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中世文学(Verson:2.03)

  一般的に、鎌倉幕府が成立した1192年から、江戸幕府の開かれた
1603年までが中世文学の時代である。鎌倉時代・南北朝時代・室町
時代・安土桃山時代に相当するこの時代は、打ち続く戦乱の時代で
あった。ジャンルを問わず中世文学全般に無常観が広く浸透している
のは、こうした戦乱の影響に他ならない。一方で、軍記物語、連歌、
説話など、多種多様なジャンルが成熟した時代でもあった。


基本情報】
  まず、作品、作家などについて基本的な情報を得るための手がか
りを挙げる。
  ○『日本古典文学大辞典』6冊 1985 岩波書店
   〔参考図書、テキストなどの情報も入手できる〕

  ほかに個別の分野、作品の辞典、大成もある。
  ○『和歌大辞典』1986 明治書院
  ○『和歌文学辞典』1982 桜楓社
  ○『日本説話小辞典』2002 大修館
  ○徳田和夫『お伽草子事典』 2002 東京堂

  また、図書館にない本や雑誌の検索には以下の検索が便利。
  ○国立国会図書館 http://www.ndl.go.jp/jp/data/opac.html
  ○国文学研究資料館 http://www.nijl.ac.jp/index.html
  特に後者は、国文学関係の雑誌が充実。内容や執筆者から論文の
検索ができるので便利。また、マイクロフィルムや紙焼写真という形で、
原本のコピーを閲覧できる。所蔵者によってはフィルムからのコピーも
可能。

テキスト】
  個別の作品については、さまざまな諸本のテキストが存在する。もっ
とも見やすいテキストとして次のシリーズを挙げておく。代表的な古典作
品のほとんどがこのシリーズに収められている。
  ○新編日本古典文学全集 88冊 2002 小学館
   〔現代語訳付きの信頼できるテキスト〕
  ○新日本古典文学大系 105冊 2005 岩波書店
   〔解説をはじめ、挿絵についての注も充実〕

  個別のテキストについては、それぞれ基本情報を元に検索すること。

「ことば」】
  ある作品で使われている「ことば」の用例を集めるには、索引を使う。
『平家物 語』を例にすると次のような本が参考になる。
  ○『天草版平家物語語彙用例総索引』4冊 1999 勉誠社
   [1巻が影印と翻刻、2〜4巻が索引]
  ○早川厚一『延慶本平家物語 人物索引』笠間索引叢刊1978  笠間書院
   [これは「ことば」ではなく、人物の索引。なお、笠間索引叢刊という
   シリーズは、 『平家物語』に限らず、『海道記』や『西行物語』など
   様々な本の索引を刊行している]
 
  和歌・連歌などは、とりわけ丁寧に「ことば」を調べることが必要である。
ある「ことば」が和歌史上どのように用いられてきたのかを知るには次の
辞典が有効。
  ○片桐洋一『歌枕歌ことば辞典』1999 笠間書院
  ○久保田淳ほか『歌ことば歌枕大辞典』1999 角川書店

  さらに、用例を集めて考えるためには、以下を使う。
  ○『新編国歌大観 CD‐ROM版 Ver.2』1996 角川書店
   [古典和歌約45万首と漢詩句を検索できる。歌語に限らず、様々な
   検索機能を活用してほしい。]

解釈】
  作品の解釈からは、解釈する人の考え方やその時代の特質を知る
ことができる。たとえば『新古今和歌集』の歌はどのように読まれていっ
たのだろうか。こうした解釈史の調査に役立つものを挙げる。
  ○『新古今集古注集成』1997〜 笠間書院
   [江戸時代以前の注釈を収めたもの。中世・近世の人々がどの
   ように『新古今集』 の歌を読んでいたのかが一覧できる]
  ○三谷栄一『徒然草解釈大成』1986 有精堂出版
   [徒然草の研究史を概観するのに便利だが、やや古いので注意]

  もちろん、今現在、どういう解釈が行われているか、テキストに挙げた
新編全集や新大系よりさらに掘り下げた知識を得るためには、個別の
作品評釈にあたる必要がある。
  ○久保田淳『新古今和歌集 全評釈』9冊 1977 講談社
  ○奥田勲ほか『新撰菟玖波集全釈』1999〜 三弥井書店
   [中世連歌を代表する『新撰菟玖波集』について、語釈、寄合の
   解説、現代語訳とそろって詳しい]

  さらに、講座類で、作品の背景などについても知ることができる。
  ○『徒然草講座』4冊 1974 有精堂出版
   [『徒然草』を時代や言語などさまざまな視点から論じたもの]

入門書】
   中世を代表するジャンルが軍記物語。『平家物語』を筆頭に、テキスト、
入門書の類がそろっている。注意すべきは、琵琶法師によって語られた
『平家物語』は、同じ『平家』であっても、様々なテキストが存在するという
こと。こうしたいわゆる「語り物」については、成立、流布について特別な
観点が必要となる。
  ○兵藤裕己『語り物序説 「平家」語りの発生と表現』1985 有精堂

  格調高い軍記物語に対し、親しみやすい内容で庶民に愛されたの
がお伽草子。最近では「室町物語」とも呼ばれている。
  ○徳田和夫『お伽草子』1993 岩波セミナーブックス

  そのほか、大きな分野として、『宇治拾遺物語』や『十訓抄』、『古今
著聞集』、『沙石集』と様々に展開し、中世の人々の人生や宗教、世界
観について格好の資料となる説話集がある。とりわけ『宇治拾遺物語』
にはテキスト、参考書とも多い。
  ○小峯和明『説話の森 中世の天狗からイソップまで』2001 岩波現代文庫

  まず、和歌文学の入門としてちょうど良いのが『百人一首』。中学や
高校でこの中世に編まれた和歌のアンソロジーに親しんだ人も多いだ
ろう。注釈書も充実しており、歌枕、掛け詞、解釈の仕方など、和歌の
基礎知識を学ぶのに最適。
  ○吉海直人『百人一首への招待』1998 ちくま新書
   [歌の解釈だけでなく、成立事情や遊びの歴史など様々な観点から
   『百人一首』を論じたもの]

  連歌は、複数の作者が一座し、他者の句に「付ける」という行為を繰
り返してひとつの作品を作る世界でも類のない形態の文学である。続く
近世の時代には「連歌」から独立した「俳諧」が盛んになるが、これらの
文学の入門書として最適な本を挙げる。
  ○乾裕幸ほか『連句への招待』1989 和泉書院

  中世(に限らないが)は、知識人の教養として、漢文・和歌が必須で
あった時代である。当然、その時代の文学を読むためには、それらの
知識が必要となる。辞書類や、各評釈を手がかりに、丹念に「ことば」
の背景を探っていこう。たとえば、連歌の前句と付句を関連させる特別
な「ことば」を寄合というが、この寄合の多くは有名な古歌や漢詩、和歌
の縁語から成っている。
  ○佐竹昭広ほか『和語と漢語のあいだ 宗祇畳字百韻会読』1985 筑摩書房 
  これは三人の研究者が会談という形で宗祇の畳字連歌(漢字二字
の熟語を使用した連歌)を読み解いていくもの。作品を作り、そして読
むという知的作業の面白さを教えてくれる。歌語と漢語という「ことば」
に対して、中世の人々がどれほど鋭敏な感覚を持っていたか、こうした
本を通じて感じて欲しい。

 

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