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第31回 合田香氏・前野一隆氏対談
プロにとって"音楽"は楽しい?

--僕らにとって、音楽っていうのは趣味なんですけど、合田先生は仕事ですよね。これって楽しいものなんですか?

合:僕がおいしいご飯を作ろうと思うとき、それは楽しみなんですね。でも、プロの料理人が料理を作るのは仕事だと。だけど「料理を作る」っていう作業はどちらも変わらないんです。音楽をやるってことも同じことなんですね。カレーを食べて、「辛い」とか「おいしい」とか、フラれて「悲しい」とか、彼女がプレゼントくれて「嬉しい」とかいう感情は変わらないんです。

 ただ、それを表現するノウハウを持っている、常に表現できるっていうことの責任がプロにはある。僕もこの前カレーを作っておいししかったんだけど、それはたまたまで、10回作って全部おいしいとは限らないでしょう? だけど、プロは10回ともおいしくなくちゃいけない。そういう努力をしなければいけないところに大変な部分はあるかもわかんないけど、音楽を追求するというについて、プロとアマとの違いはないんです。楽しいですよ。

 今回は、別の意味でも楽しいですね。妥協しないっていう決心をして、その結果オーケストラがどんどん良くなってる。僕が今精神的に、皆さんに対して持っていってるものと、音楽大学の学生たちやプロのオーケストラに持っていってるものには、なんら違いはないわけです。新しいことにどんどん取り組んでいける。そういう意味でも楽しいですね。

--アマチュアの立場で指揮をされている前野さんとしては、ポルタビアンカで指揮することは楽しいですか?

前:皆さんの言っている「楽しい」が何を指しているかにもよりますけど、まず僕の場合はいい演奏会をしたいっていうのがあるんですね。いい演奏会っていうのは、僕の考えなんですけど、弾く人がいて、指揮者がいて、お客さんがいて、空間がある。その全部を含めたエネルギーみたいなものがいっせいに動くものだと思ってるんです。手に汗にぎりっぱなしで、場面によっては涙。で、ふと横を見ると見ず知らずの人たちも同じようなことになってる。息をのむときは、皆いっせいにのんだりする、静寂があると、みんなに同じような静寂が訪れる。

 そういうものを体験すると、自分の精神的な高まりというか開放があって、僕らが日常で経験しているものとは異質な状態になるんですよ。音楽のすごいところは、そういうことを自分の中から導き出すツールとして優れているという点だと思うんです。綺麗な絵を見たり、おいしいものを食べたりしてもそういうふうにはなるんですけど、音楽の場合はある意味見えていないものがたくさんあるから、個々の中で考えたりする部分があるんですね。そんな空間を作り出したい。ポルタの普段の練習=作業はそんなには楽しくないけど、いい演奏会ができる可能性が見えるという意味では楽しいんですよ。

--前野さんにとっては音楽は仕事ですか? 趣味ですか?

前:仕事じゃないでしょ、お金貰ってないんだから(笑)。趣味っていうのでもないんですよね。世間一般的には趣味なんですけど、お酒とか食べ物とか、そういった楽しみとは別のジャンルですよね。

合:彼は音楽をやることで、エネルギーを刷新してるんだなと。前野さんにとっての音楽とはそういった意味では趣味とかではないんですね。音楽をやり、皆さんと共有した時間を体験することによって彼の中のエネルギーが浄化されていくのが、隣で見てて分かるんです。

--確かにそう言われると、僕らにとっても音楽=趣味とは言い切れないような気がしますね。

2005年10月21日更新
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