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第9回 合田香氏インタビュー
アマチュア団体における指揮者 その3

--アマチュアオケにおいて、指揮者が“何をしたいか”を持っていたとしても、 それがバックボーンが無い中でやっていることが多いじゃないですか。 そうすると、やりたいことが独りよがりの変な方向に行ってしまう可能性があると思うんです。 修正してくれるコーチがいないようなアマチュアオケの場合には、 それを自分の中でどうやってチェックしていけばいいんでしょうか?

う〜ん、独りよがりっていうのは難しいよね。 昔から言ってるけど、音楽の感情的なことは、 ボクはあまり(プロとアマで)差は無いと思ってるんですよ。

合田先生
ロビーにて休憩中

どういうことかと言うと、キムチを食べて辛いのはみんないっしょ。 でも、犬が「ワンワン」って鳴くのを鳴くのを「バウバウ」って言うが如く、 洋の東西っていうのは違うかもわからない。 洋の東西によって食べ物の味覚とか、音の表現とか違うから。 それはあるかもわからないけど、しかし例えば同じ日本人なら日本人で、 プロとアマチュアによって音に対するシビアさは違っても、感情は違わない。 きれいな女の人に会ったらうれしいとか、 美味しいものを食べたらうれしいっていうのは変わらない。 だからその辺は変わらないんだから、個人で感じることは、 それぞれ思いこみが激しくったって、それは独りよがりではないよね。

だから、例えばあなたが「こうやりたい」って感じること、 それについては独りよがりではないかもしれない。 ただ、楽譜の読みとりのノウハウに関しては違うっていうことはあるかもわかんない。 それはいわゆる独りよがりである可能性はある。 でも、ある音を聞いて「悲しい」って感じることを間違いだとは言えない。

そこの部分をどう感じるかっていうのは一人一人違ってて、 例えばビールをゴクッて飲んで、(実際に缶ビールを飲みながら)「あ〜っ、うまい!」。 そのうまいが75点のうまさなのか80点のうまさなのか。 練習が終わって、今風呂上がりにあなたがビールを飲んで、 「ぷあ〜っ!、このノドの潤いは80点です!」って言って、 ボクが「それは間違いだ、65点だ!」って言う権利はないわけ(笑)。 そういうことよ。だからそこには差はない。

だけど、ビールのこの缶を、こう「プシュッ!」と開ける。 この開け方について、「その開け方は邪道だろ!」って言う権利はあるかもわかんない。 どういうことかっていうと、飲んだ感想は違ってても、 例えば「ビールを飲む前にお茶を飲むなよ!」 「お茶を飲んだら、その後にビールのうま味を感じられないだろ!」っていう権利はあるかも。 だから、楽譜の読み方についての独りよがりっていうのはあるかもしれない。 それは難しいよね。

それをどうしたらいいのかっていうのは、ずいぶん専門的になってくる。 ただ何度も言うようだけど、音楽を「楽しい」とか「悲しい」感じたりするのにプロ とかアマチュアの差は全然無い。 だから大事なのは、アマチュアだからこそ、今自分の中で音楽を見つめる時に新鮮で いたいから、むしろ反対に感情はクリアーかもわかんない。 アマチュアの勝負のしどころは、むしろそこなんじゃないかな。 テクニックとか音程の良さっていうのは圧倒的にプロだよね。 毎日それで食ってるんだから。 だけど真剣に勝負しようとしたら、音楽の思いの部分では負けなくてすむわけ。

例えば毎年シュトラウスをやってるウィーンフィルとアマチュアの管弦楽団がシュトラウスのワルツをやるとする。 しかし「楽しくやろう」っていう部分に関しては負けないかもわからない。 あの人たちはそりゃ商売でやってるし、自分たちの血になってるから楽しめるのかもしれない。 でも本当に楽しめるっていう部分では、あの人たちより楽しめるかもわからない。 それがアマチュアの勝負のかけどころだよね。 だからやっぱり楽しくやらなきゃいけない。 アマチュアなんだから下手でもいいけど、楽しくやらなきゃ。 あなたたち(インタビュアー)は楽しそうだよね。

--まぁ、ウソっこもあるんですけど(笑)。 それはまぁ、教育として受けてきたからできるわけで(笑)。

そうそう(笑)。 だけど反対に、教育として受けてきたから、弾く時に楽しそうに弾くという形から入る。 そしたら、形から気持ちが引きつられるということもあるし。 だけど、特にポルタビアンカに出てる人たちの共通点っていうのは、 学生時代にやっぱりどこかで楽しんだんだよね。 だからもう一回やる。 それはボクはいいことだと思う。 例えばスキーなんかでも、ぜーんぶイヤな思いばっかりしてたら、もうやんないよ。 スキーに行って、開放感だとか風をうけて気持ちいいとか、そういうことがあったら、 仮に三回目に木にぶつかって骨折したりしてもまた行くかもわかんない。

だけど、これを言っては元も子もないんだけど、 そしたらプロはつまんなくやってるのか?っていったら、決してそうじゃないんだよね。 プロの一番大事なのは、年がら年中仕事としてやってても、やっぱり楽しめる人でないと。 それは何の仕事でもそうかもしれない。 例えば学校の先生とかでも、本当につまんなくてやっている先生の授業っていうのはつまんないんだよ。 でも生徒に教えるのが楽しくてやっているのなら、受けている生徒たちも楽しい。 やってる人たちが本当に楽しんでなかったら、相手もつまんない。 そういうことだよね。

2002年7月4日更新
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