合:正直言って、ないです。ただ、同じ作業をしているパートはひとつだけある。ハープです。 もう20年以上教えている中学・高校のオーケストラがあるんだけど、たまたまカヴァレリア・ルスティカーナを ハープ入りで演奏したんです。そうしたら、一気に変わった。音楽が流れるんです。表情の流れを作ってくれる。 そうすると音程も良くなりますね。 --そうするとギターは音楽の流れを作る役割? 合:メトロノームですね。ただ、きっちり動くんではなくて、揺れのあるね。 つまり点しか打たないメトロノームではなくて、針の動きが見えて拍が見えるメトロノームですね。 --最初に見たギターパートは、マンドリンとマンドラに追従しているようだった・・・ということでしょうか。 合:チェロ、ギター、ベースは、その頃は打楽器、リズム楽器のようだったんです。 ジャンジャンジャン、っていうね。 音程感がないんですよ。ハーモニー感が。このハーモニーからあっちのハーモニーへというように、 ギターはハーモニーを担える楽器なんですけどね。また、アルペジオなんかでもリズムの動きをつくれるんだけど、 それと同時に、ハーモニーを握れる楽器です。それひとつで表情をつくっていける楽器なんです。 チェロも、リズムしかなかった。それで音色(おんしょく)がない。チェロは、音色を求めれば、とたんに ちゃんと表情をつくって弾けるんですよ。今日の練習みたいにね。 ベースは、本当に付属物だった。でもぼくがベースに求めたのは、音楽の中心であることです。表情の、拍感の ど真ん中にいて、特にアルコで弾いたときは響きの一番の土台であるということを求めてやってきた。 このようして、ベースに求められることは増えてきたよね。 --そうなってしまった原因はどこにあるのでしょうか? 合:指導する人たちに十分な知識がないことでしょうね。求め方がわからなかったから、求められなかったんでしょう。 求め続ければ日常的なものになる。普通のことになる。チェロに音色を求めれば、美しい音になる。 チェロがごついという意識はやめて、チェロの低弦は豊か、チェロの高弦は色っぽいと変わったほうがいい。 チェロの高弦とドラの中弦と、どっちが色っぽいか、色っぽい対決をしたほうがいい。 「おれたちのが絶対いい音なんだ!」って思うような自信を持って弾いたほうがいい。 マンドラの人たちって、マンドラの良い音域を弾くときなんかもう自慢で弾いてるじゃないですか。あれはマンドラ独特。 チェロも父のような低音、乙女のような高音、という求め方をしていけば、もっと変わってくる。 まだまだ弾く体勢がリズム楽器になってしまっていると思いますよ。 --リズム楽器だとオケにどのような弊害がありますか? 合:その音域に音色がなくなりますね。太い弦のほうが、表情を持てるんです。倍音がたくさんあるから。 マンドリンは実は、表情をコントロールするのは難しいんですよ。 特にあの一番細い弦でいろいろな表情を出すことは、実は難しい。 太い弦のほうが、楽器の胴体の空気量もあるし、明らかに表現の幅が違いますよね。 --バイオリンオケの外声っていうと1stとチェロ、ベースあたりを指しますよね。内声だと2ndとビオラ。 マンドリンオケはそれぞれどこに当てはまるんでしょうか? 合:あまりその内訳に意味はないかもしれないね。和声のベース音を弾いてるのと 一番トップの音を弾いているのが外声、つまりメロディーラインなんです。 内声っていうのは、音域の問題よりも、和音をどうやって補充しているかなんですね。 マンドリンの場合、マンドラがメロディーを弾いていて、チェロ、ベースがいて、1stと2ndが内声を弾いている こともありますよね。低い音域で内声を弾いているときもあるし、マンドラよりも上の音域で内声を弾いている ときもある。だからそれは、音域の問題ではないですよね。 --マンドラの動きっていうのは、バイオリンオケの中のチェロの役割なのかな?と思って弾いています。 マンドリンの中のチェロは音域上、損してるのかな・・・と。 合:チェロもさらに音色や表情が出てくれば、もっと違ってくると思いますよ。チェロに音色ができれば、 ギターとのバランスができてくる。マンドリンオケのギターの問題はトレモロができないってことですけど、 チェロはそれをできるのだから、音を練り上げていくことができる。もっと表情をつくれるんですよ。
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