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第19回 合田香氏・前野一隆氏対談
チューニングについて

--舞台上でチューニングをしない、というのはそもそもどうなんですか?

合:いや、僕が最初に来だした頃は、舞台上でチューニングすることを求めてやっていたことがありましたね、本番で。

--そういえば僕らが高校生の頃、大森さん(92年卒)がトレモロでAの音出していましたね。ところが、楽器の特性の問題として、チュインって余韻で合うんですよ。で、そうすると奏者はどっちで合わせたらいいのかっていうのがあって…

合:ちなみにピアノでも、ターンってたたくと最初と後とピッチが違うんですよ。

--どっちが正解なんですか?

合:全体ですよ。

前:うん、落としどころで。っていうのは、アタックと余韻があって、その真ん中にうまく、落としどころが聞こえるようにするんだけど…それはでも、みなさんの耳が…そうなっていないです。(笑)

合:あとね、もっと言うと、オーボエがA出しますよね、チューニングするとき。Aの中に含まれている倍音っていうのがありますよね。倍音の構成が、上の高い方のなかにかたまっているのか、低いところにかたまっているのか、人によって違うんですよ。同じオーボエでも。そうすると、かたく聞こえるオーボエもあれば、柔らかく聞こえるオーボエもある。結局、倍音構成が高く聞こえる音っていうのがあるんですね。そうすると、メーターは442指しているのに、それよりも高く聞こえる。それはつまり、響きの問題なわけですよ。全体として要は、響きなんですよ。

前:そう考えると、あとのほうだよね。余韻のほう。

合:だから、響きが共有されることがとても大事。よくチューニングでよくやるのが、オーボエがAってやったら、オケによっては必ずベースからしか合わせないところがあるの。低音が最初で、次にバイオリンがあって、っていう。

ゲネプロ風景
ゲネプロ風景

前:だからみなさん勘違いしているのは、オーボエの音にみんながAの音を忠実に当てているんじゃなくて、オーボエの音が構成している倍音をみんなが想定して、自分の楽器の出る音域のベーシックな音として、どこをとるかを決めているだけなんですよ。Aから発せられる音が、どう鳴るのかっていうのを想定してチューニングする。

合:もっと究極を言うとね、全体にこれくらいの442のAを出すじゃないですか。だけど、はまりがいいなって思うと、ベースはそれより下げることがあるわけですよ。ぴったりはまると、きついわけ。土台がこれくらい大きいほうがいいなって思ったら、それを下げることがあるわけです。で、ここは自分はピッタリはまると下がきついなって思ったら、ピッと上に取ることはある。要は、全体としてはまりのいい、収まりのよいところがチューニング。だから、みんなで長さをあわせることがチューニングじゃなくて、いい響きの土台をそろえること。

--そういう教育を受けたことがないから今の話も想像の中での話になってしまうんですけど、AのピッチとEのピッチを合わせて、そのAはAで合わせて、EはEでメーターで合わせるんですけど、でもAとEの響きっていうのは相対的なものだから、そのAの中のEと、Eでぴっちり合わせたものっていうのは違うわけじゃないですか。でもそういう教育を受けていないから、言葉で言えるけどわからないんですよね。

合:平均律と純正調っていう話が、ありますよね。周波数、数字で合っても響きで合わないってことはあるわけです。いわゆる、数でぴったり合わせてもうねりが出ますから、むしろ響きとして綺麗になる音が、チューニングとしては大事。

--ではチューニングの方法っていうのは見直したほうがいいのですか?

合:本当はね、みんなそれぞれでチューナーで合わせて舞台で合うっていうのは、なかなか難しいだろうし。もう一個難しいのは、今の話っていうのはフレットのない楽器ですからね。フレットのある楽器っていうのはなかなか、難しいよね。

--トレモロっていうのは物理的な話として、ピッキングの集合体じゃないですか。ということはアタックの集合体なわけですよ。ということは、アタックの余韻が高い中でピッチを合わせると、その高いままでいっちゃうんじゃないかっていう不安があるわけですけど。

合:だけど、響きの中に残るわけですよね。それが紡がれていくわけですから、そうすると一定のラインを求めることができるんじゃないですか。

前:アタックと響きと両方出ている。

合:だからむしろ難しいのは、Aをチューナーで鳴らすじゃないですか。で、よくみんな現役の人たちがやってるけど、コンマスがピンって弾いてみんなピンって弾く。で、合うかもわからないけど、みんながトレモロし始めたら違うんじゃないかなって気がするわけ。だったらみんな最初からトレモロして、トレモロで合わせればいいんじゃないかって僕は思うことがある。

--楽器によっても全然違いますからね。

合:トレモロになったときのギャップってのが、あるよね。

--楽器にもよるし、弾き方にもよるんですよね。きついタッチにすると、チュインが余計に上がったりとか。

合:やっぱり僕たちも学生のときにそういう話をよく、チューニングのときにしていました。普段吹く口のプレッシャーとかと、違うやり方をしてチューニングしても、意味ないよって。そのときだけAをつくって、吹き始めたら違うっていうのだったら、そのチューニングは意味をなさないわけですよね。

前:だから、余韻で合わせるほうがいいんですよね。

--余韻が正解ですか。

前:だと思うな。余韻をとるときに、さっきのチュインじゃないけど、あんまり強くはじかないほうがいいと思う。かき鳴らす楽器だから、弾いた振幅で振れるようにはじいたほうがいい。チューニングのときのはじき方は、ベシッベシってはじかないほうがいい。うるさいところでマイクが拾わないからって、みんなベンベンベンってはじく。だから、全然違う音を出してる。

--そういう話は全体としてもっと、していくべきだと思うんですけどね。学生にもそうだし。

合:あとマンドリンは、弦が2本あるわけですよね。そうしたらその2つの、処理のされ方っていうのが違うんじゃないんですか、ピッチの構成される…

前野:みんなね、たぶん下の弦が低いと思う。

--そう、ちょっとだけ短いわけですよね、下の弦っていうのが。だから上のペグまでの距離は短いし、反対にブリッジからの距離は長いですよね。そういう意味では、厳密には違いますよね。

前:響きを合わせないとね。

合:そうそう、本当にそうだよね。

--舞台上での調弦に関しては、今ポルタはやっていないですけど、どうですか?どういうやり方でやっていくってのはありますか、初めてのチャレンジだから…

前:勘違いしないでほしいのは、調弦しないで舞台でいきなり調弦するっていうのはなくて、調弦していて出て行って、そこで響きをみんなが確認する。響きがおかしいなって思ったら、そこで直す。

--そのときはたとえば、酒折さんがペンペンってはじいて、それに合わせるようなかたちでいいですか?

前:というよりは、酒折さんが座ったままA線をトレモロして、みんながAを鳴らして、他の弦をちゃんと、マンドリンだったらAとEをやってみるとか、AとDをやってみるとか、DとGをやってみるとかみんながそれぞれやってみて、全体の響きをつかんでってことが正しいと思う。何の弦がとかじゃなくて、Aを、基点をまず出して、それにたいして響きがどうなるかっていうのを、みんなが確認する。

合:今度みんなでやってみようよ、練習で。みんなチューナーで、自分たちのところはきちん合わせて、酒折さんがトレモロでやって。

前:でも結局、みんなちゃんと5度になってるから、ガーってジャーって和音でならすと、その和音ができるのよ。それがちゃんと響くかどうか。自分がちゃんとそれに乗れるかどうか。ついでに演奏会本番だとガチガチになっているから、腕の慣らしにもね。

合:あと耳が慣れるね、空気の音を聴ける。

2003年10月7日更新
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