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大江田さんから「ネオアコでいきましょう」とリクエストがあったので、少年時代の想い出をまじえながら80年代英国のレコードを紹介していこうと思います。このコーナーにしては、レアなものが少なくて恐縮ですが、どれもがぼくにとってはかけがえのない作品です。洋楽入門は小学2年の時のベイ・シティ・ローラーズとキッス。その後、YMOにFEN、「ベスト・ヒット・USA」、「ザ・ポッパーズ・MTV」でポップ・ミュージックにはまった典型的な80年代っ子であるぼくですが、マニアックなレコード道への第一歩となったのは、ネオ・アコースティックを始めとする一連のニュー・ウェイヴ系のレコードでした。そして気がつくと、ぼくも渋谷の輸入レコード店のスタッフ。ある意味、これらのレコードに人生を変えられちゃったのかもな、なんて今あらためて感じたりしています。
THE PALE FOUNTAINS / (There's Always)Something On My mind
(LE DISQUES DU CREPUSCULE TWI118 / '82)まちがいなく、世界で一番好きなレコード。中学生時代、故郷の御殿場市にあった〈新星堂〉で手に入れました。初めて針を落としたとき、これほどまでに自分にしっくりとくる音楽があるのかと驚きながら、心の底から感動をおぼえたものです。以来、「無人島に持っていくレコード」とか「火事になったら持ち出すもの」といって、最初に思い浮かべるのはこのジャケットとなっています。92年にメンバーのマイケル・ヘッドがシャックの一員として来日した時には、英国盤の7インチの方にサインをしてもらいました。昨年、ドイツのマリーナ・レーベルから出た編集CDにも収録されているので、未聴の方はぜひ!
BORDER BOYS / Tribute
(LE DISQUES DU CREPUSCULE TWI174 / '83)ルイ・フィリップことフィリップ・オークレイの実質的な1stシングルです。まだ「Pet Sounds」なんてレコードがあるのも知らなくて、ビーチ・ボーイズがどうこうなんて考えずに心震わせてましたね。入ってる4曲どれもがすばらしいけれど、特に“When Will You Be Back”の感傷的なせつなさには、いつも胸をキュンとさせられてました。やはりこの時期のクレプスキュールとチェリー・レッドの作品ははずせません。他にもミカド(Not 小柳!)の“Parhasard”や、ベン・ワットの“SomeThings Don't Matter”のシングルはほんとによく聴いたなあ……。
BLUETRAIN / Land Of Gold
(DREAMWORLD DREAM007T / '86)高校生時代になると、大学生の姉が東京で一人暮らしをしていたこともあり、月に1〜2回の頻度で上京し、レコードを買っていました。初めて渋谷の〈タワー・レコード〉に行ったときに、シールドされた新譜のLPが各タイトルごとに山と積まれているのをみて、「輸入盤っていいなあ!」と大感激したことをよく憶えています。あとは渋谷の〈シスコ〉、新宿は〈UKエジソン〉、六本木〈ウェイヴ〉、そして代々木の〈イースタン・ワークス〉あたりをハシゴして、ヒット・チャートものやポップ寄りのニュー・ウェイヴ盤を買っていました。高3の頃はスライ・ストーンにザップのファンクや、ラン・DMC、デフ・ジャム周辺のラップにも夢中でした。その後、ぼくも東京の大学生になって、体育会ヨット部に入りましたが、ひと夏で退部。暇になった放課後は、レコード漁りや音楽雑誌「フールズ・メイト」の編集ボランティアなんかをしていました。そこで出会ったのが、当時編集者だった瀧見憲司さん(現クルーエル・レコード社長)。瀧見さんにはほんとにたくさんのレコードを教えてもらって、これもそのうちの1枚です。ペイル・ファウンテンズ直系のボサ・ノヴァ調アコースティック・ポップの大傑作盤ですね。TVパーソナリティーズのダン・トレイシー主宰のレーベルより。
THE MAN UPSTAIRS / The Consumer's EP
(SIDE LINE WIDE1/ '86)これも瀧見さんに教えてもらった5曲入りの12インチ・シングル。ジャケット違いの7インチも存在しますが、今回載せた中では最も珍しい盤かもしれません。特にB面に入っている3曲がすばらしい! 軽快なジャジー・ポップ“Country Boy”、メランコリックなスロウ・ナンバー“Sad In My Heart”、粋なスウィング感覚の“I BetThey're really Missing Me Downstairs”と粒ぞろい。ヴォーカルの歌声がちょっとルイ・フィリップに似ていて、知らずに「ボーダー・ボーイズの未発表トラックだよ」なんていわれたら信じてしまいそうな雰囲気の、隠れた名盤中の名盤です。
MIGHTY MIGHTY / One Way
(CHAPTER 22 12CHAP19 / '87)近ごろは80年代ギター・ポップのマイナーどころも、徐々にCD再発されるようになってきました。このマイティ・マイティもCD化の予定ありと小耳にはさみましたが、じつに喜ばしいことです。88年のアルバム「Sharks」は全曲最高で、毎年夏になると必ず棚から引っぱり出す、個人的サマー・クラシックスのひとつ。その中でもこのシングル曲“One Way”は、シンセサイザーによるストリングスが爽快な一番のお気に入りです。この時期の英国インディのジャケット・デザインは、あか抜けないけれど独特のいい味を出していて、不思議と惹かれるものがあります。
THE WALLFLOWERS / Thank You
(MANTRE 7MANT98/4 / 発売年クレジットなし)ボブ・ディランの息子、ジェイコブが同名のグループで活躍していますが、もちろん別もの。プロデュースをXTCのアンディ・パートリッジが手がけている、青春ブリティッシュ・ポップの名曲シングルなのです。ぼくは第1回から通った、今はなき〈下北沢ZOO〉での伝説のクラブ・パーティー、ラヴ・パレードで、瀧見さんがよくかけていたのを思い出します。現在、仲のいい友達の多くはそこで出会った連中であるし、今いっしょに住んでいる彼女もじつはそこで初めて知り合ったのでした。なんと、あれからもう10年も経ってしまいました。
BOB HOPE / I Hope The Sky Falls On Her Head
(DRIVE DRV10 / '88)これはエスカレーター・レコーズを主宰する友人の仲真史くんが、渋谷の輸入盤ショップ〈ZEST〉の店員時代に発掘し、イギリスでデッド・ストックを買いつけてきた知る人ぞ知る傑作。といっても、片面はスマーター・ザン・ユーといういまひとつパッとしないグループが収められていて、カップリング仕様のアルバムとなっています。ボブ・ホープはスウィンドン出身の好青年3人組バンド。泣きのメロディとボサ・ノヴァ風のアコースティック・サウンド、そこにトランペットまで入る“Way's To Do Wrong”は、数あるペイル・ファウンテンズ・フォロワー的なギター・ポップでも屈指の名曲でしょう。
TOPPER HEADON / Drumming Man
(MERCURY MER194 / '85)渋谷の〈ZEST〉で忘れてはいけないのが、初代スタッフの石黒健太郎さん。リーゼントに口ひげできめた、見た目はちょっと怖め、でもじつはとてもやさしいバディ・ホリー好きの兄貴的存在でした。大学生の頃、暇なときは何時間もZESTに入りびたって、石黒さんが担当していたロカビリーやサーフ・インストのコーナー(現在は廃止)にある再発盤から、おすすめをあれこれ聴かせてもらっていました(ハイファイにも、そんな若者いるでしょ?)。そんなある日、「梶本くん、きっとこれ好きだよ」と教えてもらったのが、クラッシュのドラマー、トッパーのソロ・シングル。今ならレトロ・スウィングなんて呼べそうな、ごきげんなジャンピン・ポップで、題名どおり本人のドラムも大活躍! 女性ヴォーカルをフィーチャーした最高に楽しい1曲です。
CAPTAIN SENSIBLE / Sensible Singles
(A&M AMA5026 / '84)パンク・バンドのメンバーによるソロ活動といえば、ダムドのキャプテンもはずせません。映画「South Pacific」の挿入歌“Happy Talk”の大ヒット・カヴァーが有名ですが、ぼくの第1位は夏の夕暮れどきムードな“Glad It's All Over”。クリスマス・ソングの傑作“One Christmas Catalogue”も入ってるし、このシングル編集盤は捨て曲なしでおすすめです。4年前の8月にひょんなことからぼくは〈ZEST〉の店員として働くことになり、中古盤買いつけでヨーロッパに渡る機会も多いのですが、一昨年のスコットランドはグラスゴーのレコード・フェア会場で、なんとキャプテン本人に遭遇! 彼はなぜかゲストとして登場し、ギターを弾きまくったあげくに、自分のストールでトレードマークのベレー帽やサングラスといったグッズをサイン入りで売っていました。あまり相手にする人もおらず、パンク・ロッカーの哀しい末路を見るようでなんとも複雑な気分でした。
ANIMAL NIGHTLIFE / Native Boy
(INNERVISION TA3584 / '83)スタイル・カウンシルも死ぬほど好きでしたね。ポール・ウェラーは今でもかっこいいけど、やっぱりぼくはカウンシル時代が一番かな。その流れで、当時のジャズやソウルに影響を受けた一連のグループは、とにかくチェックしまくってました。アニマル・ナイトライフも大のお気に入りで、これは初期の代表的なシングル。ヴィブラフォンにホーン・セクションもきまった、最高にお洒落なジャジー・ソウルです。ジュリアン・テンプル監督の映画「Absolute Beginners」の世界ですね。'85年発表の1stアルバム「Shangri-La」での別ヴァージョンも負けず劣らずのアレンジで、そちらもおすすめです。
APRIL SHOWERS / Abandon Ship
(CHRYSALIS CHS12 2787 / '84)アコースティックなギター・ポップ・サウンドはある種、トレンドになっていたので、メジャー・レーベルからも新人グループが続々とデビューしてました。男女デュオのエイプリル・シャワーズもそうした典型のひとつ。ぼくの知るかぎり唯一のシングルであるこの曲は、その手のサウンドの魅力を凝縮したような仕上がり。ウィークエンドやストロベリー・スウィッチブレイドあたりを連想させる、甘くてさわやかな逸品です。
EXHIBIT B / Who Killed The Smile?
(AVT MUSIC EX・B・1 / 発表年クレジットなし)「モンド・ミュージック2」で仲くんが紹介していたので、気になってる人も多いはず。ぼくは昨年ようやく手に入れることができた、英国ポップ・デュオの12インチ盤です。なんといっても、ジャケット裏に記された‘For Brian Wilson’というクレジットがたまりません。音もちょっとブライアンの1stソロを思わせるような雰囲気があって、すばらしい! 彼らのアルバム「Playing Dead」には、フリッパーズ・ギターの元ネタ曲が入っているのをご存じですか?
DUMB ANGELS / Love & Mercy
(FIERCE FRIGHT033 / '88)あの「Smile」の仮題をそのまま名づけた、プー・スティックスのメンバーらによる即席ユニット。もちろんブライアン・ウィルソンの名曲カヴァー・ヴァージョンであります。まあ、この人たちらしい、おちゃらけたジャングリー・インディ・ポップに変身しています。もちろん限定ナンバリング入り7インチ。オリジナルが出て間もなくリリースされ、タイミングもばっちりでした。フットワークの軽さが最高にかっこよかった!
THE BOY HAIRDRESSERS / Golden Shower
(53RD & 3RD AGARR12T / '87)ティーンエイジ・ファンクラブの前身として有名なグラスゴーの名バンド、唯一のシングル。BMXバンディッツのフランシスや、元グルーヴィー・リトル・ナンバーズで現スーパースターのジョーもメンバーです。これはもう、ほとんどソフト・ロックって感じですね。とにかく彼らは最初からセンス飛び抜けてました。ここ数年もブライアン・ウィルソンやセルジュ・ゲンズブールのトリビュート・コンサートなんて開催していて、先輩たちへの敬意を素直にあらわす姿勢がまたいいんですよね。
PHIL WILSON / Waiting For A Change
(CREATION CRE036T / 87)上のグラスゴー一派もそうだけど、カントリー・ロック趣味を打ち出す連中も、ギター・ポップ系にはけっこういます。フィル・ウィルソンは、ジューン・ブライズという名ギター・バンドのリーダーだった人で、このソロ・シングルもカントリー風味がいい味を出してる1枚。ぼくはB面の“Even Now”って曲が大好きで、イントロのスティール・ギターを聴いただけで思わず涙腺がゆるんでしまいます。人恋しい秋になると必ずターンテーブルに乗せる、定番のおセンチものですね。
NORMAN COOK featuring LESTER / For Spacious Lies
(GO BEAT GODX37 / '89)今をときめくノーマン・クックと、シンガーのレスター・ノエル(元グラブ・グラブ・ザ・ハドック)による強力ダンス・シングル。ネオ・アコースティックをハウス・ミュージックと融合した画期的なサウンドに、ハウスやグラウンド・ビートの12インチを買いまくっていたぼくは大感激したものです(ギター・ソロはもろにアズテック・カメラの“Oblivious”風)。ふたりは、のちにビーツ・インターナショナルと名乗り、この曲は1stアルバムにも別ヴァージョンで収録されました。ソウル・フリークの白人DJとギター・ポップ好きの黒人歌手、という異色のコンビだからこそ生みえた、奇跡の大名曲だと思います。
梶本聡
とても素敵なミニコミ誌「フィンガー・ポッピン」を主宰され、また音楽原稿を数多く執筆されている梶本さんは、渋谷のCDアナログ・ショップ「Zest」の店員さんでもあります。ハイファイにはAORものをチェックしに良く来てくれますが、ネオアコ〜ギターポップ、ハワイものにお詳しい方としても僕らの間で有名です。ぼくは梶本さんの音楽への素直な接し方を反映した軽妙な文体がとても好きです。音楽ファンって、こうでなくっちゃなあ。梶本さんに愛される音楽は、とても幸せだなと思います。(大江田)
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