John Fahey その3 フォノトーン・レーベル
やったー!届きました。バックワーズ・サム・ファークの78rpm、11枚も。おー!メアリーランド州フレデリックという町にあった、Fonotone(フォノトーン)というレーベルのもの。フォノトーン!50年代後半から60年代中期に渡って、フェイヒィも30枚ほどの78rpmをレコーディング、リリースしていた、カントリー・ブルース/ギター・ミュージックのほんとのパイオニア的レーベル。タコマはもちろん、東海岸のブルー・グース、西海岸のアーフリーといったアメリカン・トラディショナル追求型レーベルに、絶大の影響を与えたはずの、小さな手造りレーベル。しかも10インチ78回転専門!えーっ!主宰はJoe Bussard(ジョー・バサード)といって、フェイヒィと深い親交があったブルース研究家・78rpmコレクター。ブルー・グースのNickPerls(ニック・パールズ)、アーフリーのChris Stratchwitz(クリス・ストラウィッツ)といった、いわゆるブルース・マフィアと言われる魑魅魍魎の代表人物。しかも録音しているのがフェイヒィやそのバックワーズ・サム・ファークといった、ハリー・スミスのアンソロジーに収録されているような珍音楽・新音楽に夢中になった変人たち。これはたまらんですよ。残念ながら、フェイフィのものは手に入らなかったけど。僕の個人的無人島ギタリスト、ファークのが手に入った!最高。
バックワーズ・サム・ファークは、後にメアリーランド州のシルヴァー・スプリングという町で、アデルファイ・レーベルを設立。彼のソロ・アルバム『True BluesAnd Gospel』が最初のリリースで、69年のことです。彼を始めとする無名の白人ギタリスト/ブルースマンの発掘・レコーディング、戦前に活躍していたカントリー・ブルースマンの再発見後のレコーディング、あのジェリー・ゴフィンやクリス・スマイザーといった良質のシンガー・ソングライター・アルバムのリリースといったように、地味ながらもタコマやブルー・グースと同じくアメリカーナを真摯に追求していた、評価の待たれるレーベル。彼に関してはここら辺が最も良く知られることでしょう。
実はアメリカ買い付けの際、メアリーランド州に立寄ったことがあるのだが、フェイフィが幼少〜青年期を過ごし音楽的に自分を決定したタコマ・パークと、前述のフォノトーンがあったフレデリック、そしてアデルファイのシルヴァー・スプリングは車で互いに10〜20分程度の距離。ワシントンD.C.をぐるっと取り巻く衛星町といった感じで、彼らが黙々と78rpmを掘っていた50年代は分からないけれど、D.C.の豊かさに頼っているあまり元気のない町々という印象だった。だがとにかく上品!しみのない小奇麗な住宅が並び、木立もきちんと手入れされていて、どうしてこんなところであのヘヴィーな音楽が産まれるのだろうか、と思ったのを覚えている。
これで全部です。レコード番号の最初の2ケタは恐らく年代だと思う。これらすべてがどういう訳か、臭い、見た目、ともに本プレス直前のアセテート盤のような状態。レーベルには曲目、アーティスト名がタイプ打ちされていて、”FonotoneRecord / Frederick, Maryland” と粗雑な印刷がなされている。そしてそれが、いかにも手作業といった感じで盤に糊付けされている。まだ全てを熟聴していないので曲解説は出来ません。フォノトーンに関しては、最初に述べたことと、フェイフィのソロが30枚前後、フェイフィとファークのデュオMississippi Swampersのものは3枚、ファークのソロが上の11枚あることくらいしか分からず、レーベルに関する記述も、フェイヒィのアルバムのブックレットに一箇所と、主宰者ジョー・バサードのジャグ・バンドのアルバムのライナーにちょこっと出てたもの以外見たことない。
バックワーズ・サム・ファーク。本名マイケル・スチュワート。50年代から現在に至るまで、ずーっとブルースに、それもカントリー・ブルースの最も濃いのにとり憑かれ続けている男。ヤズー・レーベルなどの、戦前ブルースコンピのライナーなどでおなじみのブルース好事家。ひとたびギターを持って弦を弾けば、ウワバミのようなフレーズがひょろひょろ出てくる天才ギタリスト。自身のレーベル、アデルファイからのファースト・アルバムの解説に、いわく“もしあなたが呑める人ならば、ビールを片手にリラックスしてスピーカーの前に座れ…”云々といった、「戦前ブルースの聴き方」という趣旨の文章を載せるブルース形而上学者。僕はこの人の2枚のレコードにずーっとやられっぱなしなんですよ!なぜこの人の音楽が最高かというのは
一番目に関しては、聴いた人ならば誰も異存はないでしょう。インストが多いことにも注目。でもあまり知られてないけれども、史上初めて録音された(24年)カントリー・ブルースのレコードはギター・インストだった。親指で2ビートのベースを鳴らし、人差指と中指でメロディを弾いて、経過音を時折挟んでというスタイルは出来上がっていた。あの過激なフェイヒィだって70年代後期まで、これを発展させていただけ。ギター・インストはブルース音楽のなかで全然珍しいことじゃない。 二番目、これが面白い。ファークのファースト・ソロは、通常ステレオでヘッドフォンで聴いていると、全体の音がモノラル状態のまま、すごく不自然な左右ステレオ移動してとても居心地悪い。実は、ハイファイの同僚ボウさんとこれは長らく話題になってた。ところがある日、ボウさんが“モノ針仕入れた!”とのことで、それで再生したこのファーストを聴いてみたところ、これがどうでしょう、全く違う音になったんですよ!もろデモ・テープのような、赤裸々な音。今回仕入れた78rpmとまるっきり同じ音!そこで僕ら二人は納得しました。ファークはモノ針、もしくはSP針(試しました。最高だった!)でこのアルバムを聴けといってるんだと。“戦前ブルースの聴き方”なんていうことを言う人だから。 フェイヒィと一番違うのは三番目かも。フェイヒィの場合、カヴァー曲は大体がギター奏法として面白いもの、またギター奏法として画期的だったものが多く、また演奏はオリジナルにとても忠実。ところがファークは自分側に、これでもか、と引き寄せる。ファーストに収録されているスキップ・ジェイムス「I’m So Glad」、ウィリアム・ムーア「Old Country Rock」など、原曲の持つ味わいさえ残さない。 四番目、これは三番目に通じるけれど、カヴァーの演奏に、原曲にはない不気味な音符を散りばめ、いやがおうにも、ファークが考えるブルースが浮き彫りになってしまている。聴いているこちらの指がいたくなりそうな演奏、でも決して高くないテンション。フェイヒィのレコードは、ともすれば数学で解けるかのような整然とした印象を受けることがあるが、ファークのレコードからは匂ってくるようなブルース感で一杯だ。水と油のようなファークとフェイヒィが活動を共にしていたフォノトーン・レーベル、今後さらに掘ってみます!
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