1.Tom Paxton,Anne
Hills & Bob Gibson / Best Of Friends ( Appleseed
1077) 80年代ってのは、ことフォ−クに限って言えば「古さ」と「新しさ」が混在する事なく、それぞれで独立した柱のような形で存在していた感じがする。
例えば、キングストン・コ−ナ−に代表される「モダン・フォ−ク復活」の動き、そして、NYの「The
Fast Folk Musical Magazine」から輩出される多くのニュ−・フォ−クス達。
今、思うと現在の「コンテンポラリ−・フォ−ク・シ−ン」の姿は、もうその時点で出来上がっていたと言う事だろう。
そんな当時の状況の狭間の中で、短期間のみ存在したトリオ。そう話題になる事もなく、僕も当時フォ−ク誌で存在を知り、軽く驚く程度だったような記憶がある。とはいえ、この「男二人、女一人」という構成には、彼等を知る人には、なかなか趣深いものがあるのではないだろうか?
取り分け、この編成のバンドを最初にアルバ−ト・グロスマンから持ちかけられたボブ・ギブソンの存在があるから、尚更ではある。
「シカゴ・フォ−ク・トリオ」としてみれば、これ以上ない歴戦のフォ−ク・トリオ。ボブ・ギブソン晩年の精力的活動の口火をきった一枚。よく録音を残しておいてくれたものだと思う。
2.Chris
Smither / Honeysuckle Dog ( Okra Tone 4971 ) 60年代後半から70年代初頭まで存在していたポピ−・レ−ベル。フォ−クに関してはエリック・フォン・シュミット、タウンズ・バン・ザント、ドック・ワトソン、そして本アルバムの主人公クリス・スミザ−の顔ぶれが所属していた、。よくも揃ったものだと感心する。
長い間、ワトソンは聴いているが「ストリングス入り」の彼のトラックが存在するのはポピ−のこの時代の他はない。ワトソンにして、これだから他は言うに及ばず、である。
さてクリス。ディ−プ・サウスの果てから憧れのエリック・フォンの住むボストンに移住し、「I'a A Stranger
Too」「Don't It Drag On」と今日も彼の代表作とされるアルバムをリリ−スし、実は3作目が、このアルバムのはずであった。
ポピ−倒産のあおりを受け、今日只今までレ−ベル名通り(お蔵)になっていたものの復活である。
20年ほど前にこのアルバムについて詳細にフォ−ク誌に語っていたが、成る程、ロ−エル・ジョ−ジ、ドクタ−・ジョン、エリック・カッツ、ビル・ペイン等クセのある手練れがサポ−トした、この時代の音を知る者には感涙の一枚。それにしても、である。後年80年代になってからリリ−スした「It
Ain't Easy」と内容が重複するのは何故だろう?
そう思って聴くと「出せなかった」クリスの無念さが伝わるようだ。
3.Amy
Fradon / Small Town News ( Leo Rising No Number ) 例の「ウッドストック・コミュニティ−」の一員として最も新しいメンバ−と認知されてきた「レスリ−&エイミ−」の片割れ。コンビ解消してからも何枚もソロ・アルバムをリリ−スしているエイミ−の今の所「新作」と呼べるもの。
好奇心にかられて入手したのはジョン・プラタニアなんて懐かしい名前がプロデュ−サ−として記載されていたからに他ならない。が、主人公はエイミ−。清楚な歌声に変わりなく、生ギタ−の音を中心にした「スモ−ル・コンボ」の演奏形態は、エイミ−の歌を引き立てるのに、実にこれ以上相応しいものはない。
自作、共作を含めオリジナルが多く、ウッドストックという土地で育まれた彼女なりの生活感というものが等身大に作品に反映されている。(リック・ダンコに捧げられた作品もある)。
フィル・オクスの「What's That I Hear?」を収録。唯一この一曲、他人の作品だ。
4.Andy Polon / New York
On & Strings A Day ( ADP 202 ) 80年代は「Fast Folk Musical Magazine」が登場し、「ニュ−・フォ−クス」の幕開けを告げた。
スザンヌ・ベガ、ショ−ン・コルビンやトレイシ−・チャップマン等、多くの人材を生み出した。だが、これだけではない。82年にスタ−トした当誌に出そろった、いわゆる言ってみれば「第一期の新人」の顔ぶれは、クリスティ−ヌ・レビン、デビッド・マッセンギル、ビル・モリッシィ−、ジョンゴ−カ、ロッド・マクドナルド、フランク・クリスチャン等、現在のフォ−ク・シ−ンの中心を担う面々だ。彼等が、次々にアルバムをリリ−スし、一息ついた頃にポッとアルバムをリリ−スしたのが彼アンディ・ポロンである。
ブルックリン・ブリッジをギタ−を抱えながらジョギングしているアルバム・ジャケットは、ニュ−ヨ−カ−の生活の一端を垣間見せるものだった。もう20年くらい前の
話だ。
これは、彼のその遅まきながらの2枚目なのだが、デイブ・バン・ロンクがギタ−の師匠というだけあり、達者なフィンガ−・ピッキングの腕を全編通して披露している。
「軽快」という他はない。歌声も実に軽やか。デイヴを追悼しての「Tribute To Dave Van
Ronk」なんてのも収録されているが、「哀しみが漂う湿っぽさ」なんてのは微塵もない。
「けれん味のなさ」。これが、この人の身上だろう。ひょっとして今もジョギングを続けているのだろうか?
5.The
Kossoy Sisters / Hop On Pretty Girls ( Living Folk 101
)
ワシントン広場のフ−テナニ−からは、ジョン・ヘラルドやエリック・ワイズバ−グ、エリック・ダ−リン等多くのフォ−ク・スタ−を生み出したが、彼女達もそうした中から、その才能を認められエリック・ダ−リンの伴奏でアルバムをリリ−スしたが、もう半世紀近く前だろう。振って沸いたような唐突な新作には、正直驚いた。
察するに、「I'LL Fly Away」をフォ−ク・ブ−ムの幕開け時に最初に吹き込んだ彼女達が「O Brother」以来、空前の「トラディショナル音楽再認識ブ−ム」に彩られている昨今のアメリカ音楽事情を充分踏まえた上での新作、再デビュ−という所だろうと思うのだが、そうなれば今更ながら「O
Brother」の波及効果は
凄いものだったろうと思う。
さて、コソイ・シスタ−ズ。今回は元「メタモラ」のピ−タ−・サザ−ランド等、アメリカン・トラッドに造詣の深い連中のサポ−トを得、昔変わらぬ(写真見る限り充分おばさんだが)歌声を披露している。
フレイリング・バンジョ−にフィドルが絶妙の間でもって被さってくる辺り、「よく解っている人」の「解った音作り」がしてある。New
Lost City Ramblers辺りを嫌ほど聴いたなら、彼女達を聴き、「林亭」なんて昔の日本のオ−ルド・タイミ−なストリング・バンドを聴くのも悪くない。
6.Jim
Henry / The Wayback ( Signature Sounds 1254 ) ボストン界隈で活動するギタリストでシンガ−&ソングライタ−でもあるジム・ヘンリ−の2枚目。
当地のシンガ−のバツキングでは既に馴染みのリチャ−ド・ゲイツやダグ・プレビンなんて名前もあるが、今回は、やけに「バンド然」した音作り、しかも「生々しさ」がダイレクトに伝わる音内容である。恐らく、ダビングは最小限にとどめ、「一発録り」を心がけた結果だろう。
印象的なメロディアスなインスト曲「Ruby」、訥々とした歌い方がデビュ−頃のジョン・プラインも思わせる「Drive-In
Motion Picture Show」、ギタ−・プレイヤ−としての資質は、そこここにドック・ワトソンのギタ−・プレイを全身であびてきた印象がある。好もしい一枚だ。
7.
V.A / Beautiful A Tribute to Gordon Lightfoot ( Borealis
500 ) トリビュ−ト・アルバムの粗製乱造がにぎやかな昨今ではあるが、とうとうライトフットもその対象になったようで、今回の参加は、マリア・マルダ−を除き、全てカナダの歌い手でまとめてしまったようだ。(ジェシ・ウインチェスタ−の扱いをどうするか、だが)。
さて、収録は、そのジェシの「Sundown」、ロン・ゼクスミスが歌うライトフットの最近作「Drifter」、余りに暗いブル−ス・コバ−ンの「Ribbon
Of Darkness」。シルビア・タイソンがメンバ−在籍のカルテットの「Song For A Winter's
Night」は、余りに妖艶な女性ハ−モニ−の披露で、こんな内容の歌?と首を傾げる解釈もあったりとか、この類のアルバムの楽しみ方として、オリジナルを傍らにおき、比較しながら聴くのが、一番の「楽しむ」コツだろう。
8.Peter,Paul
& Mary / Carry It On ( Warner / Rhino R2 73907 ) 小学生の頃に聴いて以来のファンである。音楽人生の原点。言いたい事は山ほどある、が、私的感情は抑えて。
50年代のモダン・ジャズ・ブ−ムの後のフォ−ク・ブ−ムに食い詰めたジャズ・プレイヤ−の幾人かは、フォ−クに走ったはずである。
60年代にフォ−クの世界で名をなしたベ−ス奏者、ビル・リ−、ラス・サバカス、ジェ−ムス・ボンド、無論、このPP&M専属で知られるディック・キニスも例外ではないだろう。
彼等によって、テクニシャンで知られるジャズ・プレイヤ−のイディオムが、そのテクニックで、ベ−スという楽器に一躍その存在感を与え、退屈極まりないフォ−ク・メロディ−に、ある種のコ−ド運びに影響を与えてきた。
例えばボブ・ギブソン、本アルバムの主人公の一人であるポ−ル・ストゥキ−なんて恰好の例であろう。
ベ−スなんて裏方の楽器であるから、そう語られる事もなかったがフォ−クの「裏面史」の一つである。
ボ−ナスとして添付されていたDVDの映像は、どれもこれも彼等の歩みが60年代と言う時代と密接に絡み合っていた事をよく物語るもである。
で、「傷心のジェット」を作者であるジョン・デンバ−と歌う映像。彼等に根底の部分で共通するのは、アメリカと言う国がもつ理想主義を頑なに信じ続けるバカ正直さであろうか?PP&Mは「社会性」を歌い、デンバ−は「自然回帰」を歌った。それは、どちらも歌による「文明批評」と言う事も言える。
フォ−クがブ−ムになったのも、高度に発達した文明社会へのアンチ・テ−ゼだった事を思うと、60年代が培った理想を求める精神文化は、デンバ−人気が頂点に達する75年まで終わる事がなかったのだという事実に改めて思い至った。出逢うべくして出逢う彼等だったのだろう。
フィル・オクスが無性に聴きたい。