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中古文学−『源氏物語』を中心に(Verson:2.02)

 

  平安遷都(794年)から、12世紀末院政期に至る400年間に成立した

中古文学は、これまで最も親しまれてきた古典であると言えようか。

平安朝初期の唐風謳歌の時代を経て、新たな国風文化が確率され『古今

和歌集』や『源氏物語』が成立するが、後代の規範ともなったこの新た

な文学の誕生に、最も大きく関わるのが平仮名の発明だった。これまで

漢字によってしか表現できなかった様々な感情の襞(ひだ)を、自在に解

き放つ国字を生み出したことで、とりわけ仮名散文、また女性の手にな

る文学が大きく花開くこととなった。

  中古文学の研究は、これまで最も身近なところに生き続けてきた、

この主として仮名文字を駆使して創られた古典に、改めて現代に生きる

私どもが向き合い、対話するところから始まる。作品世界と現代との途

方もない乖離こそが、逆に新たな問いかけを私どもに投げかけてくれる

ことだろう。

  ここでは大学時代にぜひ一度通読しておきたい作品、中古文学の頂

点とも言うべき『源氏物語』を中心に、とりあえず中古文学の表の案内

の手引きをまとめてみよう。 中古文学全体を眺め渡そうとする時に、

まず有効と思われるものを挙げておく。以下テキストその他については、

『源氏物語』に関する情報が中心となる。

 

  ○藤岡作太郎『国文学全史平安朝篇』2冊 1974 平凡社東洋文庫

  ○秋山虔編『王朝文学史』1984 東京大学出版会

 

テキスト】

   下記三つのテキストは最新の研究成果を踏まえる。

  ○新編日本古典文学全集『源氏物語』6冊(阿部秋生ほか)1997 小学館

    [現代語訳を同じページに収めるスタイルをはじめ、最終巻の

       主要人物解説作中和歌一覧等が至便]

  ○新日本古典文学大系『源氏物語』5冊(柳井滋ほか)1996 岩波書店

    [「新大系」は底本の大島本を忠実に掘り起こした意義が大きく、

       別巻として索引もつけられた]

  ○『源氏物語の鑑賞と基礎知識』(『解釈と鑑賞』別冊)43冊 1998 至文堂

     [鑑賞欄・補助論文をはじめ当該巻の必読論文も巻末に付され、

      研究の最前線を概観するのに有効である]

    

    

  ○日本古典集成『源氏物語』8冊(石田穣二ほか)1985 新潮社

    [比較的ハンディで、現代語訳が原文右傍に記される]

  ○玉上琢禰『源氏物語評釈』12冊 1968 角川書店

    [現代語訳はもとより、鑑賞が詳密。これを簡便にした角川文庫

     版もあり]

  ○池田亀鑑『源氏物語大成』7冊 1956 中央公論社

    [校異篇・索引篇各3冊、研究資料篇1冊。仮名文字で書かれた

      『源氏物語』の原型、また異文の数の多さを確認したい。索引も

     信頼できる]

  

    『源氏物語』索引はほかに勉誠社『語彙用例総索引』もある。また

『竹取物語』以下の物語、日記文学の索引、あるいは和歌については

『新編 国歌大観』など、用例調査には欠かせないもの。

 

古注釈】

  新しいテキスト、注釈とともに、見逃せないのが分厚い研究の歴史

を持つ『源氏物語』の古注釈。『河海抄』『花鳥余情』等の諸注釈を一

通り 見渡せるものとして二つ挙げておく。

  ○源氏物語古注釈叢刊(中野幸一編)中院通勝『眠江入楚』4冊

1996 武蔵野書院

  ○北村季吟/有川武彦校訂増注『源氏物語 湖月抄』3冊 1982 

講談社学術文庫

 

入門書】

  ○清水好子『源氏の女君』増補版 1967 塙書房

  ○秋山虔『源氏物語』1968 岩波書店

  ○鈴木日出男『はじめての源氏物語』1991 講談社

  ○日向一雅『源氏物語の世界』2004 岩波書店

 

  いずれも新書版。平易に説かれるが、『源氏物語』の核に触れる内容

は深い。同じ新書版の清水好子『紫式部』(1973 岩波書店)は、

『源氏物語』の作者像に迫る入門書。

 

  ○秋山虔『源氏物語の女性たち』1987 小学館

   [桐壷更衣から浮舟まで十九人の女君像をめぐるエッセイ。人物論

    に関心があるなら、まず読んでみたい]

  ○清水好子『源氏物語五十四帖』1972 平凡社

   [国宝『源氏物語絵巻』をはじめ、『源氏物語』を素材とした絵画

   (源氏絵)をふんだんに使って、『源氏物語』世界への導入を図る]

 

  ○『源氏物語がわかる』1997 朝日新聞社・アエラムック

  ○『週間朝日百科世界の文学 源氏物語』1999 朝日新聞社

  以上の二冊は『源氏物語』研究の最前線を分かりやすく説く。

 

必携・事典】

  各巻の内容、登場人物紹介、研究書のまとめにはじまり、今どのよ

うなテーマが研究の中心となっているかなど、とりあえず『源氏物語』

について何か考えてみようという時にまず手掛かりにしたいのが以下

の事典類。

  ○池田亀鑑編『源氏物語事典』1960 東京堂出版

  ○『源氏物語を読むための研究事典』(『国文学』1995)

  ○秋山虔ほか編『源氏物語ハンドブック』1996 新書館

  ○秋山虔編『新・源氏物語必携』1997 學燈社

  ○秋山虔ほか編『源氏物語必携事典』1998 角川書店

  ○林田孝和ほか編『源氏物語事典』2002 大和書房

      [巻末の主要テキスト・ページ数対照表は至便]

 

  なお學燈社必携シリ ーズには、『古今集新古今集必携』『王朝物語

必携』『竹取物語伊勢物語必携』『王朝女流日記必携』等もある。

 

研究書】

 『源氏物語』の場合研究書、論文とも膨大な数に上るが、ここではす

べて省略し、様々なテーマの概観に便利な講座シリーズのみ挙げておく。

  ○山岸徳平ほか監修『源氏物語講座』9冊1972 有精堂

  ○秋山虔ほか編『講座 源氏物語の世界』9冊 1984 有斐閣

  ○今井卓爾ほか編『源氏物語講座』10冊 1993 勉誠社

     [最終巻は研究文献日録]

   ○増田繁夫ほか編『源氏物語研究集成』15冊 1998 風間書房

  ○上原作和ほか編『人物で読む源氏物語』20冊 2005 勉誠出版

 

  『枕草子』については以下がある。

  ○『枕草子講座』4冊 1975 有精堂 

    日本文学資料新集『枕草子・表現と構造』1994 有精堂

新しい研究の方向を示唆して見逃せない4冊の研究書を、

次に上げておく。

  ○三田村雅子『枕草子・表現の論理』1995 有精堂

  ○小森潔『枕草子−逸脱のまなざし』1998 笠間書院

  ○圷美奈子『新しい枕草子』2004 新典社

  ○武久康高『枕草子の言説研究』2004 笠間書院

 

  その他の作品の講座シリーズとして、有益なものを以下に加える。

  ○今井卓爾監修『女流日記文学講座』6冊1990 勉誠社、

  ○歴史物語講座刊行委員会編『歴史物語講座』7冊 1997 風間書房