CDs!CDs!CDs!   No.7 岩崎昌樹

 

1.Nitty Gritty Dirt Band / Welcome To Woody Creek ( Dualtone 80302-01176 )
脱退していたジョン・マッキュエ−ンが復帰し、久しぶりに彼等の音に接してみたが、これが実にイイ!
 もう、なんというか、僕らが知る彼等、詰まるところ70年代に脚光を浴びた名盤「アンクル・チャ−リ−」には遠く及ばないものの、あの頃の音の雰囲気に満ち満ちているアルバムだ。
 67年のデビュ−以来、幾多のメンバ−の編成を繰り返し、不動の編成に思えたのが「アンクル・チャ−リ−」の時期。このメンバ−で来日も果たし、少なからず日本の音楽シ−ンに与えた影響も半端なものではなかった。その後も「永遠の絆」(当時としてはLP三枚組)等の問題作をリリ−スし、ロックとブル−グラスの両方の世界を繋ぐ唯一のグル−プとして活動してきた。
 本作は、肩の力が抜けたようなリラックスした、この類の音の造りならノウハウは全て判っているといったベテランならではの姿勢に、とても好感がもてる。
 「ミスタ−・ボ−ジャングル」や「プ−横丁の家」に匹敵する歌曲を望みたくなるのはリスナ−としての我儘というものだろうか?


  2.Jim Watson, Tommy Thompson & Mike Craver / Meeting In The Air ( Barker/Sapsucker 2326 )
 数あるカ−タ−・ファミリ−物のアルバムでも、名作の度合いとしてかなりの上位に位置する名盤の復刻盤である。
 メンバ−は、70年代、80年代と変わらずひたすらオ−ルド・タイミ−なストリングス・バンドを標榜してきたレッド・クレイ・ランブラ−ズ。
 ギタ−、オ−ト・ハ−プ、バンジョ−の三つの楽器の奏でる音と三人の絶妙なハ−モニ−、特にマイク・クレバ−のテナ−には、このアルバムがリリ−スされた80年代前半、個人的にはかなりハマった記憶がある。しかも、カーターズのレパ−トリ−の中でも、(当時としては)余り知られていない曲を中心に歌われており、その点でも注目されたアルバム。このアルバム以降「Are You Tired Of My Darling」が色んな人に取り上げられる機会が増えた。
 今回の復刻で久しぶりにオ−ト・ハ−プを抱える機会が増えた。


  3.Bill Staines / Journey Home ( Red House 176 )
 アルバムタイトルだけで、凡その中身の見当をつける事が出来る数すくないシンガ−、ビル・ステインの新作。聴く前から判るというのは、翻って「安心して聴く事が出来る」という事だけど、これだけ安定感のあるシンガ−も今や珍しい。ベテランならでは、という事だろうか?
 今回もタイトルに相応しくブル−ス・マ−ドックのホ−ボ−・ソング「Rompin' Rovin' Days」、スタンダ−ドの「Stewball」、「Hobo's Lullaby」等に加えオリジナル、トラデショナルも含めた全13曲。
 そのどれもに、全てビルの味付けがしてある、余程の人でない限り、これを苦手という人はいないだろう。「フォ−クらしい」音造り。或る意味「王道」である。


   

4.Misty River / Willow ( Misty River 003 )
 女性4人からなるフォ−ク・グル−プの3枚あるアルバムの中からのデビュ−作。
 女性らしい丸みのあるふくよかな歌声とハ−モニ−、それに被さるフィドルの音色がとてもいい。
室内音楽のフォ−ク版みたいな所もあり、色ずいた街路樹を眺めながら、この秋一番聴いたのはこの
アルバムかもしれない。
 ケイト・ウルフ、トレイシ−・グラマ−、ポ−ル・サイモンに「Shady Grove」や「The Cuckoo」のトラデショナル、加えての彼等自身の作品。派手さもなく、大人しく、本来フォ−クソングは「ホ−ムソング」でもあるんだな、と感じいった次第。


  5.Eric Andersen / The Street Was Always There ( Appleseed 1082 )
 街角にギタ−・ケ−スを背に佇むエリック、裏にはフィル・オクスとのセッションらしきスナップ。これだけで、この通りが何処なのか、又このアルバムの意図も伺える。
 今回、エリックは、自分を育ててくれたNYのビレッジ、そして当時の朋輩やシ−ンの先輩たちに捧げたアルバムを、僕らに届けてくれた。
 Fred Neil, David Blue, Peter LaFarge, Tim Hardin,そして Phil Ochs(いずれも故人だ)Paul Siebel やPatric Skyといったもう表舞台から去って久しい人まで。特にエリックにとって兄に等しい存在でもあったオクスの曲のカバ−には、リスナ−としても精一杯の思い入れで耳を傾けたい。低迷していた70年代半ばに悲惨な死をとげたオクスだけに。
 それは、エリックへの礼儀でもあるような・・・・。


    6.Mutual Admiration Society / Same ( Sugar Hill 1067 )
 天才マンドリン弾きの呼び声も高いクリス・シ−リ−、ニッケル・クリ−クからショ−ン&サラのワトキンス兄妹、オルタナのバンドからグレン・フリップス。彼らによるコラボレ−ション・アルバム。
 これが「アメリカ−ナ」というジャンルなのかいな?と言うのが率直な感想。音の隙間がやたらに多く、でも埋める必要ないくらいのボ−カルの存在、必要最小限の音で、音の空間を意識的に作り上げているような、Steve Earl に共通するラフさ。ドラムスの音に一番それを感じ取る事が出来る。
 でも、アメリカ−ナ音楽が作り出す音の全般に言える事だけど、テキストは過去一杯ある訳だし、特に南部音楽を素材にアメリカ音楽が花開く70年代前半なんて、それこそ古典です。
 そんな時代に、リアルタイムでそうした音に触れる事が出来た僕は幸せだ、良い時代に良い音楽を一杯聴く事が出来た。
 そんな事を再確認したアルバム。


    7. Artie Traum,Chris Shaw,Tom Akstens / Big Trout Radio ( Twining Tree 0315 )
 NY郊外、ウッドストック周辺に住む彼等三人による「釣り好きによる釣り」がテ−マのアルバム。
Traum弟のジャジ−さ、正統派フォ−クのクリスとトムのトラッド嗜好、夫々の持ち味がメインで歌う楽曲に反映され、なんとも「ほのぼの和み」のアルバムに仕上がっている。
 特に、数年前に唯一のアルバムが日本のみでリリ−スされたトム・アクステンスの骨っぽい歌声はどうだろう。持ち寄りとは言え、彼のみ「馴れ合い」を受け入れない(テ−マがテ−マだけに)、僅かな時間の曲だけど「完全自己完結」の世界にいる。ナイ−ブではないんだけれども、生真面目さがこの人の信条だろう。成る程、ギタ−の音も端正で力強い。彼のTAKOMA盤にも共通するものがある。
 クリスは本人より「嫁」であるブリジット・ボ−ルのアルバムがおすすめ。
 こんなケ−ス多いんだよね、世間の評価。亭主より嫁。僕の家、か?


     

TO 岩崎昌樹さん

 快調ですね、岩崎さん。確かにフォ−クソングは「ホ−ムソング」でもあるし、NYのビレッジが持つ意味を今いちど解き明かして見たくなるだけの時間も過ぎ去りました。これだけ長い時間をかけてフォークを聞いてくると(お互い35年以上!)、いろんなことが見えてきます。寄席に行くと落語家さんのくすぐりに思わず笑っている人に交ざって、黙ってじっと耳を傾けている人がいるけれども、僕たちもフォークの前ではそんな客筋なのでしょうか。アーチスト自身がCDを作ることが簡単に出来るようになってきているこの時代、その恩恵にとても浴している音楽がフォークだとも思うし、これからまだまだ楽しみなことが起きる予感がします。また次回もよろしくどうぞ。(大江田)




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