ここでは、日本語学のうち日本語の歴史的な研究を扱うことにする。
我々にとって日本語と言えば、まずは現在自分が使っている日本語のこ
とであるが、それだけを見たのでは、日本語の一面を見ているに過ぎな
いと言えるだろう。昔の日本語はどうなっていたのか、どのようにして
現代の日本語が現れたのかという観点をもつと、日本語の有するさまざ
まな可能性というものが見えてくる。それが日本語史を学ぶことの醍醐
味である。
【日本語史の流れ】
日本語の歴史について大きな流れをつかむための本としては、次のよ
うなものがある。
○松村明『国語史概説』1972 秀英出版
[やや古いが、各時代を概観するのに便利。]
○沖森卓也編『日本語史』1989 おうふう
[比較的新しい標準的な概説書。]
○近藤泰弘ほか編『新訂 日本語の歴史』2005 放送大学教育振興会
[最新の概説書で、放送大学用にまとめられたもの。]
○『日本語の歴史』全8冊 1963〜1966 平凡社
[いわゆる概説書ではないが、日本語の歴史全体をダイナミックに
描いたもので、読み物としても楽しめる。]
次の2冊は、テーマを限定した通史であるが、日本語の歴史をどう捉
えるべきかという問題を考える上で有益である。
○阪倉篤義『日本語表現の流れ』1993 岩波セミナーブックス
○小松英雄『日本語はなぜ変化するか』1999 笠間書院
なお、研究法の入門書として次の1冊を推奨したい。
○青葉ことばの会『日本語研究法 古代語編』1998 おうふう
[『土左日記』を具体的な資料として取り上げ、その研究結果をレ
ポートにまとめる過程を示したもの。 ]
【従来の研究の概略】
日本語史の各事項について、従来どのようなことが分かっているかとい
うことの大体を知るためには、やはり事典類を見るのが手っ取りばやい。
○『国語学大辞典』1980 東京堂
○『国語学研究事典』1977 明治書院
○『日本語文法大辞典』2001 明治書院
○『言語学大辞典』1971〜2001 三省堂
また、次のような講座類を見れば、従来の研究の到達点がおおよそ分か
る。
○『講座 国語史』全6冊 1971〜1982 大修館
○『講座 日本語の語彙』全12冊 1981〜1983 明治書院
次の叢書は1人1冊ずつの分担執筆で、それぞれにまとまりがあり読み
やすい。
○『日本語の世界』全16冊 1980〜1985 中央公論社
○『国語学叢書』既刊10冊 1985〜1987 東京堂
以上のようなものを読めば、それぞれの分野でどんな研究がなされて
きたか、その概略を知ることができるであろう。
【論文の検索】
従来の研究の概略が分かったら、研究対象に応じて個々の論文を読む
必要があるが、次の年鑑によって、各年度ごとにどんな論文が出ている
かを知ることが出来る。
○国立国語研究所編『国語年鑑』秀英出版
○国文学研究資料館編『国文学年鑑』至文堂
○国立国語研究所編『日本語教育年鑑』くろしお出版
また、次のようなツールを使えば、論文の検索ができる。
○『国語学研究文献索引』秀英出版
[テーマ別の研究文献索引であるが、まだ「国語史篇」「音韻篇」だけ
しか出ていない。]
○『語彙研究文献語別目録』(『講座 日本語の語彙』〈前出〉別巻)1983
明治書院
[語彙項目別に研究文献がまとめられていて便利。]
○『国語学研究文献総索引』国立国語研究所
[国立国語研究所のホームページを開くと、1954年〜1990年の研究
文献が検索できるようになっている。 ]
○『国文学論文目録データベース』国文学研究資料館
[国文学研究資料館のホームページに置かれている日本文学研究論文の
総合目録データベース。文学関係だけでなく、日本語学関係の情報も
含まれている。]
論文の所在が分かったら、実際にその論文を読む番になるが、下記の類が
便利である。
○『日本語学論説資料』(旧題『国語学論説資料』)
[日本語学関係の論文(1964年以降)のコピーが年度ごとに整理されて
収められている。 ]
○『論集 日本語研究』既刊9冊 有精堂
[各分野の代表的な論文が収められており、簡単に読むことが出来る。]
ただし、それらに漏れているものもあるから、論文によっては雑誌・紀要
類に直接当たる必要がある。
【ことばの調査】
日本語史の研究と一口に言っても、音韻・表記・文法・語彙など、日
本語のどの側面に注目するかによって、調べ方が異なってくる。ここで
は、単語や句の単位で調査することを考えてみよう。
ある単語や句が、過去にどんな用法をもっていたか、あるいはその後
どんな変化を遂げてきたかを知るためには、辞書が最初の手がかりとな
る。
○『日本国語大辞典 第二版』全13冊 2000〜2002 小学館
○『角川古語大辞典』5冊 1082〜1999 角川書店
○『古語大辞典』1983 小学館
○『時代別国語大辞典 上代編』1967 三省堂
○『時代別国語大辞典 室町時代編』全5冊 1985〜2001 三省堂
○『近世上方語辞典』1964 東京堂
○『江戸語大辞典』1979 新装版2003 講談社
○『江戸語辞典』1991 東京堂
辞書に書いてある以上のことを知りたい場合、文献資料の中から用例
を拾い出して、その使い方を観察する必要がある。ただし、上代から近
代に至るまでの各種の文献には、索引が既に作られているものが少なく
ないから、それらを利用すれば、かなりの情報が得られるであろう。た
とえば、次のような索引類がそれである。
○『萬葉集索引』2003 塙書房
○『源氏物語語彙用例総索引』全10冊 1994〜1996 勉誠社
○『平家物語総索引』1973 学習研究社
○『天草版平家物語総索引』1983 勉誠社
○『〈柳髪新話〉浮世床総索引』1983 武蔵野書院
○『〈牛店雑談〉安愚楽鍋用語索引』1975 秀英出版
○『作家用語索引 夏目漱石』全15冊 1984 教育社
そして、ある文献について索引が出来ているかどうかは、次の書を見
れば分かる。
○『国語国文学資料索引総覧 改訂版』1997 笠間書院
○『国語学研究事典』所収「索引目録」1977 明治書院
なお、近代の語彙を調査する場合には、次のCD-ROMが利用できる。
○『新潮文庫の100冊』『新潮文庫 明治の文豪』
『新潮文庫 大正の文豪』『新潮文庫の絶版100冊』
また、インターネット上にある次のものを利用して検索するとよい。
○青空文庫
[インターネットを利用して作った無料公開の電子図書館。著作権の
切れた作品と、著作権者が公開を許可した作品を電子化し、テキ
ストファイルなどにしたもの。]
必要があれば、直接文献を読んで用例を探すことになるが、実はその
ほうが思いがけない発見もあって、収穫が多いものである。