「大丈夫です、センパイ! わたしたちには、愛がありますから!」
「愛があるって、いったってなぁ」
ハチマキは眼に刺さりそうなほどの直毛をかき上げると、ため息をついた。
無重力状態でのセックスには、コツがいる。
通常はベッドを上下逆さまにして二つ並行に設置したような、幅の狭い空間で、する。
互いの身体が動いても手を伸ばすだけで、その位置を固定できるからだ。
しかしここは、完全防音が施されているとはいえ、ハチマキの寝室だ。
その中は、ちょうど地球でいうところのカプセルホテルのような形状をしている。
宇宙ステーションに住む者たちは、死体安置室の棺おけなどと、冗談交じりに称する場所だ。防音設備は整っているため、する分には問題ないのだが……。
「田辺……。俺たちは、その、初めてだぞ。……いいのか?」
やや頬を赤らめながらも、田辺はこくりと頷く。
「愛が、ありますから」
この娘は、愛さえあれば地球すら救えると、本気で信じ込んでいる。
少しは現実を見ろよと、口をうるさくして教育したつもりだったが、結局、その真っ直ぐな性格は変わらなかった。
いや、逆に自分たちのほうが影響を受けてしまったのかもしれない。
ハチマキは再びため息をついた。
「わかった。じゃあ、やるぞ」
「……」
田辺が友達から借りたという、ゴム製のロープ。
伸縮力は抜群で、肌も傷つけることはない。
「センパイ。……縛って、下さい」
お縄を頂戴する罪人のように、田辺はすっと両手を前に突き出した。
「……センパイ。電気、消してくださいね」
「あ、ああ。分かった……」
薄い闇の中、互いに正座で向かい合い、どちらからともなくキスを交わす。
ぎこちないが、想いを込めたキスだ。
とはいえ、無重力状態ではふわふわと身体が浮いてしまい、二人はそろって天井にぶつかってしまった。
「ってぇ。やっぱ、固定しねーとだめだな」
「ですね」
ハチマキはゴムの紐を室内のレバーに結びつけて、適度に伸ばした。
この先を田辺の手足に縛り付けるわけだが……。
「どうぞ、センパイ」
田辺は自ら服を脱いで、ぼんやりとした白い裸体を晒していた。
まだ下着はつけているが、滑らかな曲線がしっかりと見て取れる。胸は……見かけによらず大きい。着やせするタイプ、なのだろうか。
音を立てないように唾を飲み込んでから、ハチマキは言った。
「でもよ、これってさ」
「……」
「その、手足を縛っちまったら、下着が、抜けねーだろう?」
田辺はさらりとしたショートカットを揺らし、少し考える素振りを見せた。
「たぶん、大丈夫ですよ。今日のわたし……」
「うん?」
「……フロントホックの、スポーツブラだし」
「じゃあ、パンツは?」
その露骨な表現に、暗闇の田辺は動揺したようだ。
「パンティーは」
恥ずかしさのあまり消え入ちそうな声で、田辺は告白した。
「その……紐つき、です」
参照:スレ1 >>158,164