2.Tom
Paxton / In Concert ( BBC Strange Fruit 079 ) フォ−ク・シンガ−苦難の時期の貴重な音源の発掘というべきだろうか?
録音は、71年のイギリスでのもの。丁度「How Comes The Sun」の頃。フォ−ク・リバイバルの波はとうに退き、時代はフォ−ク・ロックからカントリ−・ロックの全盛期、又、James
Taylor を筆頭に新しい世代が古い世代を駆逐しかけていた、そんな時期だ。
生き残る試行錯誤の果てに渡英を試みていたのは、Tim Hardinも同様だった。Paxton、無論その長いキャリア故、ライブ盤も数多くあるが、「Last
Thing On My Mind」も「Ramblin' Boy」も収録されていないライブ盤というもの、寡聞にして知らない。
そして、その事が、新天地にかける彼の意気込みを伝えているようだ。自然破壊をテ−マにした「Forest
Lawn」「この庭は誰のもの」、ベトナム反戦を歌う「Jimmy Newman」は、John Denverで知られるようになったが、いずれも地味なものだ。本人のギタ−にベ−スのみ と言う構成は、「フォ−ク」にしがみついているようで、彼の頑固さも垣間見えているようで面白い。
3.Bill
Danoff / I Guess He'd Rather Be In Colorado ( Watch
Your Head
Music ) John Denverで言えば、この人を挙げなくていけないだろう。
Fat City を振り出しに、Bill & Taffy Danoff Starland Vocal
Bandを経て、現在はソロのBill Danoffだ。キャッチ−でポップな作品を作り上げるセンスは、フォ−ク・シ−ンでも随一だろう。世界的な大ヒット「故郷に帰りたい」の共作以来、John
Denverへの楽曲提供者として知られ、このアルバムは彼にとって2作目、John Denver への追悼アルバムという性格と、自作で振り返るソングライタ−としての足跡をはからずも語る、そんな体裁になっている。
無論、2度目になる「故郷へ帰りたい」を筆頭に、Fat City時代の「コロラドの彼」、Bill &
Taffy時代の「Late Night Radio」も当然収録。全く聴いた事もないのに、一度は聴いたような事がある気にさせる、それは彼の作家としての力量というべきだろうか。プロである。
4.Jack
Hardy / Bandolier ( Great Divide JH 4698 ) NY フォ−ク・シ−ンの大物、80年代のシ−ンを切り開いた「Fast Folk
Musical Magazine」のリ−ダ−として君臨した彼の新作。デビュ−以来一貫して地を這いずり回るようなしゃがれ声で、アメリカン・フォ−クのル−ツであるアイリッシュ音楽に根ざした音作りをリスナ−に披露してきた訳だが、今回はガラリと変わり何故かト−ンが明るい。乾いているような印象を受ける。慌てて裏返すと、裏ジャケには「メキシコの追い剥ぎ風」弾薬帯を身に纏う彼の姿。
「9/11」で弟を失い、無論、今回のアルバムも亡くなったそのJeffに捧げられている。今回、そんな風体でジャケ撮影におさまったのは残された遺族としての意志の現れと解釈も出来るだろう、哀しみの後の突き抜けたような明るさ、これこそ本当の「凄味」というものではないだろうか?
5.Weavermania
/ Live ( Depot 025 )
Pete Seeger生誕80年以来、トリビュ−ト盤の制作を初め何かと周辺が落ち着かない、「フォ−クの種蒔く人」であるSeegerのフォ−ク史に残るグル−プが「Weavers」である。Ronnie
Gilbert、Fred Hellerman、Lee Hays、そしてSeeger。その後世に与えた影響は音楽はもとより思想・信条まで多岐に渡っている。
で、「マニア」である。シカゴと言う地は、リバイバルの波とは無縁のようにフォ−クを育んできた処であり、例えば「Old
Town School」の歩み一つでも、その事は充分証明出来る。
そんな地から突然リリ−スされたアルバム、しかも「Weavermania」と言うグル−プ。全編Weavers、しかも名盤の誉れ高いかの「カ−ネギ−・ホ−ル」でのライブを充分に意識した代物であるのが、耳馴染んだ人には容易に解るだろう。メンバ−が驚くのだ。Michael
Smith夫人であるBarbara Barrow、70年代インディ−ズのフォ−クで名前も知られたTom
Dundee、Seeger役には3枚のアルバムをリリ−スしているMark Dvorak。Weaversを好きな方、無論モダン・フォ−ク好きな方には喜んでくれるだろう。彼等の熱心な心酔振りが溢れる一枚。Tom
Dundeeの参加には意外な思いがした。
6.Fourtold
/ Fourtold ( Appleseed 1071 ) Michael Smithって「Dutchman」の作者というだけの人ではないんだ、最近の活動を知れば、そんな気もするのが、このアルバム。「Weavermania」の続編と言ってもよさそうなのが、「Fourtold」としての男女二人組4名からなるコ−ラスグル−プ。
Michael の音楽パ−トナ−「Sing Out」誌の編集長Mark Moss夫人のAnne Hills。同じくシカゴで活動しAnneともレコ−ディングの経験があるCindy
Mangsen。このシカゴトリオに引っ張られる形で参加したのが、Cindyの夫である西海岸出身のSteve
Gillette。ソングライタ−として、又ソロとしてもキャリアを積むSteveにとっては、恐らく初めてと言ってよい「グル−プ行動」、コ−ラスの一員としての役割。自作の「Darcy
Farrow」「Molly and Tenbrooks」も初々しい。このグル−プとしての白眉は、フォ−ク・ファン周知の「Ballad
of Springhill」だろうか、リ−ダ−とおぼしきMichael Smithは、「Story Song」に比重をかけているように思う。
7.
Towns Van Zandt / In The Beginning ( Compadre 6-16892
- 52402) "本人の了解無し"という点で究極のものは、もうこの世に存在してないから、了解を得られないと言う事だろう。このアルバムは68年のデビュ−作を遡る事2年前、66年に録音されたものが、現在こうして陽の目を見る事になった。冒頭に申し上げた事は、本人が生存していれば果たして・・・・と思う部分があるからだ。デビュ−前、言ってみれば「裸」をさらけ出しているようなものである。時代を反映してフォ−ク・ロックの全盛期、そんな音に拮抗するように懸命に歌う彼の声には、初々しさが漂い好感がもてる。が、それを越えてお馴染みのギタ−の弾き語りで聴かせる作品群には真っ直ぐにリスナ−の耳を捉えて離さない磁力のようなものがある。後年の作品の萌芽とも呼ぶべきものも随所に顔を出す。
Towns Van Zandt、最初からソングライタ−だったのである。
8.Jim
Rooney & Rooney's Irregulars / My Own Ignorant Way
( JPR 002 ) Keith & Rooneyを皮切りにBlue
Velvet Band, Borderline, Mud Acres。
その拘わってきたアルバムの全てが「歴史的名盤」と評価されてきた希有で幸運なシンガ−、プロデュ−サ−の本人名義のRounder,
Apaloosaに続く久しぶりの4枚目のアルバムである。ボストン・ケンブリッジのフォ−ク・シ−ンの顔役として知られ、ナッシュビルに移住後は敏腕振りを発揮してかのNanci
Griffithを「歌姫」に仕立て上げた最大の功労者としても知られている。
さて、今回も以前同様、この人らしい「軽い」フォ−ク・カントリ−路線は変わらず、ぶっきらぼうに歌うスタイルは、もうキャリアを思えば「至芸」の域である。取り立てて、どの曲がどうだ、と言う事もないが、Keith
& Rooney時代の再録「One Morning In May」、Cisco Houstonの「Roving
Gambler」、Hank Williams「I'm So Lonesome I Could Cry」、何度目かの録音になる「Gone
Girl」等には、つい耳がいく。バックは手堅さで定評あるナッシュビル・プレイヤ−。それまでカントリ−やフォ−ク・シ−ンで活躍の機会がなかったブル−グラス・プレイヤ−にその道を指し示した功績は、彼ナッシュビルでの最大の功績だろう。