Sounds Zounds!! No.9


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Quarterly Magazine Hi-Fi Index |

 

 

 軽さの妙…。そんなセレクションでどうかな、とお題をふられて月日が流れ…。優柔不断であれもこれもと迷ってしまいました。
 軽妙洒脱、粋で瀟洒でヒップでライト。飄々とした人柄の音楽家たちは、疲れた我々の心身を和ませてくれます。しかもそれはさりげなくて、謙虚です。モノには伝え方というもんがあって、その技を会得しているエンターテイナーたちの余裕たっぷりの芸だからこそ楽しんで鑑賞できるのです(最近こういうことをクレイジーケンバンドのライヴで痛感)。
 微笑・爆笑・はにかみ笑い…なんでもいいけど彼らの音楽は笑いの成分を含んでいて笑えるのだ、とにかく。それだけでいいのですよ。そんな感じで選んだ10枚。ちなみにレアなのはなし。以上。

  

1“I PRESUME”/ THE HI-LO'S

 最近ジャズ・ヴォーカル・グループを何となく良く聴いてます。ホント、その辺の知識は皆無に等しいのですが無いなりに聴き続けていると好みのグループも現れてきました。ハイ・ローズはそのうちの一つ。フォア・フレッシュメンも好きだけど、ハイ・ローズの方を良く聴いてます。フォア・フレッシュメンをして“歌唱の実力は自分達より上だ”と言わしめたほど、歌唱力は抜群。そのテクニック故の余裕が曲の至る所に表れてエンタテインメントの美学をこれでもかというほど痛感します。上手さがもたらす遊び心が満載です。その遊び心の塩梅がフォア・フレッシュメンより幾分濃いのがハイ・ローズと感じています。だからよく聴いてるのかな。 
 このアルバムはもともと10インチ盤に曲をプラスして12インチにしたものらしいです。55年作。なかなか曲ごとに緩急があって◎。愉快な「ロッキン・チェア」からムーディな「スピーク・ロウ」まで、ゴキゲ〜ンなハーモニーが堪能できます。
 ロック、ポップス、ジャズ…というカテゴリーが、今よりもお互い極自然に良い部分を吸収しあっていたと思われる50年代に、、様々な音楽要素をぶち込んでおいしく煮込んだものが彼らの残した作品なのだ、と最近つくづく思います。だから聴いてておもしろい! 後にリーダーのジーン・ピュアリングがシンガーズ・アンリミテッドを結成したり、メンバーのクラーク・バロウズがソフト・ロックのアソシエイションのコーラス・アレンジをしたりとジャンルを越えて人脈的に絡んでくる彼ら。それも必然だったのでしょう。

2“alright” / Roger Cook

 英国人ソングライターの76年作品。ここに入ってる“BEAUTIFUL MEMORIES”がなぜか好きで好きで…。いい曲書きます、この人は(「恋に恋して」とか!)。初めて聞いたのは10年以上前のこと。確か萩原健太さんの番組だったなぁ。3年前に上京してから聴き直して、惚れなおして、懐かしくって…。無邪気にラジオのエアチェックしてた頃を思い出したり、遠いところに来ちゃったなあという感慨からでしょうか、浸ってしまった…というかいい人ぶってしまった(恥)。そうそう、東京に来るかどうか悩んでいるときに、大江田さんにはいろいろ相談にのっていただいたんですよ。その節はありがとうございました!
 この曲の飄々ととぼけた調子がより一層ノスタルジックな気分にさせます。ニルソンに歌わせたかった! そう、次に紹介するアルバムに入っててもおかしくないですよ…。

3“THE POINT!” / NILSSON

 大のオトナが子供向けの歌を<子供の視点>で書けるってことはマジで素敵なことだと思います。ここに収録されてる曲って、子供達が口ずさんでるのが目に浮かぶんですよ。多才なニルソンが子供向け番組のために書いたサントラ。スタンダード・ナンバーをカヴァーした「夜のシュミルソン」も粋でカッコイイけど、とんがり頭のオブリオ君のことを歌った本作も、彼の軽妙なスタンスが伝わってくるいい仕事です。ニルソンみたいな人が学校の先生にいたらいいでしょうなぁ。歌が上手い大酒飲みの先生(70年代半ば、ジョン・レノンと毎晩呑み歩いてたらしいですよ)!

4“GOODNIGHT TONIGHT” / WINGS

 ポールです。ビートルズという重荷を背負いながらも、軽やかに活動を続ける彼を尊敬します。彼もニルソンと同じく多種多様な音楽を作り続けています。リトル・リチャードばりのロックン・ロールから、「ホエン・アイム・シックスティーフォー」のようなとぼけたボードヴィル・タッチの曲、「オブラディ・オブラダ」でのレゲエへのアプローチ、そしてついには『リヴァプール・オラトリオ』というクラシック・アレンジのアルバムまで作ってしまう音楽的な幅の広さ。それでいて器用貧乏にはなっていないところが天才です。生き方がロックなジョンに較べて商業主義に走ってるとか、ポリシーに欠けるとか熱血ロック・ファンからは言われてたみたいですが、何ででしょうね。
 で、ジャケもいい具合にとぼけたこの12インチを、あえてここで。音は…洒落たロックンロールですね! そういやポールってマイケル・ジャクソンとのデュエット「セイ・セイ・セイ」のプロモ・ヴィデオの中でミュージカル映画への(子供の頃よく聴いたフレッド・アステアへの)オマージュとしてダンスを披露してます。でこれ↓

5“SINGIN' IN THE RAIN”OST

 軽妙洒脱といえばなんといってもジーン・ケリーなのです。ジーンにしろフレッド・アステアにしろ、ミュージカル・スターというのは驚くほど軽やかに、そしてにこやかに、銀幕上を舞います。この52年の『雨に唄えば』でのジーンも御多分にもれず、軽快なステップを“魅せて”くれます。そして主題歌「雨に唄えば」のイントロ!
 ジーンが“ドゥ〜ドゥドゥッドゥ”と 、ちょっとはにかみながら(?)口ずさむあの部分! 気持ちをふわっと浮かび上がらせる魔法のフレーズです。BB5の「カリフォルニア・ガールズ」のイントロも史上に残る傑作だといわれますが、この曲のそれも同等です。
 ちなみに阪神大震災の直後、被災者を元気づけるために、地元の映画館がこの作品を上映しました。それを見に行った僕は、この時代のミュージカル映画のもたらす突き抜けたハピネスに感動した次第。そういう意味でも思い入れのある曲です。もちろん映画も傑作中の傑作。実験映画とか観に行ってスノッブ気取りでサブカルぶってた自分を恥じました。反省。まぁ、その年頃でしか味わえない偏りだからよしとしようか。そのおかげで今メイン・ストリームの持つ魅力が引き立って見えてくるのです。何ごとも対比の美です。

6“DEVIL MAY CARE” / BOB DOROUGH

2000年の今、粋なアーティストといえばこの人の名前をあげる人も多いのでは。ジャズ、ロック、ポップスと幅広いジャンルで活躍してきたピアニストでありヴォーカリスト、さらにコンポーザーでもあるボブ・ドロウ。とりあえず傑作といわれている56年録音のこれをあげましたが、他の作品もとぼけた妙味がいっぱいで楽しいものです。先日入手したアルバム“OLIVER!”では彼の歌声は聞けないのですが、そのピアノのフレーズがいかにもボブらしく、まるで口で唄っているフレーズがそのままピアノの音で奏でられたかのようでした。この“DEVIL 〜”はベツレヘムから発売されましたが、またこのベツレヘムというレーベルが何とも2000年の今、丁度いい塩梅なのですよ。適度に柔らかい音で和めるのです、何となく。クリード・テイラーがかんでいるからかな?    
 また、僕はプロデューサーやアレンジャーとしてのボブの仕事がとても好きで、特にアルゾのソロ作やスパンキー&アワ・ギャングで見せる清々しいセンスは絶品だと思います。と同時に、彼の相棒のスチュアート・シャーフの存在もずっと気になってました。たまたま手にしたクイ・リーの“I'LL REMEMBER YOU”に感動していたらアレンジャーがスチュだったり、スパンキーの“Like To Get To Know You”の作者が彼だったり… と、まあボブ・ドロウの話はどんどん続いていっちゃうので、この辺で…。

7“I LIKE TO RIFF” / RIO NIDO

 こいつらにもやられました! Hi-Fiにはこういう奴らが生息してるからヤバい!
 ルー・ロンドンしかりセントラル・パーク・シークス(祝CD化!)しかり。そんな彼らと並び、スウィングなどのオールド・タイミーな音楽へ僕の心を引き付けた張本人、いや張本盤がこれ。30〜40年代のキャブ・キャロウェイやナット・キング・コールなどが歌った曲を、スマートなハーモニー、卓越したテクニックで聴かせる男性2人女性1人の3人組。85年の録音。デュラン・デュランとか流行ってる頃にこんな録音を残していたわけです。彼らの演奏・唱方にも余裕が感じられて、非常にゆったりしてこちらの気持ちもほぐれます。結局、自分達の<魅せ方>が分かっている連中って、本当に洒落てると思います。自らの立ち位置を的確に把握できることこそ、エンターテイナーの証。<魅せ方>=<観られ方>…かな。
 最近、自分の中で彼らをはじめオールド・タイミー系粋人たちの存在がぐっと輝きを増してきました。スパンキー&アワ・ギャング、バンキー&ジェイク、ダン・ヒックス、マントラ('97年の『スイング』良かった!)、アスリープ・アット・ザ・ホイール…etc.。あ、ダン・ヒックスで思い出した! シャーラタンズの「ハイコイン」って最高だと思う人、挙手を…!

8“BABY YOU GOT IT” / BRENTON WOOD

 67年にダブル・ショット・レーベルからデビューしたブレントン・ウッド。チカーノの街サン・ペドロで育った彼は、当地のチカーノたちに愛された黒人シンガーです。同年には「ギミ・リトル・サイン」が大ヒット。この時期に2枚のアルバムを残します。その10年後の77年には3作目『カム・ソフトリー』をリリース。表題曲でのディスコ・アレンジも、彼の軽やかな歌声とあっていてグーです。
 しかし、何なんでしょうね、ブレントン・ウッドの歌のもたらす快感って。チープなバッキングが黄昏れた感じでまたよろし。彼の定番ウォーキング・リズム・パターンにからむアコギとオルガン…。思いを馳せるは、67年の晴れた日の午後、場所は香で煙るサンセット大通り。ヒッピーを横目にそぞろ歩く、ちょっと浮き足立った少年…。中古レコ(米盤)特有のホコリ臭を肴に彼の音に浸ると、そんな光景が思い浮かびます。あの時代の西海岸のピースな空気が、太陽によって街並みに焼き込まれていったように、ブレントン・ウッドは西日射す米西海岸の和んだ感じを音で焼き込みました。火照った身体もクール・ダウン。アコギ&エコーがたまらない名曲「Catch You On The Rebound」を含むので、67年発表のセカンドをあえてここで。彼のポップ・ソウル・ミュージックで感じる、打ち水の後のかすかな上昇気流。

9“SUNFOREST” / TOM RAPP

 60年代後期、アシッド・フォーク・バンド、パールズ・ビフォア・スワイン(ブタに真珠!)を率いて活動を続けたトム・ラップがブルー・サム・レコードから出したソロ・アルバムで、やっぱりアシッド・テイストな(?)穏やかな1枚です。アシッドといっても、どろどろ暗〜いのじゃなくて、とてもリラックスした楽園で見る白昼夢のごとき浮遊感漂う風情であります。夏の深山幽谷で鑑賞したくなるパールズ〜のころの作品も魅力的ですが(特にセカンドの『バラクラヴァ』! そこに収録されたレナード・コーエン作の名曲「スザンヌ」のカヴァーは絶品だと思います)、73年に出されたこの作品は、パーカッション、ストリングスなど多彩な楽器が使用された少しトロピカルな部分も感じることがあります。で、前述のボブ・ドロウもピアノで参加しとるのですよ。すごいね、ボブ。

10“JOHN B.SEBASTIAN” / JOHN B.SEBASTIAN

 想像できないものの一つに<ジョン・セバスチャンの怒ってる顔>というのがあります。彼は顔からいい人具合が滲み出ています。60年代中期からグッドタイム・ミュージックを奏でる名バンド、ラヴィン・スプーンフルのリーダーとして数々の名曲を生み出してきた彼。一度でいいからライヴが見たい&会ってみたいアーティストNo.1の座はず〜っと前から揺らいでません(祈来日!)。
 僕が勝手に彼に対して抱いているほのぼの具合は、作品からも感じとれます。「Do You Believe in Magic」「You Did't Have To Be So Nice」「Daydream」などなど、キリがありません。アメリカの良心が彼一人に凝縮されているようなと言ったら言い過ぎですが、彼のようなあったかい風情のアーティストがもっといたらなぁと常々考えている次第。天才的な音楽センスをもっているのに、偉そうじゃない。すべて想像の域をでないのですが、そこまで思わせてしまう笑顔と名曲群にリスペクト!
 アルバムは何だって良かったのですが、最近よく聴いてるソロ第1作目を選びました。「Magical connection」や「I Had A Dream」など、夢やら魔法やらをテーマにした曲を熱く(いや、寒く…か)ならずに歌える素晴らしい人です。



片島吉章
 大江田が店を開ける時間に遅刻したにもかかわらず、店の前で待っていてくれたのが、片島さんでした。関西から東京まで遊びに来た折りに、わざわざハイファイに寄ってくれたとのこと。これが最初の出会いで、以来数年。最近は東京に転居され、いろんな場所でよく出会うようになりました。
 彼の音楽の趣味をなんとなく想像してテーマをお願いしたところ、もしかするとハマってくれたのかも。軽妙さに隠されたタフネス、しぶとさ、やせ我慢は、男の美学なのかな。それから、もうひとつ。「サブカルぶってた自分を恥じた」のくだりには、まったく共感しました。僕も、実に、そうだったので。(大)

 

 
 
 


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