| Quarterly Magazine Hi-Fi Index |

シングル盤の面白さは、その中身が凝縮されたサウンドにある。シングルはアルバムと違って、片面の収録時間はせいぜい3分半〜4分程度。またラジオでのオン・エアーを考慮すると、この3分半に全てを投入しようとする、作り手の姿勢が詰め込まれる訳だ。従って当然内容も濃いものとなる。良い楽曲、良い詞、良い演奏と歌が三位一体となったとき、この限られた3分半に込められた思いは増幅され、我々に感動をもたらす。この感動を一度味わってしまうと、もう病みつき。シングル盤こそ音楽の素晴らしさを知る第1歩であり、そこには純粋な意味での音楽の魔法やパワーが備わっているものだと、今でも僕は信じている。

大滝詠一『さらばシベリア鉄道』NIAGARA/CBSソニー XDSH 93016〈1981〉

僕の場合、中学3年の時に偶然ジャケ買いした大滝詠一のシングル「君は天然色」に大ショックを受け、以来音楽の深い森へと迷い込んでしまった。まさに大滝さんは僕の原点という事で、比較的レアな1枚を。「さらばシベリア鉄道」は当時太田裕美が歌ってヒット、また大滝さんのアルバム『A LONG VACATION』にも収録されているが、今回紹介するのはプロモ盤で、片面ディスク。しかも市販されていないMONO MIX。大滝さんの場合フィル・スペクターと同じく、曲がラジオから流れてくる時にどう聴こえるかという事を意識して制作するため、市販品とは別にヴォーカルのミックス・バランスを大きめにした、ラジオ・オンエアー用のMONO MIX非売品レコードが存在する。

ナイアガラ・トライアングル『A面で恋をして』SHISEIDO YDSS-3〈1982〉
『NIAGARA TRIANGLE VOL,2』は大滝詠一、杉真理、佐野元春によるコラボレーションでビートルズを共通項に制作され話題となったが、これはシングル・カットされた「A面で恋をして」のプロモ盤。曲が資生堂のCMで使用されたため、資生堂の特約店つまり化粧品店や薬局に配布された販促用レコード。ちなみに80年にも竹内まりやの「不思議なピーチパイ」で同様のレコードが作られている。

THE TEDDY BEARS『OH WHY/I DON'T NEED YOU ANYMORE』IMPERIAL X5562〈1959〉
大滝詠一といえばフィル・スペクターの影響を大きく受けた人物として有名だが、今度はスペクターの最も初期の作品の1つを。スペクターと言えばロネッツやライチャス・ブラザーズ、あるいはジョン・レノンらのプロデューサーとして有名だが、これはそれ以前に、テディ・ベアーズとして「TO KNOW HIM IS TO LOVE HIM」のNo,1ヒットを飛ばした彼らの、第2弾シングル。だがヒットせず91位止まり。しかし彼のソング・ライターとしての才能が最も発揮された時期の作品で、今聴いても切なく胸キュンの佳作。特にメロディー・ラインが美しい。シリア・ポールも後に大滝プロデュースでこの曲をカヴァーしたが、これもまた傑作。

THE RIGHTEOUS BROTHERS『(I LOVE YOU)FOR SENTIMENTAL REASONS/EBB TIDE』PHILLES 130〈1965〉
フィル・スペクターはプロデューサーとして天才であると同時に、一種の独裁者でもあった。このシングルの前作で、スペクターがプロデュースしたA面の曲より、B面「UNCHAINED MELODY」(ビル・メドレーのプロデュース)の方がヒットしたため、名誉挽回で両面ともスペクターがプロデュースした作品。この頃からライチャスの2人の間にもズレが生じ始め、ビルへの対抗心からボビー・ハットフィールドが両面ともヴォーカルをとっている。このピクチャー・スリーブは2種類あり、曲目の刷色が異なる。

IKE & TINA TURNER『TWO TO TANGO/A MAN IS A MAN IS A MAN』PHILLES 134〈1966〉
スペクターのレーベルであるフィレス・レコードのシングルでありながら、スペクターは一切関わっていない作品。プロデュースはフォー・シーズンズのプロデューサーとして有名な、ボブ・クリューで、両面とも彼らのアルバム『RIVER DEEP-MOUNTAIN HIGH』には未収録。先行シングル「RIVER DEEP-MOUNTAIN HIGH」が不発に終わった頃から、スペクターはフィレス作品のプロデュースを外注プロデューサーに振るようになる。ちなみに同年発売のロネッツの「I CAN HEAR MUSIC」も、ジェフ・バリーのプロデュース。ソウルフルなティナ・ターナーの歌声は、深い感動を生む。

THE RAG DOLLS『SOCIETY GIRL/RAGEN(SOCIETY GIRL BOSSA NOVA)』CAMEO-PARKWAY P-921〈1964〉
ボブ・クリューの名前が出たところで、このシングルを。ラグ・ドールズという謎のガール・グループの盤だが、同年のフォー・シーズンズの名曲「RAG DOLL」に感じがよく似てる!と思って調べたところ、この曲は「RAG DOLL」のアンサー・ソングとして作られたものの様だ。アレンジはチャーリー・キャレロで、作者にはボブ・クリューの名も。そして何と言っても、この曲の録音状態の良さには驚くばかり。B面はボサノヴァ・インストだが、これもなかなかの出来。

STEVE DOUGLAS & HIS MERRY MEN『LT. COLONEL BOGEY'S PARADE/YES SIR! THAT'S MY BABY』PHILLES 104〈1962〉
フィル・スペクターが関係していないフィレス作品をもう1枚。これはフィレスにおける初期の共同経営者、レスター・シルのプロデュース作品。スティーヴ・ダグラスはフィル・スペクター・セッションの中心的サックス・プレイヤーで、ドラマーのハル・ブレインをスペクターに紹介したのも彼だった。A面はお馴染みの映画「戦場に架ける橋」のテーマ曲。

THE RONETTES『YOU CAME, YOU SAW, YOU CONQUERED!』A&M 1040〈1969〉
フィレス・レコードを閉鎖し、A&Mレーベルで復活を図ったフィル・スペクターがプロデュースしたのは、やはりロネッツだった。しかし実際には、フィルの奥様ヴェロニカ(=ロニー・スペクター)のソロ作品。アレンジャーにペリー・ポトキンJr.、エンジニアにラリー・レヴィンという、フィレスの黄金期を支えたスタッフによって制作されたものの、不発。しかし楽曲は素晴らしい出来。録音レベルを目一杯上げ、うなるようなストリングスと強力なリズム隊をバックに歌うヴェロニカの歌声は、まさに感動的。

DION WITH THE PHIL SPECTOR WALL OF SOUND ORCHESTRA『BORN TO BE WITH YOU』¥BIG TREE SPECTOR BT-16063〈1976〉
70年代に入りリイシューと新作の発表を始めたフィル・スペクターは、ディオンのアルバムの制作に入る。同世代でキャリアのあるディオンをプロデュースする事は、スペクターにとっても興味深い経験だった。そして完成したアルバム『BORN TO BE WITH YOU』からカットされたのがこのシングル。サックス・ソロとストリングス・アレンジは、ソフト・ロックのファンにはニノ&エイプリルのメンバーとして知られる、ニノ・テンポ。ちなみに写真はプロモ盤で、A面はSTEREO、B面はMONO。

RONNIE SPECTOR AND 'E' STREET BAND『SAY GOODBYE TO HOLLYWOOD/BABY PLEASE DON'T GO』CBS/EPIC 8-50374〈1977〉
フィル・スペクターとの離婚後、ソロとして再出発を切ったロニー・スペクターが77年に発表したシングル。76年当時、既にロニーはブルース・スプリングスティーンのツアーにゲスト参加しており、その関係からか彼のバックであるE STREET BANDを起用。しかもビリー・ジョエルの作品をスペクター風にアレンジ。ちなみにこのシングルの両面2曲を、STEREOとMONOで収録した、12inchプロモ盤も存在する。特徴的なロニーの歌声は、このシングルでも健在。

THE TRADE WINDS『MIND EXCURSION/LITTLE SUSAN'S DREAMIN'』KAMA SUTRA/DEUTSCHE GRAMMOPHON 618 009〈1966〉
フィル・スペクターの下でソングライターとして修行をしていた、ピート・アンダースとヴィニー・ポンシアが、フィレス・レコードを離れ、レッド・バード・レーベルを経てカーマ・ストラ・レーベルからリリースした移籍第1弾シングル。トレイドウインズは、アンダース&ポンシアを中心に結成されたスタジオ・グループだったが、全く別人によるロード・グループの写真が残されている。写真のシングルは、このロード・グループのアーティスト写真が使われた、珍しいドイツ盤。

HAL BALAINE HIS DRUMS & ORCHESTRA『BEVERLY DRIVE/MIDNIGHT AT PINK'S』ABC DUNHILL D-4181〈1969
今までに35000曲以上のレコーディングに参加、ロネッツの「BE MY BABY」をはじめとするフィル・スペクター・セッションやビーチ・ボーイズの『PET SOUNDS』、サイモン&ガーファンクルの『明日に架ける橋』から、カーペンターズ、アソシエイション、フィフス・ディメンション、フランク・シナトラに至るまで、まさに60〜70年代の西海岸の音楽を支えた名ドラマー、ハル・ブレインの現状最新シングル。この「BEVERLY DRIVE」、実は66年リリースのソロ・アルバム『DRUMS! DRUMS! A GO GO』収録の「DRUMS A-GO-GO」と同じ曲。敢えて既発の曲名をダンヒルの所在地名に変えてリリースしたのは、ダンヒル・レーベルへのリスペクトかも。これも98年にHi-Fiで購入。

SPANKY & OUR GANG『LIKE TO GET TO KNOW YOU』MERCURY DJ-96〈1968〉
同名のセカンド・アルバムからのシングル・カット。スパンキー&アワ・ギャングは60年代後半から70年代前半にかけて活躍したグループで、中心メンバーであるマルコム・ヘイルのアレンジによる、複雑かつ洗練されたハーモニーと、ポップス、ロック、フォーク、ブルース、ジャグ、カントリー等の要素を高度に融合したサウンドが最大の魅力。このアルバムはL.A.やシカゴなど数カ所で録音されたが、この曲はL.A.セッションでドラムはハル・ブレイン。シングルとアルバム・ヴァージョンでは、曲の編集が異なる。山下達郎氏もお気に入りの曲で、アコースティック・ギターのパートをカヴァーしたそうだ。なお写真の盤は、STEREO/MONOのプロモーション盤。マルコムの死によりグループは解散したが、その後メイン・ヴォーカルのスパンキー・マックファーレンは、キャス・エリオット亡き後のママス&パパス再結成に参加。現在でもメンバーとして活躍中。ちなみに僕が初めてHi-Fiで購入したのは、『SPANKY & OUR GANG GREATEST HIT(S)』というアルバムだった。

BRIAN WILSON『NIGHT TIME/ONE FOR THE BOYS』SIRE/927 787-7〈1988
ビーチ・ボーイズの中心メンバーとして、数多くのヒットを飛ばしたブライアン・ウィルソンだが、意外にもソロ・アルバムは88年発表と遅かった。この曲は「LOVE AND MERCY」に続きアルバム『BRIAN WILSON』から第2弾シングルとしてカットされる予定だったもので、プロモーション盤CDも作られたが、結局アメリカでは発売されなかった。しかしドイツでは発売。A面の「NIGHT TIME」はエディット・ヴァージョン、B面「ONE FOR THE BOYS」はアルバム・ヴァージョン。

CALIFORNIA MUSIC『DON'T WORRY BABY/TEN YEAR'S HARMONY』RCA/VICTOR RCA 2488〈1974〉
お馴染みビーチ・ボーイズの名曲を、ブルース・ジョンストン&テリー・メルチャーのカリフォルニア・ミュージックがカヴァーした作品。彼らが設立したイクイノックス・プロダクションの第1弾シングルでもあった。ビーチ・ボーイズとはまた違った、ポップなアレンジが魅力的。B面「TEN YEAR'S HARMONY」はブルース作で、後に「ENDLESS HARMONY」に書き換えられ、ビーチ・ボーイズのアルバム『KEEPIN' THE SUMMER ALIVE』に収録された曲。写真はイギリス盤。

WIZZARD『I WISH IT COULD BE CHRISTMAS EVERY DAY/ROB ROY'S NIGHTMARE』EMI HARVEST HAR 5079〈1973〉
この辺でイギリス物を1枚。これはムーヴを率いてきたロイ・ウッドを中心とするウィザードの代表曲。もはやクリスマス・ソングの代表格でもある。アレンジ、曲構成、演奏ともに申し分なし。ロイ・ウッドのアレンジ手法はフィル・スペクターからの影響が大きいが、『A LONG VACATION』以降の大滝詠一のアレンジ...例えば歌の合間に登場する楽器のフレーズや曲構成など...に直接的影響を与えたのは、フィル・スペクターというよりロイ・ウッドなのでは?というのが、僕の個人的見解。ちなみに写真の盤、レーベルの印刷ミスで両面とも「ROB ROY'S NIGHTMARE」になっている。

 
土橋一夫
フィル・スペクター、ブライアン・ウィルソンをはじめ丁寧に作り込まれたポップスが好き。今回は特にシングルについて書いていただいた。現役バリバリの業界人で、その名を聴けば誰もがひれ伏すアーチストと共に仕事をしておられる。ご自身のホームページ
 Back To MONO Productions も力作。豊富なリンクリストにもたびたびお世話になってます。

 


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