九太郎 × 愛May 23 , 2005 - September 4, 2005

written by ちゅんちゅん



PROLOGUE


夕暮れの海岸。散歩を兼ねて愛は“アジト”へ九太郎を迎えに行く。
ハチマキが木星へ出発して以来、ロケット製作に更に熱が入った九太郎。学校が終わるとその足で“アジト”へ向かうのだった。
「ねー 九太郎クン。そろそろ帰らないと御母さんが……」
夕焼け越しに見る九太郎の横顔は一瞬ハチマキと間違える程に似ていた。
「 ! 八郎太さん……」
思わず声に出してしまった。
「――― え? あ―ハイハイもう片付けますって。母さん怒ってた?」愛の声に振り向く。
「…… 愛さん?」愛の眼から涙が零れ落ちる。
ハチマキが木星へ出発して数日、こんなにも早く会いたくなるなんて。やっぱり7年は長過ぎる。会いたいよ…八郎太さん。
「具合悪いの?」ロケットを弄る手を休め、九太郎は立ち上がる。
「ううん…大丈夫……」
「体冷やすといけないんだろ?コレ、着なよ」
足元に置いてあった上着を渡す。
「アリガト……」
「―― もう兄ちゃんに会いたくなった?」
少し意地悪く九太郎は言った。
「新婚だもんなァ、7年は長過ぎだよ。母さんは平気みたいだけど」
「そんな事…ナイ……」
愛は溢れる涙を止める事が出来ない。九太郎に背を向ける。
「あ…ぁ、悪かった…… ゴメン」
涙を拭う愛を横目に片付けを急ぐ九太郎。――― 数日前、「大丈夫、約束したから」とキッパリと答えたのは何だったのだろう?よく分かんねえ……。コレも“愛”ってヤツ??うーん、やっぱよく分かんねえ……。
お腹が目立ってきた愛を気使う様にユックリと歩く九太郎。
「九太郎クンの横顔がね、八郎太さんにソックリだったの」
「ふーん……まァ 兄弟だから……」
「そしたら 急に会いたくなって……」
再び涙が溢れてくる。妊娠中はホルモンの関係で感情のコントロールが難しくなる時がある。そんな事が本に書いてあったっけ……頭では分かっていても、どうする事も出来ない。零れる涙が更に追い討ちをかける。遂に泣き出してしまう。
「あ…あのさ、我慢しなくていいよ。オ、俺でよかったら何でも話して」
自分でも何を言っているのか分からない九太郎。泣き出す愛を目の前にオロオロしている。

参照:スレ1 >>194
 



PHASE 1


ふと目を覚ますと隣に誰かが寝ている。愛だった。
「えぇッッ… ぁ、愛さん?」飛び起きる九太郎。
愛は体を起こし、顔を近付ける。何も着ていない。フフッっと笑い
「……ネ、貴方から誘ったのよ?」九太郎の首筋から胸をを人差し指でなぞる。白く、柔らかな肌。
「さ、誘ったって?」
「どうしたの?」愛は両腕を九太郎の首に絡める。
「ぁ…愛さんは…兄ちゃんの……だから…」
「そうよ。……だから?」
「だから…駄目だよ」
「私、7年も待てない…」

ふと目を覚ますと隣に誰かが寝ている。愛だった。
「えぇッッ…ぁ、愛さん?」飛び起きる九太郎。愛は体を起こし、顔を近付ける。何も着ていない。
「……ネ、貴方から誘ったのよ?」フフッと笑い、九太郎の首筋から胸を人差し指でなぞる。
白く柔らかそうな肌に九太郎は視線を反らす事が出来ない。
「さ、誘ったって?」視線を顔から下半身へ徐々に移していく。心臓の鼓動が強く、早くなる。
「どうしたの?」愛は両腕を久太郎の首に絡める。
「ぁ…愛さんは…兄ちゃんの…だから……」愛の腕を解こうと右手を腕にやる。
「そうよ。……だから?」
「だから…駄目だよ」
「私、7年も待てない…」愛はそのまま九太郎を押し倒し、唇を奪う。

「―― ウワァッッ! ……あァ?」
時計を見ると3時半、窓のカーテンが静かに揺れている。額の汗をシャツの袖で拭う。
「…チクショォ…… またか……」そのまま布団に仰向けに倒れ込む。天井をボンヤリと見つめる。
ここ数日、同じ夢を見る。うつ伏せになり再び眠ろうとするが眠れない。
未だ半分夢の途中なのだろうか、首に絡んだ愛の腕、柔らかい唇の感触がリアルに残っている。
"眠れない……"
布団に潜り込み、目を閉じる。胸の鼓動が治まらない。
「……チクショォ……なんで…いつもいい所で覚めちゃうんだよ……」
夢と分っていてもシッカリと体が反応している自分が恨めしい。

参照:スレ1 >>200,202



PHASE 2


「今日、終業式なんでしょ?通知表、ちゃんと持って帰りなさいよ」
ハルコがコーヒーの入ったカップをテーブルに置く。
「ン…… あ゛―― わかってるって……」ボンヤリとしながら朝食を食べる九太郎。
「明日からなんだ、夏休み」愛が九太郎に話し掛ける。途端に昨夜の夢が蘇る。
「!! アッチィ―――!!!」コーヒーを溢す九太郎。
「大丈夫?! 火傷してない?!」愛は九太郎の首から胸元まで溢したコーヒーを拭く。
「あッ だッ駄目!! ……イヤ、大丈夫!! 」急いで立ち上がり、Yシャツを脱ぎながら洗面所へ走る。
「……? 御母さん、九太郎クン…変じゃないですか?」愛はテーブルを拭きながらハルコに言う。
「ロケットの事ばっかり考えているからよ。同じぐらい学校の勉強にも精を出して欲しいんだけど」
「あ― 分ってるって!」再び朝食を食べ始める九太郎。チラリと愛の方に視線を向ける。それに気付く愛。
九太郎のシャツの襟元に触れる。
「大丈夫?」喉元に愛の指が触れた。
「ぁ …だ、大丈夫」パンを持つ手が震える。鼓動が高鳴り、体が熱くなってくるのがわかる。
「コーヒー、もう少し飲むでしょ?」愛が九太郎のカップにコーヒーを注ぐ。
「あ…サンキュ……」今度は溢さないようにと慎重に飲む。気が付くと正座をしていた。
「ハンカチ、ここに置いておくわね。」鞄の上にハンカチを置く愛。本当ならば夫であるハチマキにするであろう事を極自然に九太郎にしている。
「今日は午前中で学校終わるんでしょ?九太郎クン、お昼、何食べたい?」
「へ?あ…何でもいいよ」コーヒーを一気に飲み干す。

"コレってまるで夫婦の会話じゃん"
「あ 九太郎、母さん、アンタが帰ってくる頃にはもう出掛けてるから」
ハルコが庭で洗濯物を干しながら言う。
「……出掛けるって、何処」
「アンタ、全然母さんの話きいていないんだから。母さん、同窓会で出掛けるって言ってたでしょ。
お友達と温泉に行くから帰るの明後日になるって」手早く洗濯物を干すハルコ。
「えぇッッ?!」
「愛ちゃんにアンタの監視役頼んであるからね。ロケットばっかり弄ってないで勉強しなさいよ」
「……そ、そうじゃなくて」愛に視線を向ける。既に朝食を終えた愛は台所で洗い物をしている。
「買い物とか、手伝ってね」愛が笑顔で言う。妊娠6ヶ月を迎え、お腹が少し目立って来た。
「そうじゃなくて…… ア―― ……行って来ます……」
強い日差しの中、学校へ出掛けていった。

参照:スレ1 >>207-208



PHASE 3


夕食の後、縁側にノートパソコンを持ち出しメールチェックをする九太郎。
無意識の内に2人きりの空間を作らないようにしていた。
愛は台所で片付けをしている。茶の間ではつけっぱなしのテレビが野球中継を放送している。
テレビの音と時折鳴る風鈴の音だけが聞こえる。
新学期まで会う事の無いクラスメートからのメールが数件着信していた。
『物理の宿題、頼りにしてるぞ』「 代わりに世界史頼むぞ」
『夕方、御義姉さんと買い物してたでしょ? キュータもう直ぐパパだねー』
「……俺の子供じゃねーよ バーカ」
ブツブツ言いながら返信していく。 ハチマキからもメールが届いていた。愛宛だった。
「愛さん、兄ちゃんからメール来てる」
「本当?」嬉しそうにやってくる。九太郎の隣に座るとメールを開く。
軽く肩が触れた。少し、離れる。
「……八郎太さん、これだけ?」愛は溜め息をつく。九太郎はディスプレーを覗く。
『皆元気か? 腹の調子はどうだ? こっちは変わりない。親父も元気だ。じゃ またなー』
「兄ちゃん、馬鹿か?腹の調子って……腹壊してるんじゃねえだろ」
「でもまァ…元気そうじゃない?」
添付されていた画像にはクルー達との楽しそうな様子が写っていた。そこに写るハチマキの笑顔には全てが順調に進んでいる事を表しているかのように見えた。
「へぇー 女性もいるんだ。愛さん、心配だね」画像を見ながら愛に言う。
ハチマキの隣にブロンドの髪に黒い瞳の女性クルー。反対側には金髪に青い瞳の女性クルー。
肩を組んでVサインしている。
「……そんな事ないわよ。八郎太さんはそんな人じゃないから」ムッとしながら立ち上がる。

「スイカとメロン、どっちがいい?」
冷蔵庫を覗きながら九太郎は愛に聞く。
「うーん…メロン…両方食べようか?」愛はハチマキ宛のメールを書きながら返事をする。
「よく食うなー 本当に腹壊しちゃうよ?」スイカに続き、メロンを切る。
「……食べなきゃ気が治まらないの。」ハチマキが肩を抱いていた青い瞳の女性が脳裏に焼き付いて離れない。
ハチマキと結婚して初めての嫉妬なのだろうか。画像を削除する。
「なによ…肩なんか抱いちゃってニコニコして」自分の手の届かない所で夫が知らない女性と親しげにしている。
待つ事しか出来ない自分が悔しい。黙々と食べ始める。
「あのさ…浮気してるって訳じゃないんだし」機嫌を窺う様に九太郎は言う。
“余計な事言っちゃったかな……”後悔する。
「皆と仲良くやってるのはいい事じゃない」
「別に気にしてないわよ」書きかけだったメールの送信ボタンをクリックした。
『元気にしている様子で安心しました。お腹の調子は順調です。今夜は若い男性と2人きりです。』

今夜は蒸し暑い。机に向かってはみたものの、集中出来ない。集中出来ない原因はそれだけではないのだが。
連日の夢は偶然じゃない…実は自分の欲望がそのまま表れているのだ。
愛を“義姉”としてではなく、いつしか“女”として意識し始めていた。
好みの異性のタイプも八郎太と同じだったのだ。
“妊娠しているって事は…そうだよな、兄ちゃんと……”
“どんなカンジなんだろう……”夢の中の愛と重なってしまう。
「何考えてんだ 俺は……!」時計は22時をまわっていた。
喉の渇きを癒そうと冷蔵庫を開ける。奥を見ると缶ビールが2本。八郎太が吾郎に飲まれない様にと思った
のか、名前が書いてある。
「キタネェ字……」麦茶を取り出し扉を閉めようとして閃いた。
“酔ってしまえば眠れる?”飲んだ後、大イビキで眠る吾郎を思い出した。
「――― 飲んでやる」缶ビールを2本掴み、扉を閉めた。

参照:スレ1 >>213-214



PHASE 4


電気を点けずに茶の間を横切る。月明かりだけでも十分に明るい。
縁側に座り、胡座をかくとプルタブを開け勢いよく飲み始める。飲む、というよりも流し込むという感じだった。
「……不味……」未だ酒の美味しさはよく分からない。
あっという間に1缶目を空け、2缶目にいこうかとプルタブに指をかけた。
「アレ?もう休憩??」ビックリして振り向く九太郎。風呂上りの愛が立っていた。
「?! チョッ…ちょっと! 何飲んでるの?!」九太郎から缶を奪い取る。
「いいじゃんたまには ―― 返せよ」取り返そうとする。
「勉強してるかと思ったら……未成年でしょ?駄目よお酒は!」愛は取られまいと九太郎から距離を置く。
「真面目過ぎるよ、愛さん。ビール位皆飲んでるって」愛の手から缶を取り返す。
「だからって……」納得がいかない愛。
九太郎はプルタブを開け、飲み始めようとする。"何で未だ起きてるんだよ…人の気も知らないで"
「私が半分飲む。頂戴」愛がグラスを持って来ていた。
「いいのかよ、妊婦が酒飲んで」
「いいの?未成年がお酒飲んで」意地悪く笑う愛。渋々グラスに注ぐ九太郎。
2人並んで黙って飲み始める。風呂上りの愛は帆のかに石鹸の香りがした。視線を愛に向ける。
ノースリーブのワンピースの肩からキャミソールの肩紐が見えている。
縁側から庭に足を下ろし、足をブラブラさせている。
「お風呂上りに飲むと美味しいんだよねー…」空になったグラスを置く。
「妊婦の言う言葉じゃねえなぁ……」だいぶ酔いがまわって来ていた。
「子供のくせに」愛は笑う。
「好きでガキやってんじゃねーんだよ」横になり、仰向けになる九太郎。
「風が出てきたね 涼しい――」未だ少し濡れている髪に手をやる。その姿は"女"を感じさせた。
手を伸ばせば届いてしまう距離に愛がいる。いっそこのまま―― と、酒の力は心を大胆にさせる。
「……八郎太さん、何しているかな」星空を眺めながら愛が言う。
「さぁ…でも皆と楽しくやってるみたいだったじゃん モテてるみたいだし」

庭に出る愛。星空を眺める。
「キレ――イ 今夜は満月なのね。星も綺麗……手が届きそうだよ」
子供の様にはしゃぐ愛。久し振りの酒にほろ酔い気味だ。
「宇宙飛行士のセリフじゃねえなぁ」
「八郎太さんはどの辺りにいるのかしら」
「さぁ……」
暫くの間、空を見上げる2人。静かな時間が流れる。
起き上がり、残りのビールを飲み干す九太郎。
飲んだら直ぐに布団へ入るつもりだった。が、この雰囲気を自ら終わらせてしまうのは勿体無いとも思った。愛の後ろ姿を眺める。
淡いピンクのワンピースは膝下まであり月明かりで少し透けている。
"年上のクセして可愛いな"
"このまま 後ろから抱きしめたら――"
"抱きしめて…それから……"
"する時 ってやっぱり…… "
"上手く出来るかな……" 起き上がり、庭に出る。少しずつ愛に近付いて行く。
ドク…ドク…ドク…… 胸が苦しくなる。
毎夜、自分を悩ませる甘い声、首に絡めた白い腕、柔らかそうな肌と唇。
愛は八郎太に抱かれ、どんな声を出し、どんな表情をしたのだろうか。
そして、有ったのだろうか……快感。愛を抱く八郎太を想像し、嫉妬する。
色々な事が頭を過る。酒のせいもあってか体が熱くなる。
"今夜、誘おう――" パキッッ…… 空き缶を握り締めた。
その音に愛が振り向く。
「私…そろそろ寝るね」すれ違い様に空き缶を九太郎の手から取ろうとする。

九太郎は缶を離さない。
「? 九太郎クン??」愛は九太郎を見つめる。
「愛さん……可愛いね」愛の髪に触れる。
「?! フフ…ッ酔ってるでしょ…九太郎クン」
「酔ってないさ」愛との距離を縮める。視線を落とすとワンピースの胸元から膨らみが少し見えている。
「俺が兄ちゃんだったら愛さんを置いて木星になんて行かないよ」
「アリガト…優しいね、九太郎クン」クスっと笑う。
「愛さん、俺……」髪に触れていた手は愛の肩を抱き 、ユックリと顔を近付ける。
「……九太郎クン、酔ってる。ダメ」愛は離れようとする。
「キスなんて…コミュニケーションだよ」耳元で囁き、更に抱き寄せる。
ドキ……愛は熱くなる。八郎太にも言われた事の無い言葉、九太郎の優しい声は体の力が抜けていく様だった。
自分より年下で、一人っ子だった自分に弟が出来たような気持ちでいた。
その弟は今、1人の"男"として自分の目の前にいる。
時折見せる夫とソックリな表情や仕草、性格までもよく似ている。
八郎太と会えない寂しさを彼は癒してくれるだろうか。愛は九太郎に体を向けると少し背伸びをした。
「? 愛さん??」
「こうしないと届かないでしょ……?」
「ゥ…ウン…そうだね」九太郎は愛と唇を重ねた。柔らかい唇だった。そのまま愛を抱きしめる。が、愛はそれを解くように離れる。
「待って」九太郎はもう一度抱き締める。
「どうしたの…?今日の九太郎クン、変だよ」
「変でも構わないさ」胸の鼓動は更に早くなる。苦しい。そして開いた口から出た言葉 ―――

「―― 愛さん…… しようよ。」

酔いは覚めていた。

参照:スレ1 >>220,221,223



PHASE 5


愛は何も言わず、じっとしている。九太郎は愛を見ることが出来ない。
"やっぱり…そうだよ、そうだよな……無理に決まってる"
「…ゴメン…… 悪かった」九太郎は腕の力を緩めた。すると九太郎の胸に愛は顔を埋め、頷いた。
「……愛さん?」
「部屋で… 待ってる…」愛はグラスを手にすると、家へ入って行った。
1人庭に残された九太郎。大きく深呼吸する。体が震えている。
――― ルルルル…… 電話の鳴る音がした。
"何だ? こんな時間に" 急いで受話器を取る。
「―― はい… 星野です」
「お。キュータ、俺だけど」八郎太だった。
「何、こんな時間に。今こっちは―――」愛に聞こえないように声のトーンを落とす。
「あ そっかそっか。悪ィ悪ィ… イヤ、通信環境がこの先悪くなるから電話が使えなくなるんだ。だから…チョットさ」
「…… 愛さんならもう寝てるよ」
受話器を握る手に力が入る。ディスプレーに写る八郎太の顔を直視する事が出来ない。
「あ…あ、そう、そうだよな…… アイツ、今日誰かと会ってたか?」
メールの返信の"若い男性と――"が気になっていたのだ。
「ずっと家に居たよ。―― もう切るよ」
「そ そうか。性格悪いぜアイツ… じゃあいい… あ、キュータ」
「何?」
「……愛のヤツ、可愛いだろ?」
「?! な 何だよ急に」
「……手ェ 出すなよ。なんてな。 また掛けるヮ」おどけた顔で言う。
「バーカ ―― 切るよ」
放り投げるように受話器を置く。
「…… もう遅いって……」吐き捨てるように言った。

九太郎は愛がどんな内容のメールを八郎太に送ったのかは知らない。
それでもメールを受け取った後、何か気になる事があって連絡をしてきたのだろう
という事は予想出来た。多分…アノ画像が元で何かあったのだ。
"……知るか、そんな事。 勝手に悩んでろ"少しの間、その場に立ち尽くす。愛はどうしただろうか。
自分から誘っておきながら部屋へ行くのが怖かった。音を立てないように廊下を歩いた。
"どうする?" "男だろ?" "今更逃げるのか? チャンスなのに" ……
部屋の前で深呼吸するとゆっくりと襖を開けた。愛は棚の上に飾ってあるロケットの模型を眺めていた。
「―― ゴメンネ、勝手に触って」元の場所に戻す。
「いや、いいよ。……ゴメン 待たせて」お互いに視線を合わせない。
「電話、誰から?」
「あぁ… 友達。―― ったく、こんな時間に」ようやく部屋の中に入る。
愛に背中を向け、布団の上で胡座をかく。何を話せばいいのか……。沈黙が続く。
やがて、愛も九太郎に向かい合うように座った。「―― 九太郎クン、」愛が話し始めようとするのを遮り、「電気、消そうか」九太郎は立ち上がり、明かりを消した。立膝になり、愛を見る。愛は下を向き、目を合わせ様としない。
「こっち向いて」九太郎の言葉に少しして愛は顔を上げる。その表情は今まで自分には見せた事のない緊張している顔だった。かつては八郎太にも見せたのだろうか。

「…… 可愛いね」愛を抱き寄せる。俯こうとする愛の顔を上に向かせ強引にキスをする。
そのまま静かに横たわる。愛は眼を閉じたままでいる。震えているのがわかった。
"エート 次は……" 九太郎は起き上がり、シャツを脱ぐ。
「ぁ 愛さん、俺…初めてだから… エート… 」
愛は起き上がり、ワンピースを脱ぐ。下着だけになり、九太郎の前に座った。
「・・…分ってる… 焦らないで。 大丈夫」九太郎の頬に軽くキスをした。
「―― あッ チョット待って」九太郎は立ち上がり、机の引出しを開けた。」"やっぱり常識だよな…アレ…確かここに"
以前、学校の性教育の時間に配られたコンドームを捨てずにいたのを思い出した。
"あった…。1つだけだったっけ…失敗出来ないな"枕の下に隠す。愛はその一部始終を見てクスッと笑った。
「―― ゴメン、用意してなくて……その…」格好悪い、と落ち込む九太郎。
「いいの。今は必要ないから」
「あ あァ… そうか。そうだね」お互いに少し緊張が解れる。
九太郎は愛を抱き寄せると、耳朶にキスをする。そのまま首筋、肩へと舌を這わせた。
キャミソールの紐を下ろす。愛の体が硬直しているのが分った。
「―― 触るよ?」久太郎は胸に手を入れた。2人は横たわる。
「お腹…潰さないでね」愛が言う。仰向けになっていてもお腹の膨らみは分かる様になっていた。
「…… 分ってるって……」胸から腋の下へ舌を這わせる。自分の体も少しずつ反応しているのがわかった。
“エート…その後は……”右手を下半身へ向かって手探りで移動させながら、考える九太郎。
“その後ってやっぱり…… だよな…” 一瞬動きが止まる。

はやる気持ちを抑え、キスをしながらパンティーに触れる。
「ン……」 愛が反応する。
"ど…どうしよう……脱がせた方がいいかな……"手が震える。
「―― チョット 待って……」
愛は横を向くと自ら脱ぎ、布団の下に隠した。息を呑む九太郎。
「……九太郎クンも脱いで……」愛は恥ずかしそうに言う。
「あ…うん」短パンとトランクスを脱ぐ。 "オイ…俺がリードしなくてどうすんだよ"

ユックリと愛の体に舌を這わせる。愛は次第に緊張が解れ、九太郎に体を預けた。
愛は九太郎の背中に両腕をまわす。
恐る恐る下半身に手を伸ばす九太郎。
「ァ……」愛の口から声が漏れる。少しして九太郎の指は小さな塊を見つける。
"コレ… アレなのかな…" いつだったか、友人宅で観たAVを思い出した。
学校の性教育の授業は殆ど寝ていて何も憶えていない。だから女性の体の構造などよく分からないのだ。
起きておけばよかった……今頃になって後悔する。
愛の息使いは少しずつ早くなる。指を更に下へ移動させる。ヌルっとした感触に手が止まる。
「そろそろ…いいかな……」九太郎は愛に聞く。
「…… うん」小さく頷く。九太郎は愛に覆い被さるようになる。
"此処で いいんだよな……?" ユックリと腰を落とす。
「ァ……」愛は九太郎を抱き締める。
"ウワッ…"
ゾクッ……! 今までに感じたことの無い感触が九太郎を襲う。

「動かすよ」
初めはユックリと、そして少しずつ早く…初めての快感を追い求めるかの様に腰の動きは早くなっていく。
愛に興味を抱いてから一度は触れてみたい、味わってみたいと思っていた。それが今少しずつ現実のものとなって来ている。
「ウッ…んん……」必死で声を殺している愛。
この家で八郎太と体を重ねる時、いつもしていたのだろうか。
「愛さん…気持ちイイの? 声出していいよ」九太郎は耳元で囁く。腰の動きに合わせるかのように愛の口からは声が漏れる。
「ハァッ…ァ… 九太郎くんは…どうなの?」途切れ途切れに愛は聞く。全身はうっすらと汗をかき、目は虚ろになって来た。
「ウン…凄くイイよ このままだと直ぐにイッちゃいそうだよ…」
汗が止め止め無く流れる。脱ぎ捨ててあったシャツに手を伸ばし、汗を拭う。
愛のお腹を庇う為に伸ばしたままだった両腕が感覚を失いかけている。
"このままだと、愛さんのお腹潰しちゃうかも"
「―― ごめん、ちょっと……」一度、体を離す九太郎。愛の隣に横になる。
「……どうしたの?」
「腕が…痺れて……ゴメン」
せっかく気持ち良くなって来ていたのに――と思いながら腕を擦る。
「愛さん…お願いがあるんだけど……」呼吸を整えながら言う。
「なに?」愛は足元にあったタオルケットを腹部までかける。九太郎は愛の方へ体を向け耳元で言った。
「……その… 口で してくれる?」

「あ、嫌ならいいんだ」
起き上がり、愛の表情を気にする。愛は九太郎の前に座り、身を乗り出す。
「ァ 愛さん…?」九太郎の下半身に手を伸ばす。そして顔を近付け、口に含んだ。
"う…わ……"鳥肌が立つ。自分で処理している時には絶対に味わえない感触…愛は前後に顔を動かし始める。
「ン… ン… アム…」時折口から漏れる声が興奮を更に高める。前後に動かしながら、舌で刺激する。
「ァ…愛さん… 上手だね……」愛の頭を両手で支える。時折上目使いで九太郎を見つめる愛。
八郎太にも同じ事をしていたのだろうか…同じ視線で……。
「…… 有難う もうイッちゃいそうだよ」
「出しちゃっても…いいのに……」口を離す。ツゥ…っと粘液が落ちる。
「愛さんの中に出したいよ……」愛を寝かせ、足を開かせて顔を近付ける。
「き…九太郎くん……? ―― ア……ッ」
小さな突起を舌で転がす。徐々に固くなり、ヒクヒクと反応している。
「や…ダメ… ア…ア……ッ! フ…ッ く…ゥ……!!」
シーツを掴み、体を硬直させる愛。声を殺すも止める事が出来ない。
「もう…イッちゃ…う……」体を仰け反らせ、絶頂を迎えた愛。
体を起し、右手の甲で口を拭う九太郎。"今度こそ…最後まで…" 息を呑む。
「……いくよ?」ユックリと腰を沈めて行く。
「ァ…ハァ…! ン…クウゥ……」九太郎の背中に両腕をまわし、爪を立てる。
「気持ち…いいの…?」
「ン…ウン…… は、八郎太さん…より…イイ……」
「え……」
「私…7年も…待てな…い……」虚ろな目で九太郎を見る。
「……ヤバイって…ソレ……」夢で聞いたのと同じ愛の言葉に一瞬怖くなる。
「九太郎くんだって……こんな…」
"もう少し…もう少しで……" 腰の動きが更に激しくなる。
「ァ…愛さん…! 出るよッ……!!!!」
「…出してッ……!」
お互いに強く抱き締め合い、九太郎は愛の中で絶頂を迎えた。

参照:スレ1 >>233,247,248,268,270,275



PHASE 6


寝苦しさで目を覚ます。外は白々と夜が明けようとしていた。
隣に視線を向ける。九太郎の隣で静かな寝息を立て、眠っている愛。
枕元には脱ぎ捨てたままのシャツとトランクス。
愛のパンティーとワンピース。そのまま眠ってしまったのだ。
愛を起こさないように静かに起き上がり、トランクスを穿き、シャツを着る。
“そうだ…昨夜、俺は愛さんと……”
再び布団に入り、愛を見つめる。昨夜の事は夢ではないのだ。
体中に昨夜の感触が残っているような感じがする。八郎太からの電話を思い出すと少し後ろめたい気持ちになる。
“愛の奴、可愛いだろ?”―――「あぁ、可愛いとも」
“手ェ出すなよ”―――「……」
愛の体に触れようとして手を引っ込める。額に軽くキスをすると愛に背中を向け、再び眠りに落ちた。

「今日、何か予定ある?」
庭で洗濯物を干しながら九太郎に話し掛ける愛。
「ン… 特に無いけど」
茶の間で朝食のサンドイッチを食べながら新聞を捲る九太郎。愛と視線を合わせにくい。
「……デートしよっか」
「えぇッ?!」
愛の言葉に驚く九太郎。
「―― なんちゃって。買い物に付き合ってくれる?」
「ったく…… 別に構わないけど」
「それじゃ 涼しい内に出掛けよう」
愛とまともに顔を合わせられない九太郎とは対照的に、何処か嬉しそうな愛。
“昨夜、ああいう事 があったのによく平気だよな……女って分かんねぇ……”
電話が鳴る。受話器を取る愛。“兄ちゃんからか…?”ドキッとなる九太郎。
「―― 九太郎クン」
「え、何?」
愛の表情が固い。昨夜の電話の相手を嘘ついたのがバレたのか?と緊張する。
「……今日、学校…補習があるんじゃないの?」
「―― あ。」
「学校から“早く来い”って!早く仕度してッ!!」
「いけね、忘れてた!」
慌てて着替え、玄関に走る九太郎。
「デートはお預けだね」
少し意地悪そうに言う愛。
「午前中で終わるからさ、午後から行こう。明日は母さん帰って来るし」
「……」
「デート出来るの今日だけじゃん ―― 行ってきます!」
九太郎は愛にキスをすると玄関を出て行った。

参照:スレ1 >>327,328



PHASE 7


「良くお似合いですよ」
「そ、そうですか?」
店員の言葉に少し照れ臭くなる愛。後ろを向き、鏡の前でバックスタイルも見てみる。
今まで着ていた服ではお腹の周りが苦しくなって来た為、マタニティーウェアを買う事にした。
「―― どぉ? 九太郎君」
女性の買い物は長い。どうしてこう、さっさと決められないんだと退屈気味の九太郎。
「んあ? あ― いいんじゃね?」
「買い物に付き合ってくれるって言ったのは九太郎君だよ?ちゃんと見て言ってよ!」
頬を膨らます愛。
「だから似合ってるって……」
女性ばかりの店内から早く抜け出したい九太郎。こんなんだったら家に居ればよかったと少し後悔する。
愛の言う“デート”とは買い物に付き合う事だったのだ。清算を済ませ、店員が袋を九太郎に渡す。そして、「有難う御座いました、またご利用下さい。ご主人様、もう直ぐ、パパですね」
「へ? あ、いや…」
声を掛けられた九太郎。どう返事したらいいのか困ってしまう。こんな店に2人で来たら夫婦に見られるのは当然だ。
週末の午後のショッピングモール。夏休みなのもあって、賑わっている。
「随分若いパパですね」愛は九太郎に言う。
「そんな風に見えるかな…」歩きながら周囲を気にする。
「うん 若ーいパパだね」
「あ…そう コレ、持つよ」
愛が持っていた紙袋を手にする九太郎。“そうか… そんな風にみえるのか”
愛の手を握る。一瞬、体がピクッとなる愛。顔が熱くなる。
「―― 転んだら…大変だろ?」焦る九太郎。
「うん… ありがと。チョット、デートらしくなったね」

「御免なさいね 2日も留守にしちゃって」
「いいえー 楽しんでますか?」
「お蔭様で。これからね、カラオケなのよ〜」
ハルコからの電話で会話に花が咲く。愛に代わり、皿洗いをする九太郎。
「キュータ、ちゃんと勉強してる?」
「ええ。あ、今、お皿洗ってくれています。お風呂掃除もしてくれたんですよ」
「へぇ〜 珍しいわね、いいわよ。どんどん扱使って頂戴。放っておくとロケットばっかりだから」
「フフフ… 分かりました。夏休みはお手伝いをしないといけませんからね」
"何勝手な事言ってんだよ…" 寸足らずのエプロンを着け、皿を洗う九太郎。
「お疲れ様。後は私がやるから。夜間打ち上げ…でしょ?」
電話を終え、台所に来た愛。
「うん…… あー、でも今夜の天気調べてないや」
手を拭き、エプロンを愛に渡す。
「今夜は上層大気が安定してるって…さっき天気予報で言ってたよ」
「あ… そう」
「今夜も満天の星空ですよ」
「じゃあ… 出掛けてくる、かな……」
時計は20時を差している。今夜も蒸し暑く、机に向かう気にはなれない。
それに2人きりはどうしても気まずくなってしまう。愛は平気なのだろうか?
―― だけど、今度はいつ2人きりになれるのか。
気まずい雰囲気は避けたいと思う自分と、2人きりの時間が欲しいと思っている自分がいる。
"畜生… 訳わかんねえ……"

海岸へは向かわず、コンビニまで歩き出す。
コンビニの駐車場に塾帰りらしいクラスメートが数人立ち話をしていた。
「ヨッ 星野。夜間打ち上げか?」
「まあな……」
素っ気無い返事をして、店内へ入る。特に目的も無く、数分立ち読みをする。
"何やってんだ 俺……" 炭酸飲料を手にレジへ向かう。店を出ると未だ立ち話をしている。
暫くの間、クラスメートの立ち話に加わる。同じクラスの誰と誰が付き合っているだの誰に気が有るのだの、女子が関心を持っている事と何ら変わりの無い話ばかりだ。
"下らねぇ……"内心そう思いつつも話しに付き合う。時間潰し…少しでも家に帰る迄の時間を稼ぎたかった。
「―― そういえばさ、星野ンとこの姉ちゃん、可愛いよな。宇宙飛行士だったんだろ?」
急に話の矛先が九太郎に向けられる。
「ああ… 今はもう違うけど。妊娠してるし」
「今日 一緒に買い物してたろ?」
「あ… うん」
別に疾しい事は無い筈なのだが、ドキッとなる。炭酸飲料を飲む。
「何かさァ、スッゲーいい雰囲気っつーか… 声掛けんの止めた」
「―― ゲホッ ゴホゴホッッ!!」
思わず咽込む。
「バーカ お前、 星野の兄ちゃんの嫁さんじゃん!」
笑うクラスメート達。
「―― やっぱり そんな風に見えたか?」
真顔で言う九太郎に笑いが止まる。
「…… 星野? マジ?」
「んな訳ねーだろ? 何マジな顔してんだよ。帰るヮ」
話を続ける仲間を背に歩き出す。
海岸まで来る。砂浜では近所の小学生が花火をしていた。"帰る かな……"
仕方なく家に向かう。

「…… ただいま」
玄関の戸を閉める。茶の間に灯かりは点いているが、愛の姿は無い。
“もう寝たのかな?”
茶の間に入りテレビを点け、横になる。
テレビから聞こえて来るニュースの音声を聞きながらボンヤリと天井を見つめる。
愛の姿が無い事にホッとしてガッカリして…… 複雑な気持ちになる。
「―― あれ? 帰ってたの?」
―― ドキッッ! 愛の声に飛び起きる九太郎。
「う、うん……ただいま。 起きてたの?」
「お風呂入ってたの、お先にゴメンネ。早かったね帰って来るの」
「い、いや…… うん、まァ…」
愛はアイスクリームのカップを手に茶の間に入って来る。
「九太郎クンも食べる?」
「今はいいや… 相変わらずよく食うね……」
「お風呂上がりに食べるのは格別」
スプーンで掬い、口へ運ぶ。上唇に付いたクリームを舌先で舐める。
普段なら何気ない仕草だが、九太郎は昨夜の事が思い出されて慌てて視線を反らす。
“何考えてんだよ、俺は……!”
「風呂…… 入って来る…」
部屋へ着替えを取りに行く。再び茶の間の前を通る。愛はアイスクリームを食べながらドラマを見入っている。
愛の後ろ姿。未だ少し濡れた襟足の髪が項に着いている。
「……? どうしたの?」
振り向く愛。
「い、いや 何でもないッ……」
風呂場へ急いだ。

「関東地方は今夜も熱帯夜、これで5日連続の熱帯夜で都心ではヒートアイランド現象の ―――」
テレビのアナウンサーの言葉が暑さに拍車をかける。
"暑い……"
生まれも育ちも北海道の愛にとっては、湿度・気温の高い関東の夏は正直いって辛い。
しかも妊娠中で、普段よりも体温がやや高めときているから暑さも倍増だ。そして日々少縁側の風鈴は時折、涼しげな音を奏でるが風は生暖かい。
畳の上に両足を投げ出し、溜め息を吐く。アイスクリームで採った涼しさは既に何処かへ行ってしまった。
それに比べて宇宙は季節が無い。今頃、八郎太さんは快適な環境で過ごしているんだろう……と少し羨ましくなる。愛は扇風機の風にあたりながら雑誌を読み始める。
風呂から上がった九太郎が茶の間に来る。テーブルを挟み、少し距離を置いた所に座る。
「暑いね…」
「暑いなー」
同時に言葉が出る。お互いに視線を合わせない。手元に有る雑誌を手に取り、横になる九太郎。
テレビの音声だけが流れる茶の間。
腹這になり、雑誌から横へ視線を移すと、ワンピースから伸びる愛の足が見える。
"綺麗だな…… 昨夜は夢中でよく見ていなかったけど……"

「―― ね、」
「ウワッ な、何?」
愛の声に飛び起きる九太郎。
「…… 未だ何も言っていないけど……」
キョトンとしている愛。
「……大丈夫? 暑さにやられた?」
九太郎の方へ身をのり出す愛。
「だ 大丈夫だよ …… 平気平気ッ……」
体が熱くなって来る。鼓動も早くなって来て、苦しくなる。これ以上2人きりで居るのはマズイかも…自分を抑え切れないかもしれない。部屋へ行こう、と立ち上がる。
「お茶飲まない?持って来るね」
「俺… 宿題やるから」
また同時に言葉が出る。茶の間を出ようとする愛の体と腕が触れる。
ドクッ… ドクッ… 更に鼓動は早くなる。
「勉強するならコーヒーの方がいい?」
カップを出そうと食器棚を開ける愛。
「あ…あ、いいよ、あとで自分でやるから」
「そう… あ、今夜はビールは無いですからね」
麦茶の入ったグラスを持って愛が戻って来る。
「分かってるって……」
部屋に行き、机に向かう。
一応、勉強道具は机の上にひろげたが、集中出来ない。
コツ、コツ、コツ…… シャープペンのペン先で机を突くだけで時間が過ぎて行く。
"ア――ッッ! 畜生ッッ"
クシャクシャと両手で髪をかきあげる。

一度知った蜜の味はまた直ぐに欲しくなる ―― 今、まさにこの心境なのかもしれない。
意識して愛との距離を置きつつも、心と体は愛を欲している。
明日になればまた元の生活に戻る。そして、当然だが自分と愛の関係もきっと元に戻るのだろう。
2人だけの時間はあと少しだ……無駄にしたくない。そう思うと胸が苦しくなった。

茶の間に行くと、愛は縁側に腰掛けていた。
「休憩ですか?」
九太郎の気配に気付き、振り向く愛。
「此処、涼しいよ」
「ホントだ… 部屋より涼しいや」
隣に座る。少しの沈黙の後、ふと、昨夜の電話が気にかかった。
「兄ちゃんから… あれから連絡、来た?」
「待ってるんだけど… まだ」
「そっか……」
「八郎太さん、怒ってるのかも」
「何で」
「…… ウウン、何でもない」
「……」
愛の淋しそうな表情は気になるが、それ以上の詮索はしなかった。
手を伸ばせば届く所に愛は居る。何となく昨夜と似たシチュエーションに胸は高鳴る。
沈黙が流れ、2人は気まずくなる。
「……もう寝ないと」
立ち上がろうとする愛の手を握り、自分の方へ引き寄せる九太郎。
―― ドクッ… 愛の鼓動も早くなって来る。思い出さない様にしていた昨夜の記憶が蘇って来る。
「…… ダメ」
視線を合わせず、愛は拒否する。

愛の肩に手をまわして一気に抱き寄せる。身動きが出来なくなった愛は少し震えていた。
八郎太と付き合っていた時には何度も同じ様な事があった筈 ―― 初めてじゃないのに可愛いな、と九太郎は思う。
「―― あの、九太郎ク… ンッ……」
愛の話を聞かずに唇を塞ぐ。体が硬直していた愛はやがて、体の力が抜けていく。
ユックリと唇を重ね、九太郎は愛の胸に触れる。愛はその手を掴み、止める。
立ち上がる愛。
「明日… 母さんが帰って来たら、またいつもと同じだよね、俺達」
「……九太郎クン?」
九太郎も立ち上がり、愛を抱き締める。
「 …… しようよ」
「……」
「部屋に行こう」

愛の手を引き、廊下を歩く。余計な事は考えないようにしていた。
部屋に入ると直ぐに愛を抱き締め、キスをする。また拒否される、と思った…が、愛は少しして九太郎の首に腕を絡めた。
「 ……愛さん?」
「お腹が邪魔するね」
恥ずかしそうに言った。
「お腹は… 仕方ないよ。……触っていい?」
愛のお腹に触れてみる。昨夜も触れた筈なのだがよく憶えていない。
「八郎太さんは恐がって触ってくれなかったの。」
「……兄ちゃんの子供なのにな。……会えなくて淋しい?」
「―― 平気」
愛は言うと九太郎にキスをした。

九太郎はキスをしたまま愛の背部に手をまわし、ワンピースのファスナーを降ろす。
ブラのホックを外そうとするが、手探りでは上手くいかない。
「 ン…… ハァッ…… 」
唇が離れ、そのままの体勢で居る愛。ホックが外れずに焦り出す九太郎。
「チョット待って… 今…」
緊張しているのか、自分の手が震えている事に気が付く。
愛は九太郎に凭れ掛る様に体を預けた。胸に耳を当てる。激しい鼓動が聞こえる。
「私と一緒だ……」
「エ 何?」
漸く外れる。ワンピースと一緒に肩紐を降ろす。シュルッ… と生地の擦れる音がして、ワンピースは愛の足元に落ちた。九太郎はTシャツを脱ぐ。
「凄く緊張してる……」
「あ… うん 手が震えてるよ…」
「 ……私も」
もう一度ユックリと唇を重ねる。部屋は机のスタンドの明かりだけで薄明るい。
布団に横たわる。愛の首筋にキスをしようとして、ふと、お腹の膨らみが気にかかる。
「今更なんだけど… 妊娠してる時って、その… 大丈夫なの?」
「 …… ウン 大丈夫。でも……」
愛の声が小さくなる。
「 …でも?」
「あまり… 激しくしないでね」
「あ…あぁ、わかった大丈夫 ……昨夜、マズかった?」
「……」
「今日は…優しくするから……」
首筋から胸へ舌を這わせながら、パンツを下ろしていく。

「愛さんって いい匂いがするよね」
九太郎は愛の首筋に顔を寄せて言う。
「えっ…? 何もつけていないけど……」
「いや… そういうんじゃなくて…ウーン、何だろ… 前から気になってた」
「前から?」
「うん。…多分、その時から愛さんの事…気になってたのかも」

“先輩はいつから私の事、好きになったんですか?”
八郎太との初めてのデートの時、こんな質問をしたっけ ――
結局答えは聞けずじまいだったが、当時の事を思い出して愛はクスッと笑う。
初めて「八郎太さん」って呼んだ時の八郎太さんの表情…私の事、中々名前で呼んでくれなくて名前で呼ばれる様になったのは結婚してからだったな…… 。しかも呼ぶ時はいつも照れてるし。
でもそんな所も私は好き……本当はとっても優しいし。赤ちゃんが出来たのが判った時も物凄く喜んでくれたし、「必ず還る」って約束してくれたし ―――
“だけど7年は長過ぎる… 八郎太さんが他の誰かを好きになっても私には何も出来ない……”
“私の手には届かない所に居るんだよね” ―――

「……今、兄ちゃんの事考えてた?」
「―― え?」
我に帰る愛。
「そんな顔してたよ」
返す言葉が見付らない。九太郎に抱かれながら八郎太の事を考えているなんて…なんて悪い女なんだろうと愛は罪悪感に襲われる。
「分ってるよ、愛さんは兄ちゃんのものだって。だけど… 俺…自分の気持ちにもう嘘はつけないっていうか… いいんだ、兄ちゃんが還って来るまでの間だけでも」
“何言ってんだ俺… もっと自分が大人だったら ―― もう訳わかんねぇ…… ”
Tシャツを着て、クシャクシャと髪をかきあげる九太郎。
隣に座り、俯いたままの愛を見る九太郎。一気に愛が離れて行く様な気がした。
「愛さんも… 着なよ」
九太郎は愛にワンピースを渡す。

「……九太郎クン?」
立ち上がり、部屋を出て行く九太郎。
「喉が渇いた… 何か飲んで来る……」
どうしようもない虚しい気持ちで一杯になる。昨夜一度きりの事で愛から八郎太への気持ちが消えていないのは当たり前な筈なのに、心の何処かで既に自分のものになっている気でいた自分が腹立たしくなった。
冷蔵庫からスポーツドリンクのボトルを取り出しキャップを開ける。
「……私も喉が渇いちゃった」
愛も冷蔵庫を開ける。麦茶をグラスに注ぎ、飲み始める。
「……」
素肌にワンピースを着ている愛。胸が少し透けている。九太郎は慌てて視線を反らす。
「最低だよね…」
少しの沈黙の後、愛が話し始める。
「私… 九太郎クンの気持ち ―― 」
「…… もういいよ」
愛の話を遮る九太郎。
「どうせ俺はガキだから… 本気で相手にされる筈ないんだよな。分ってたのに…スゲー馬鹿みてぇ……」
乱暴に冷蔵庫の扉を閉める。
「そんなッ 私… 九太郎クンの気持ち、凄く嬉しい……」
九太郎の勢いに圧され、小さい声で愛は言う。
「……だったらさ、兄ちゃんの事…忘れろよ」
愛を抱き締める。右手がファスナーに触れる。
「忘れるって… そんな」
「ずっとなんて言わないよ。」
愛の額、頬、首筋にキスをする。その度にピクッと愛は反応する。

九太郎は愛を抱き締める。
「2人でいる時は… 忘れてよ」
「……」
「……忘れろ」
少し強い口調になる。愛は九太郎の背中に手をまわした。更に強く抱き締める九太郎。
「九太郎クン… 苦しいよッ……」
離れようとする愛の唇を塞ぎ、ファスナーに指を掛ける。
「ン…ッ ンンッ」
声を出せない愛。少しずつ壁の方へ押されて行く。
九太郎はワンピースのファスナーを下ろし、愛の背中が露になる。
一度離れた唇は再び直ぐに塞がれる。九太郎は背中、ウエスト、ヒップ、内腿へと触れて行く。
“ア… ア……ッ”
その度にビクッ、ビクッと体が反応する愛は徐々に体の力が抜け、崩れる様にその場に座り込む。
「ハァ… ハァ… ちょっと…待って……」
肌蹴た胸を隠し、立ち上がろうとする愛は今度は背部から抱き締められる。
「―― 逃げないでよ」
九太郎はワンピースに手を入れ、右手は胸に、左手は下半身に触れる。
“九太郎クン… まさか…此処で?”
「ま、待って! 私…逃げないから」
身を攀じる愛。一瞬力が弱まり、その隙に愛は離れる。
「いくら何でも…こんな所じゃ…嫌だから… 私……」
呼吸を整えながら愛は言う。
「それじゃあ……」
「あ…ッ」
九太郎は強引に愛の手を引き、部屋へ戻り布団に座らせる。
「此処ならいいの? ……さっきの続き」

「大丈夫… 優しくするから」
九太郎は愛を布団に寝かせ、唇を塞ぐ。ワンピースは足元まで下ろされる。
布団の脇に視線を移す愛。さっき脱がされたブラとパンツがそのままになっていた。
「あんな格好で傍に来られたら…… 手ェ出したくなるよ」
「だ… だって……」
「 ――― もしかして、俺の事、誘った?」
「そんな―― ア……!」
九太郎が愛の乳首を軽く噛む。ビクッと反応する愛。
「愛さん… 感じやすいよね」
愛の反応を確かめながら、腋の下から下腹部へと舌を這わせる。
下半身に触れる。ユックリと濡れている中へ指を入れていく。
「ン… ン… ウ…ンンッ…」
シーツを噛み、声を殺す愛。この家に住んでから付いた癖だ。やがて、絶頂を迎えた愛。
「いつも そうしてたんだ」
「……だって…… ヤダ、そんな話……」
「そうだよな… 俺の部屋の隣だし」
「………」
「初めは気にならなかったけど… 愛さんの事、気になり出してからは面白く無かったな」
「……えっ?」
「愛さんの事、兄ちゃんが木星に出掛ける前から気になってた……」
愛は九太郎を見つめ、背中に手をまわした。
「絶対、無理だって思ってたけど…… 愛さんと…してみたかった」
「私と……?」
「―― うん」
背中にまわした手に力が入る。
「…… 入れてもいい?」
愛の耳元で言う。
「―― うん」
「今更だけど…… 好きだ、愛さんの事」
愛は頷き目を閉じた。九太郎を受け入れ、少しずつ速くなる動きに身体を預けた。
不器用な九太郎の告白に、一時愛の頭から八郎太の事は消えていた。

「ンッ…ンッ… ウゥッ……!」
必死で声を殺す愛。九太郎の背中にまわした手は爪を立てる。
「そんな我慢しないでいいよ… 声出して 恥ずかしい?」
九太郎の声に、虚ろな視線を向ける愛は頷く。
「……気持ちいい?」
「……ウン…… 九太郎クンは?」
「愛さんの… 凄く気持ちいいよ…」
更に力強く愛の腰を自分の方へ引き付けた。
「 ―― アッ… アァッ……!」
ビクビクと反応しながら身体を仰け反らす愛。
“愛さんって… こんな表情するんだ”
虚ろな目…何か言いたそうに口を動かすが言葉にならない、その表情が一層興奮を掻き立てる。
愛の腹部が気になりながらも動きを止める事が出来ない。腰の動きは更に強く、早くなる。
「九太郎クン… 私ッッ――― 」
“凄く気持ちいいッ ――― ”
愛の脳裏に八郎太の姿は無かった。九太郎の事だけを考え、強く抱き締めていた。
「……愛さんッ……」
九太郎は愛を強く抱き締め、愛の中で果てる。
“愛してる”―― そう言おうとして言葉を呑み込んだ。もっと自分に愛を護れるだけの力があったらどんなにいいか……そうしたら強く言えるのに。
肩で大きく息をし、呼吸を整える。強く、早い鼓動は暫く治まりそうにない。

暫くの間、繋がったまま抱き合っていた。愛の顔に汗が落ちる。
「あ…ぁ、ゴメン……」
九太郎はその汗を拭おうと愛の頬に触れる。
「大丈夫……」
愛は九太郎の首に腕を絡め、自分の方へ引き寄せるとキスをした。
「―― どうしたの? ……もう1回、する?」
「ヤダ… エッチ」
顔を見合わせ2人は笑う。そして九太郎はユックリと愛の中から離れた。
コプッ… 白濁した其れが溢れ出た。愛は慌ててティッシュで拭うが、身体が敷いていたワンピースとシーツに吸い込まれて行く。その様子を眺め、愛は自分の中に入っていく様子を思い浮かべ、赤面する。
「ゴメン…… 服、汚れちゃったね」
九太郎は新しいシャツを愛に渡す。
「シャワー浴びて来るね。シーツも換えないと……」
愛はシャツに袖を通すと部屋を出て行った。
布団の上で大の字になっていた九太郎。少しして机の上のノートパソコンを開く。
着信1件 ――― “俺宛…? 兄ちゃんからだ ――― ”
震える手…… 恐々とメールを開く。
「 ―― なんだよ……」
ドッと力が抜ける。通信環境が悪くなった為のテストメール。ちゃんと届いていたら折り返し空メールを送れ、というものだった。そのまま返信ボタンをクリックする。
―― 何か一言書き込めば良かった?
―― 愛に教えてあげればよかった?
―― いや、そんな事したらきっと……
昨夜の電話も内緒にしている。出来るだけ八郎太の事を思い出して欲しくない。
独占欲が益々強くなる。

シャワーを浴び、部屋へ戻ると愛は居なかった。
愛の部屋に灯かりが点いている。そっと覗いてみた。愛は髪を梳かしていた。
「シーツ、換えといたから……」
気配に気付く愛。
八郎太と愛の部屋に入るのは、引越しの手伝いで入った以来だった。
特に用事も無く、それ以来行く事は無かった。
「―― どうしたの?入ったら?」
「う、うん…」
自分と同じ畳の部屋だ。壁の方を見るとベビーベッドが置いてある。昼間2人で買い物をした紙袋が乗せてあった。
「ベッド、凄いでしょ?……八郎太さんったら、妊娠が判ってから直ぐ買って来ちゃって」
嬉しそうに話す愛。
「へーぇ……」
チェストの上にデブリ課のメンバーと写っている写真。その隣に八郎太と愛が2人で写っている写真があった。結婚衣裳を纏い、八郎太が愛の肩を抱いている。
「あのさ、今夜も俺の部屋で寝ない?」
九太郎は愛の腕を掴む。

「あ、でも…… もう遅いし…」
愛はブラシを持て余す。
「だから、もう寝よう」
九太郎は愛を引き寄せる。愛の着ているシャツに気を止める。
「―― コレ、兄ちゃんの……」
「あ、コレ?うん… ユッタリしているから苦しくないし、いいでしょ?」
視界に写真が入る。舌打ちし、視線を反らす。
「 こっち おいでよ… 行こ」
「行ったら… 九太郎クン、きっと―― 」
愛はシャツの裾を握る。
「きっと… 何?」
九太郎は愛を抱き締め、キスをしようとする。
「……きっと、そうやって……」
「……此処でもいいよ?」
「―― ンッ……」
唇を塞ぎ、布団の上に座らせる。愛が羽織っているシャツが気に入らなかった。
「シャツ…… 脱げよ」
「―― え?」
「気に入らない」
「八郎太さんの… だから?」
「分ってるクセに… 」
愛の胸元のボタンに手を伸ばす。

ボタンに指先が触れようとした時、両手で遮るようにして愛が後ろに引いた。
九太郎は愛に近着き、愛の手を除けようとするが、愛はシャツを握り離さなかった。
「……ダメ」
愛は九太郎と視線を合わせない。九太郎は愛の手を解こうとする。
「いいから脱げよ……」
少し口調が荒くなる。その声に愛はビクッとなる。
「 あ… ゴメン。……脱いでも何もしないよ」
「……本当に?」
「あ…ああ」
愛の手から力が抜ける。九太郎は上からボタンを外し始めた。
シャツの下は薄いピンクのキャミソール。更にボタンを外していくと胸の膨らみが少し透けている。ボタンを外す手が少しずつ震えてきた。全て外し終わるとシャツを脱がせ、抱き締めた。
“あ……”
ドクドクと九太郎の激しい鼓動が聞こえる。愛の鼓動も徐々に早くなる。
「―― ね、脱いだから… いいでしょ?」
愛は離れようとするが、九太郎は愛を離さない。

「……さっき、何もしないって ―――」
愛は九太郎の腕を解こうともがく。
「愛さん…… ゴメン……」
九太郎はキャミソールの中に手を入れ、片方の乳首に触れる。愛は身体が震えた。
「やぁぁ……ッ」
愛は体を攀じり、九太郎から離れようとする。
「愛さん…もう一回…… しよ?」
乳首を触りながら項に舌を這わせる。
「……何もしないって…言ったのに……ウソツキ……!」
言葉とは裏腹にビクビクと体が反応している愛。
「……本当に嫌?」
九太郎は愛のパンツの中に手を入れる。ヌルッとした感触が指に絡まる。
「ア……ア……」
「そんな事ないんじゃない?」
愛は手探りで八郎太のシャツを探し、握る。
「―― 今度、いつ 出来る か分んないし……」
九太郎は愛を布団に寝かせ、再び唇を奪う。
「んゥ……!」
パンツが膝下まで下ろされた。
“は… 八郎太さん……”
強引な九太郎に、愛は八郎太の姿を重ねていた。

「―― よっしゃ、お前の負け」
プロポーズを受けたその夜、初めて一緒の夜を過ごす事になった。
ホテル・スピカの一室、部屋に入る八郎太と愛。
「…… 腹苦し――ッ 食い過ぎた……」
荷物を無造作にソファーに置き、ベッドへ倒れ込む八郎太。
「あんなに食べるからですよ… お酒だって随分飲んでたし。大丈夫ですか?」
本当ならば2人でゆっくりと食事をする予定だった。が、同期達と鉢合わせ、そこへデブリ課メンバーも加わり…… ISPV-7は狭い。
「―― ったくアイツ等、少しは気ィ使えってんだよ」
「いいじゃないですか、久し振りに会えたんだし。私は楽しかったですよ」
愛もベッドに腰掛ける。
「……なぁ、タナベ」
「はい?先輩」
「本当に…… 良かったのか?」
「え?」
「この部屋……で」
ダブルの部屋 ―― プロポーズをしたとはいえ、いきなりはどうだろうかと最初は迷った。
せめてツインの部屋にすれば良かったか、と八郎太は思っていた。
少しの間の後、頷く愛。その表情に八郎太はホッとする。
「……先輩、これからどうしますか?」
「えっ?! こ、これからって…… いや、先ず風呂入って―― 」
「??何言ってんですか?違いますよ、休暇の事ですよ」
「あっ、ああー、そうだな、先ず… お前ン所に挨拶に行って…俺ン家行って… だな」
頷く愛。
「次の休暇にも帰るからさ、後はそれからだな―― 」

これからの生活に話が弾む。話の途中、アクビが出る愛。
「久し振りの宇宙で疲れたんだろ、風呂入って来いよ」
八郎太はテレビのリモコンを弄りながら言う。
「いえ、先輩、お先にどうぞ」
「……何か 仕事の延長みたいだな」
「そうですか? あの、私、後でいいです」
「そっか… じゃあ俺、先に入るな」
暫くしてバスルームからシャワーの音が聞こえて来る。
少しずつ緊張してくる愛。プロポーズを受けたのは確かだが、その日の内に一緒の夜を過ごす事になろうとは……。幸せな反面、展開の早さに少し恐くなる。
“幸せ過ぎて恐くなる”――― こういう事をいうのだろうか?
冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、飲む。
「タナベも入っちゃえよ」
バスローブを着た八郎太が愛の手からミネラルウォーターのボトルを取り、飲み始める。
「あ、ソレ… 私が」
「―― どうした?」
「いえ、何でもないです……」

「それじゃ、私も入って来ますね」
愛はバスルームのドアを閉め、鏡の前で深呼吸をする。
“私がシャワー浴びたら… その後って…きっと…だから先輩はこの部屋にしたんだよね……”
鏡に映る自分の顔すら見ることが出来ない。
ソファーに腰掛け、テレビを観ている八郎太。内容など分らない。落ち着かず、何度もミネラルウォーターのボトルに手が伸びる。やたらと喉が渇く。
“緊張してんのか、俺… いや、酒飲み過ぎたからか…?”
酔いは覚めて来た筈なのに鼓動が早くなって来る。
少しして、シャワーの音がドライヤーの音へ変わる。
愛は髪を乾かし、バスローブに袖を通すとバスルームを出る。
無言のまま、愛もソファーに腰掛ける。
「……何か飲むか?」
冷蔵庫を開ける八郎太。
「あ… 大丈夫です。」
「そう、か」
会話が続かない。
「明日… 宇宙港へは何時に行けばいいんでしたっけ」
「えーっと 10時… だな」
「寝坊出来ませんね」
「……そうだな……もう寝るか?」
咳払いをして立ち上がる八郎太。部屋の照明を落し、ベッドの方へ歩く。
「…… タナベ?」
「ア… あの、私……」
「俺、ソファーで寝ようか?」
「いえ、そんな」
愛の傍へ来る八郎太、愛の手を引く。
「……こっち来いよ」
「……ハイ」

2人はベッドに腰掛ける。八郎太は愛を見るが、愛は俯いたままジッとしている。
「―― 嫌か?タナベ……」
「……そんな事…ないです」
ギュッとバスローブを握り締める愛。
「そんな緊張すんなよ… 大丈夫だから」
八郎太は愛の腰へ手をまわした。ビクッと反応する愛。
「あッ あのッ、私……初めてなんです だから」
「わかってるよ ……こっち向けよ」
「? は、はい……」
震える愛を優しく抱き締める八郎太。ゆっくりと唇を重ねる。
“落ち着け… 焦るな、焦るな――― ”
八郎太は自分に言い聞かせる。そのまま後ろへ倒れ込み、愛の胸元に触れる。
「……先輩」
「なんだ?」
「あの…私… よく分からないから、先輩にお任せします」
「……辛かったら言えよ?」
「えっ… 辛くなるんですか?」
「いや、だから… とにかく、言えよ?わかったな?」
「……?」
「―― You copy?」
「ァ… I copy ……です」
再び唇を重ね、やがて舌を滑り込ませる。愛のバスローブのベルトは解かれ肌が露になった。
目を閉じたまま身体を震わせている愛。八郎太もバスローブを脱ぐ。
「……タナベ」
「なんですか?先輩……」
「 ……コ」
「……はい?」

言葉を飲み込む八郎太。
「何ですか? 言って下さいよ、先輩…」
「いや… 何でもない」
首筋にキスをしながら愛のバスローブ脱がせる八郎太。
「……そういうの、気になるんですけど」
愛は八郎太から離れ、バスローブで身体を隠す。
少しの沈黙。しょうがないな、という顔をしながらも八郎太は口を開く。
「……タナベ、お前… 子供、好きか?」
「? はい… 可愛いですよね」
「……作るか」
「は?」
「だからッ、俺達の子供を作んないかって言ってんだよッ」
「えっ… ええっ?! そういうの、早くないですか?だってまだ私達―― 」
「順序なんかいいだろ?俺の…我侭で7年もお前の事1人にするんだ、寂しいだろ?」
「………」
「―― だからいいって言ったんだよ」
不貞腐れた様な顔をして愛から視線を反らす。その表情に愛はクスッと笑う。
「……な、何だよ、可笑しいかよ……」
「そんな事無いです。嬉しいです、先輩」
八郎太との距離を縮める愛は八郎太の手に触れる。
「私も… 先輩の赤ちゃん、欲しいです」
「そ、そうか… よかった」
八郎太は愛の額にキスをすると愛を寝かせ、バスローブを除ける。
「有言実行… イヤ、善は急げ… どっちだ……?」
「…… ムード無いです、先輩……」

「…… セ、先輩… そこ、恥ずかしいですッ……」
八郎太の頭を押える愛。八郎太は下腹部に舌を這わせながら、パンツに触れる。
「それじゃ、もっと部屋を暗くするか?」
「……そういうんじゃなくて……ア…そんな引っ張ったら切れちゃいますよ」
愛のパンツを手探りで下へ下ろそうとするが上手くいかない。
「アレ…? クソッ おかしいな……」
「ちょっと待って下さい」
愛は横を向き、パンツを脱いで枕の下に隠した。
「先輩って せっかちですね」
クスッと笑い、八郎太の首に腕を絡める。
「……悪かったな」
「私…先輩のそういう所も好きですよ」
「なッ…… タナベッ お前、よくそんな事面と向かって…」
赤面する八郎太。愛が話し出そうと口を開くが、それをキスで塞ぐ。
「―― “愛”があれば恥ずかしく無いってヤツか?」
耳元で言い、八郎太は愛の下半身に手を伸ばす。ピクッと愛の身体は反応する。
「ア…… 」
ゾクッ…… 初めての感覚が全身を襲い、愛は八郎太にしがみ付く。
「―― 何だよ、お前…自分で シタ事 無いのかよ?」
「ア…ァ…… そん、な……」
愛の身体は小刻みに震え、徐々に呼吸が荒くなる。
「腰… 動いてるぞ?気持ちイイのか?」
「ヤダ… 先輩、そんな事 ―― アッ……」
指を下へ移動させ、ゆっくりと濡れている中へ沈めて行く。
「凄ェ… 感じ易いな… タナベ」

八郎太の指の動きに合わせ、ビクビクと反応する愛。顔は紅潮し、虚ろな目になる。
「……セ、先輩ッ… もう止めて下さいッ……」
脚を閉じようとする愛。
「何だよ… 気持ち良くないのか?」
「……い、いえ… あの…… 何だか私……」
モジモジとしている愛。
「どうしたんだよ?」
「何だか…… トイレに行きたくなっ…… アッ……」
「……お前、それって―― 」
一度指を抜き、再び小さな塊に触れ、小刻みに指を動かす。
「アアアアアッッッ!!」
八郎太にしがみ付く愛。背中にまわした手に力が入る。
「やぁっ…!止め……ッ ア…アァ…… 出ちゃ……!」
「平気だって… そんなんじゃねえよ。もう少ししたら 良く なるって」
「セ… 先輩! アッッッ―――― 」
初めての快感に全身をピクピクとさせる愛。八郎太はそんな愛を抱き締める。
「違っただろ?」
「……ハ…ハイ……」
「どんな気分だ?」
「……凄く…気持ち良かった…です……」
愛は両手で顔を隠す。

初めての快感に、暫くの間動く事の出来ない愛の脚を開かせる八郎太。
「タナベ……入れるぞ?」
「………ハイ」
愛は八郎太の背中に腕をまわして体を密着させる。
「……痛かったら 言えよ?」
「ハ、ハイッ I copy です」
「…… あのなァ……」
「だって先輩の真剣な顔、仕事している時みたいで」
「笑ってこんな事するヤツがいるかっての」
八郎太は愛の唇を塞ぐ。少しして愛の方から舌を絡ませた。
キスをしながら八郎太は愛の濡れている所へ自分のものを押し当てる。
“アッ…… これ…先輩の……? ウソ…”
愛は体を縮み込ませる。次第に鈍い痛みが起こり、少しずつ強くなっていった。
「セッ… 先輩……ッ! イッ 痛いッ……!!」
「タナベ… 痛いか?もう少し、我慢しろ」
「痛かったら言えって… 言ったじゃないですかァ……」
必死で痛みを堪える愛。
「タナベ、奥まで入ったぞ。お前の… 凄ェ…気持ちイイ……」
八郎太はユックリと腰を動かし始めた。
「イタッ…! 先輩ッ 痛いですッッ!!」
腰の動きは少しずつ早くなっていく。お互いの身体のぶつかる音が部屋に響く。
「先輩…ッ もう…止めて…… 痛いッッ!」
「……タナベ 俺………」
八郎太は愛を抱き締める。
「先輩…?」
「もう…イッちまいそうだ… タナベ……」
「ハ… ハイ」
痛みを堪え、八郎太にしがみ付く愛。次第に痛みはさっき味わった感覚に似たものに変わってくる。
「アッ…アッ… セ、先輩ッ 何だか私ッ……」
徐々に身体を仰け反らせる愛。

愛の呼吸は更に速くなり、やがて喘ぎ声へと変わる。
「先輩… 待って…下さいッ……」
「…タナベ…お前の凄ェ締まる… 俺…もう少しで……」
八郎太の力は強くなる。愛は八郎太の両肩を掴み、自分から引き離す。
「……タナベ?」
「何だか… 凄く気持ちイイですッ……まだ先輩……ダメです…」
八郎太は自分と繋がっている少し上… 刺激を受け突起となった其処に粘液で濡らした指を押し付けた。
「?! ンッ… ア…アッ、そんな強くッ…… アアアアアッ」
愛は一気に絶頂へ達する。八郎太の腰の動きは更に強くなる。
部屋には時折ベッドの軋む音と、2人の荒い呼吸の音だけが聞こえる。
「……タナベ……出すぞ?……いいか?」
愛は頷き八郎太を抱き締める。
「―― ゥ、ァ……ッ!」
八郎太は強く自分の方へ愛を引き付けた。ビクッビクッと下半身が痙攣する。
八郎太も今までに感じたことの無い快感を味わった。
「……大丈夫か?タナベ……」
「はい…初め…痛かったですけど…… 先輩は?」
「……スッゲー気持ち良かった……」
「―― そういう事じゃありません!どうしてそうデリカシーが……」
愛は八郎太から離れようとする。
「なァ、いつ…… わかるんだ?」
「え?」
「だからさ、その、出来たかどうかって……」
愛は八郎太を抱き締める。
「―― 本当にせっかちですね、先輩は。もう少し先ですよ。」
「そ、そうか」
「次の休暇の時には判るかもしれませんよ?」
少しして八郎太の腕枕でウトウトし出す愛。八郎太の方へ体の向きを変える。
お互いの頬が触れる。八郎太は愛の額にキスをした。
「―― タナベ」
「……? ハイ……」
「もう一回… するか?」
愛の下半身に触れながら覆い被さる。過敏になっている愛の身体は直ぐに反応した。
「ワ…ワ、チョッ… チョット待って下さいッ 先輩ッッ!!」

「嫌か……?」
八郎太は愛の首筋にキスをしながら脚を開かせる。
「そ… そんな……先輩っ ァ……」
濡れている所に人差し指・中指が入れられる。身体が硬直する愛。
「地球(おか)に下りたら今度はいつ出来るか分らないし……」
「ア…ッ ア…ッ」
指の動きに合わせるかの様に愛の身体はビクン、ビクンと反応する。
強引な八郎太の行動に、普段なら不満を爆発させる愛もこの時は不満に思わなかった。
羞恥心を消す事は出来ないが、時間が許される限り八郎太と身体を合わせていたいと思った。
やがて入れられていた物が指から八郎太のモノに変わり、愛は3度目の絶頂を迎える。
「何だか無理矢理だったな…… 悪かった」
「先輩がよかったのなら…私は嬉しいですよ。それに…」
「?」
「私も… 気持ち良かったですから……」
顔を見合わせ、お互いに照れ臭そうに笑う。あと半年…… そうしたら離れ離れの生活が始まる。
ずっとこうして居たい…… やがて愛は八郎太の腕の中で眠りに落ちた。

何もかもが似ている。歳が離れているとはいえ、兄弟なのだから当然なのだろうか。
一人っ子だった愛にはよく分からないが兄弟というのはそういうものなのだろう。

何もかもが似ている。歳が離れているとはいえ、兄弟なのだから当然なのだろうか。
一人っ子だった愛にはよく分からないが兄弟というのはそういうものなのだろう。
九太郎と視線が合う。やっぱり似ているな、と愛は思う。
似ているから…ただそれだけで身体を許してしまうのだろうか?
そうじゃない、八郎太への気持ちは変わらないが自分は九太郎に甘えたいのだ。
7年という長い時間を埋めて欲しいのだ。
強引な九太郎に抵抗しながらも、本気で抵抗していない自分に気付く。
本気で抵抗していたら、今頃九太郎の顔には幾つかの傷が出来ていてもおかしくはない。
そして嘗てチェンシンにした様に。
自分から九太郎の身体に腕を絡めキスをせがみ、無意識の内に九太郎を誘っている。
こんな事が八郎太に知られたら、と思うと胸が張り裂けそうになる。だけど止まらない。
もう後戻り出来ないのだろうか。八郎太が自分の元に還って来た時、今までの自分に戻れるのだろうか?
初めて一緒の夜を過ごした時の様な気持ちに戻れるのだろうか?

――― 私って 物凄く悪い女。

「……愛さん?」
九太郎の声にハッとする。
身体は無抵抗になっていた。
「ううん… 何でもない」
愛は九太郎の背に腕をまわし、九太郎は愛の唇を塞ぐ。
ユックリと長いキス。
「愛さんって急に積極的になるよね」
「………」
「俺は… 嬉しいけど」
愛に軽くキスをすると、ユックリと全身に舌を這わせて行く。
愛は目を閉じ、身体の反応に時折吐息が漏れる。
強引な所は八郎太と変わらないが、優しく身体に触れてくれる所は九太郎の方が勝っているかもしれない。

「ア…ウ…ッ ンン……ッ」
声を上げそうになり、愛は咄嗟に口を紡ぐ。
「我慢しなくていいよ 他に誰も居ないんだし……」
「………」
他に誰も居ない、2人きり。誘ったのは九太郎からだったが、その後の事は自然な流れ。
お互いを意識している男女が長い時間2人きりになったら、何も起きない筈は無い。
しかも明日になったら今までの生活に戻る。2人の関係もきっと ――― 。
自分達の関係が知られたら…… 恐ろしくて想像すら出来ない。
限られた時間を無駄にしたくは無い、そう思っていたのは愛も同じだった。
心では八郎太を想い、身体が求めているのは別 ―― 昨日までの自分からは想像も出来ない位大胆な行動…… でも今はそれでもいい、愛はそう思っていた。
拒否する事無く、愛は九太郎と繋がる。お互いに視線を合わせる。
「明日から… 俺達… どうする?」
「?……どうするって……」
「愛さんは…その…我慢出来る?」
「………」
「俺は… きっと… 我慢出来なくなると思う…また直ぐに……」
“その先、言わないで… 私 ――― ”
愛は九太郎の身体を引き寄せ、唇を塞ごうとするが、腹部の膨らみが邪魔をして腕の力が緩む。
「……愛さんの事、欲しくなるよ きっと……」
自ら言っておきながら恥ずかしくなり、愛から視線を反らす九太郎。
カアッと全身が熱くなる。
「ダメ…そんな……ッ」
少しずつ早くなる九太郎の動きに、愛の息使いは早くなる。
「……本当にそう思ってる?」
「九太郎クン…まだ…高校生だし…これから……」
「あと7年……だよ?待てないって言ったじゃん……」
「もっと…頑張って勉強とか……」
「そんなの…関係ねぇって……!」
「関係無くない……!」
「愛さん… 矛盾してるよ」
「………」
「俺… もう……」
愛の首筋を強く吸う。

「ァ…! ダッ…ダメッ!そこは ――」
首筋が熱い。愛の声に驚き、九太郎は唇を離す。
「……何、どうしたの?」
「……跡が…… 残っちゃう……」
「えっ?明日には消えるんじゃないの?」
「………」
“知らないんだ……”と愛は体の力が抜ける。
「じゃあ、ここ… 憶えておいてね?」
“ここなら大丈夫よね……”と、愛は九太郎の胸を強く吸う。少しして唇を離す。
「 ―― ホラ、赤くなったでしょ?」
「ウ、ウン…… 暫く消えなさそう……」
「……でしょ?」
「見付ったらヤバイね……ゴメン、知らなかった 」
愛は首筋に触れる。跡が残っていたら、と気持ちが焦る。
「平気、赤くなっていないよ」
九太郎は愛の首筋にキスをすると、再度ユックリと腰を落として行く。
ヌルリとした感触に、愛の身体も反応する。
キスマークは暫くの間消えないとか、そういう事は愛が九太郎と同じ頃には表には出さなくとも一番興味の有る事で、周りの友達も同じだった。中には既に経験済みな友達も居た位だ。だから九太郎も経験は無くともその位の事は知っているだろうと思い込んでいた。宇宙やロケットの事は宇宙飛行士だった自分と負けない位詳しいのに ―― イヤ、自分よりもずっと知識は上かもしれない。
夢を語るときの表情と、自分だけに見せる表情。普段とは違う姿に“男”を感じさせる。
惹かれていく自分を否定出来なかった。
「 ―― 大丈夫?辛くない?」
九太郎は愛の腹部に触れる。
女性の身体はよく分からない。ましてや妊婦の身体の事など……。
愛が八郎太の子供を妊娠していても、そんな事はどうでもいい。自分の物にしてしまいたい。それしか頭になかった。
「大丈夫… ユックリなら……」
「もう少し勉強するよ」
「?」
「…愛さんの身体の事……」
「他にもっと大事な勉強があるでしょう?」

愛の髪に触れた手が止まる。
「……またその話?」
「またって… 大事な事でしょ?」
愛は体を起こそうと九太郎の背中に回していた腕を解く。
「説教なら明日聴くから――」
九太郎は自分から離れた愛の両腕を布団に押え付け、首筋を軽く吸う。
「今は……」
そして、愛にキスマークを付けられたのと同じ場所を強く吸う。
「ア……ッ」
ピクンと反応する愛。赤く付いたその跡を見つめる。
「ここなら平気だろ?」
自分の誘いを拒否したかと思えば、次には抵抗する事無く受け入れる愛。その度に戸惑いながらも愛に対する興味が更に湧く。
「…愛さん…俺…もう我慢出来ないよ……」
愛を抱き締める。愛は九太郎の首に腕を絡ませ、顔を近付けた。
「ァ… 愛さん……?」
「―― どうしたの? 貴方から誘ったのよ……?」
「!」
ゾクッ… 鳥肌が立ち、一瞬、九太郎の動きが止まる。
「……九太郎クン?」
「……夢で……」
「……夢?」
「同じ事…俺に…… ビックリした……」
「…?」
「愛さんの事…気になってたからだよな……」
「? どういう事?」
「夢で愛さんと…こういう事…毎晩……」
「私と……?」
「いつも… 愛さんの事考えて……じ…」
愛は九太郎の腰へ両手を伸ばし、更に身体を密着させた。
「……?!」
「もう…自分で…しなくてもいいでしょ……?」
「……ゴメン、もう…出るッ……」

「………ッ!」
下半身が痙攣する。それに合わせ愛の中へ熱いものが勢い良く注ぎ込まれた。
「―― ゴメン… ユックリって言ってたのに… 大丈夫?」
「うん… 大丈夫……」
さっきとは違い、部屋の照明は明るいままだった。今頃になってお互いに恥ずかしくなる。
少しして愛から離れ、隣に寝転ぶ。
無言のまま九太郎は愛の手に触れる。一瞬、手を引っ込めた愛だったが九太郎の手を握った。

“重い……”
胸の上に重い物を感じ目を覚ます愛。いつの間にか眠っていた。
繋いでいた筈の九太郎の手が胸の上に乗っていた。起さない様に布団に下ろす。
八郎太に比べて寝相は悪くは無さそうだ。シャワーを浴びようと起き上がる。
静かに歩く。出来るだけ音を立てない様に。時計は午前1時を過ぎている。
“こんな夜中にシャワーを浴びるなんて……”
今、この家には九太郎と自分の2人だけしかいないのに周りが気になる。
それは“何か疾しい事が有るから”?
シャワーを手にした時、下半身に生暖かい物を感じた。
“ア……ッ”
内腿を白濁したモノがユックリと降りて行く。
九太郎の言葉を思い出し、再び早くなる鼓動を感じながら洗い流した。
自分を抱く夢を毎晩見ていたと聞かされ、悪い気持ちにならなかった所か、その言葉に今まで抱いた事のない興奮をおぼえた。そして自ら九太郎に“その先”を求めていた。
“今度、八郎太さんと話す時… 普通にしていられるかな……”
鏡に写った自分の顔が直視出来なかった。
心は八郎太に向けられているのは変わらない。でも、身体は ――― 。
心が寂しくなる様に、身体も寂しくなるのだと愛は知った。
そして、その寂しさを癒してくれる人が傍にいる、という事も。


参照:スレ1 >>345,357,360,369,375,376,386,390,392,396,402,409,421,424,429,430,
449,452,453,458,459,463,465,476,479,486,496,504,521,522,545,556,571,594