大きいですよね。もちろん、わざと狭く して音色の使い分けなんかはあるのですけど。基本はふり幅なんじゃないかと思います。

アマの目というか、ほとんど思い出話でしたけど、まあ第一回ということで。

行き詰ったら呪文のように唱えましょう。

「トレモロはふり幅だ!」

2003年5月18日更新


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