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John Fahey その2 重箱の隅情報

 前回予告した78rpmの補足ですが、残念ながら入手できませんでした!ショック....ですが、その78rpmをリリースしていたフォノトーン・レーベルのアーティスト、バックワーズ・サム・ファーク(フェイフィのデュオ78rpmもある白人ブルース・ギタリスト)のものは多数到着予定ですので、次回そのレーベルの雰囲気だけでもお伝えできればと思います。つまり、物がまだ手元にない!またまた予定変更です。申し訳ないっす。

 

 フェイフィと、その友人でもあるエド・デンスンが起ちあげたタコマ・レーベルのからのファースト『John Fahey / Blind Joe Death』(Takoma C1002)は、59年録音のファースト・エディション6曲に、64年にカリフォルニア州バークレイで録音し直した4曲を加えたもの。これがタコマ・レーベルからの最初の音源だと思っていました。だってファースト・リリースは、フェイフィによって再発見されたミシシッピ・デルタ・ブルースの重鎮、ブッカ・ホワイトの『Mississippi BluesVol.1』(Takoma B1001)だから。ところが!そのブッカのアルバムに「RememberanceOf Charlie Patton」という、ブッカ自らパットンとの思い出を語る興味深いトラックがあり、その語りの後ろに、うっすらとインスト・ブルース・ギターが聴こえるではありませんか!ホントに重箱の隅の情報ですが、ギターのスタイルといい、トーンといい、これはフェイフィでしょう。例えフェイフィではないとしても、というかここが大事なのですが、エコー処理されたブッカの語りにアンビエントとしてのブルース・ギターを鳴らす、という立体的な思い付きを、プロデューサーとしてOKを出すのですよ。一聴すると、なんか後ろで鳴ってるな、くらいの感じ。だが、このトラックはフェイフィとタコマ・レーベルの興味深いスタンスを、裏側からではあるが、これ以上ないくらい物語っている。

 ちなみにこのレコードに、フェイフィは極めてパーソナルなライナーを寄せています。パーソナルというのは、ギターのチューニング、キー、フィンガー・ピッキングの方法といった、ギターを弾く人のためのような解説だから。マイケル・ステュワート(前述のバックワーズ・サム・ファークの本名。フェイフィが来日したおりこの人のことを尋ねたら「あいつは****でやばいことになった」と言ってました。??)、スティーヴ・カルト(ブルース研究家・プレイヤー。やっぱりフェイフィに尋ねたら、「あいつは俺のワイフを寝取った」と言ってました。ほんとかよ!!)といった、ヤズー・レーベルの編集盤などにライナーを寄せている人達の文章も、やはりそういったプレイヤー本位の解説になっている。このブッカのライナーがその走り?と深読みしたくなってしまう。

 そのスティーヴ・カルトですが、戦前78rpmのリイシューをメインにしていたヤズー・レーベルの新録部門、ブルー・グース・レーベルより、世にも素晴らしいカントリー・ブルース・アルバムを一枚リリースしています。75年。黒人シンガー、デイヴ・マンとのデュオ名義のもので、『Looney Tunes』(Blue Goose 2017)と題された、まさにLooney(気違い)な内容。複雑極まりないギターのリズム、躁状態のヴォーカルが全編にわたって繰り広げられているアルバムなのですが、フェイフィがなんとライナーを寄せている!これがホントに素晴らしいライナーで、アルバムの内容をそのまま文章にしたような感じ。見たこともない英単語がやたらと使われていて、英原文を眺めただけではチンプンカンプン。なので辞書を引き引き訳しました。

 

 “スティーヴ・カルトって誰だ?なんでカルトは俺に対しそんな恐ろしいことを言う?それでなんで俺はそんなレコードのためのうたい文句を書いてるんだ?その問に答えるのは、これに答えるのと同じくらい難しい:“俺は誰?”。この二人がどこでこんな込み入った音楽を知ったのか俺はわからない...ほんと知りたいよ...複雑な音楽を高尚なものだというのは、ただの思い込みだと思うが、彼らの場合は文字どおりそうなんだ...とても素直で分かりやすい楽曲なのに、じつは、常軌を逸して洗練されている。なんのためらいもなく、この音楽を“アート・フォーム”と呼べる。カルトは完璧なギター・マスター。リズムは込み入っていて不均整、だが正確だ。デイヴ・マンの声は信じられないほど柔軟。あらゆる微妙な差異を表現できる。どうか俺と同じようにこのレコードを楽しんでくれ。楽器演奏の可能性を追求してやまない彼らの意気込みを聴いて楽しんでくれ。だがその彼らの意気込みは、反社会的、犯罪的な行為だがな。ひっそりとこのレコードを買ったおまえ、誇りを持っていいんだぜ。この危険な倒錯者の社会復帰に貢献したんだからな。

 

 このアルバムの収録曲になんと「John Fahey’s Existential Quagmire Blues」(ジョン・フェイフィ存在意義窮地のブルース)というものがあり、最初の“恐ろしいこと”とはそのことでしょう。このアルバムがリリースされたのが75年だから、確かに...とうなってしまう。せんだってリイシューされたフォークウェイズ・レーベルの名選集『Anthology Of American Folk Music』のブックレットにも、フェイフィは濃いアーティスティックな文章を寄せている。まとまった形で読みたいと思っているのは僕だけではないはず。

 次回ハイファイ・マガジン更新時までには、前述のフォノトーン78rpmが届いているはずです。予定どおりの内容に戻りたいと思っています。

 

 

(阿部広野)

 

 

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