Sounds Zounds No.7


| Quarterly Magazine Hi-Fi Index |

Red Nichols And Five Pennies-That’s No Bargain

戦前のホット・ジャズのグループの中でも、本当に興味が尽きないグループ。20年代という時代がどうして面白いかということは、この一枚がいろいろと語ってくれています。当時のジャズ・シーン(一つのメインストリームです)の売れっ子が、これほど前衛的なアプローチをするということは、当時はよほど自由な空気が流れていたのか。数回聴いただけでは覚えられないメロディ、4小節、8小節という進行を無視した曲構成、なによりも、面白いことをしようとしてそれで終わってしてしまっているというオソマツな出来上がり。個々の演奏能力(特にエディ・ラングのギター・ソロ!)が完璧なために、逆にバンド・リーダーの、ある意味短絡的な思い付きと言うようなものが浮き彫りになっています。ちなみにこの曲はサイドB。サイドAは、若き日のホーギー・カーマイケルの作曲で、ティンパニがメロディ楽器のような使い方をされている面白い曲。

Wolverine Orchestra-Oh! Baby

ジャズを何年進化させたか分からない天才コルネット奏者、ビックス・バイダベックが最も初期にやっていたグループの名義(ミシガン野郎という意味です)のもの。これはイギリス盤です。ジェネット原盤はないうえにメチャ高いのであきらめています。後の非凡なソロ演奏ではなく、若々しいグループ全体の勢いと、自由な和音のセンスが、非電気録音という厚い壁を通り越してはっきりと聴き取れます。これは僕の個人的な意見ですが、戦前のナンバーワン・ハワイアン・ギタリスト、ソル・ホオピィのギター・ソロは、音符の細かさや半音進行、あの類まれなリズム感も含め、このころのビックスのソロ演奏にすごく近い。まあソルはジャズをかなり研究しているし、当時のジャズ・シーンで最もホットな演奏家の一人でもあるビックスに影響を受けていないわけはないかも知れないですが。とにかくこの曲冒頭の32小節のソロはホントそんな感じです。

Eddie Lang And Joe Venuti-Doin’ Things / Wild Cat

現在僕らがイメージするジャズ・ギターというのは、ジャンゴ・ラインハルトといった時々のエポック・メイキング的な人をのぞけば、このラングことサルヴァドーレ・マッサロが、手本もなしにいきなり20年代に発明したようなもの。ラングのギターはそれこそハル・ブレインのドラムのように強烈に個性的です。ちなみにラングもジャンゴ・ラインハルトも譜面が読めなかったそう…明らかにビックス・バイダベックに触発されたようなフラット5度、マイナー7度、11度、13度といった音符を散りばめ、室内楽としてのジャズと、レイジーなブルース・フィーリングが同居するラングのギターは絶品!ヴァイオリンのジョー・ヴェヌーティは、ラングの子供の頃からの親友で、ジャズ・ヴァイオリニストとして息の長い活動をします。これはなんと都内の古書店で見つけたもの。手に取った瞬間、「うそ!」と大声で叫んでしまいました。

Mound City Blue Blowers-Arkansas Blues / Blue Blues

くし、カズー、バンジョーという小編成で、ブルージーでノヴェルティっぽい演奏を聴かせてくれる、セント・ルイス出身の3人組。エディ・ラング&ジョー・ヴェヌーティや、バンジョーのエディ・コンドンが後に加入することになりますが、これはその直前、24年にヒットした一枚。正直、なぜヒットしたのか分からないような、プリミティヴでちょっと貧弱、垢抜けしない演奏ですが、ひっかかりのあるこのすかすかのストリング・バンド演奏が最近妙に気に入ってます。このグループのコンプリート音源集のようなものは出ているのだろうか?

Sylvester Weaver-Polecat Blues / Raiload Porter Blues

先日、ジョン・フェイが来日した際に会って話しを聴く機会があり、このシルヴェスター・ウィーヴァーの編集盤のジャケを差し出したところ、「あ?あぇ?ああ、これはグレイトなギタリストだ」と、何十年ぶりに思い出したというような反応を示してくれた。僕が始めて手に入れた戦前カントリー・ブルースの78rpmです。シルヴェスター・ウィーヴァーは、東海岸の最も初期のブルース・ギター・マエストロの一人で、カントリー系のトラディショナル・レパートリーとしても知られる「SteelGuitar Rag」のオリジネーターでもあります。一音一音をのピッキングに細心の注意を払う丁寧さと、悪魔的としか言いようのない音感を兼ね備えた希有なギタリスト。とにかくこれで78rpmにはまった!

Geechie Wiley & Elvie Thomas-Motherless Child Blues

一番好きなブルースを一曲、と聞かれたら、少しも迷わずこの曲をあげます。ミシシッピの女性カントリー・ブルース・シンガーが、30年にウィスコンシン州グラフトンでパラマウント・レーベルに吹き込んだ一枚。それより先のことはあまり分かっていないようです。AOR系のレコードに多いのですが、命の名曲、泣きの一曲のようなものを聴いていて、「女にゃわからんだろな〜」と、なんの根拠もなくカッコ付けて思うことがありますが、自分が一番好きなこの曲を聴くと、「ハハー」と女性にひれ伏してしまう。すさみ切った風景の中に、ふっくらとした母性を感じさせる、女性にしか歌うことのできないブルース。どうしようもなく悲しいけれど、これ以上ないくらい美しい曲です。これ以上はなにも言えません。映画『クラム』に挿入されていた「LastKind Word Blues」もこの人達(あれはギーシー・ワイリーのソロですが)。これは編集盤です。

Deauville Syncopators-Cheerful Little Earful

僕の持っている戦前ダンス・バンドの78rpmのなかで一番気に入っているもの。いろいろ調べたのですが、結局このグループのことはわからずじまい。ヴァイオリンは間違いなくジョー・ヴェヌーティでしょう。ギターはエディ・ラングにしてはソロが小粒かな?という感じ。おそらくカール・クレスでは。スピード感に溢れた曲調、丁寧に練られたアレンジ、そして、ヴァイオリン、ピアノ、トロンボーン、ギター、サックスとかわるがわるソロが入れ替わり、転調してからの一番おいしいラストのソロはなんとアコーディオン!

Original Dixieland Jazz Band-Home Again Blues / Crazy Blues

史上初めてジャズ(当時はJassと呼ばれていたそうです)のレコードを吹き込んだ白人のジャズ・バンドとして知られるグループ。これは編集盤などで容易に手に入れることが出来る音源です。でも僕の持っている78rpmのなかで、LPと原盤との音の違いを最も良く分からせてくれる一枚。一言でいうと、この曲は78rpmの場合、グシャグシャなのであります。周りを意識しているのかいないのか分からないパワフルなソロが、建てつけの悪い2ビートにのって、強弱・緩急なしにずーっと繰り広げられる感じ。変な話しですが、現在もシカゴを中心に活動しているメイヨ・トンプソン率いるレッド・クレイオラの、60年代のファーストに近い印象です。

Frank Hutchson-Worried Blues / The Train That Carried The Girl From Town

これはどちらかというとヒルビリーにジャンル分けされてしまうアーティスト。両面ともにジョン・フェイがカヴァーしていることで知った一枚です。両面ともに激しく鋭いナイフ・スライドが素晴らしいヒルビリー・ブルース。よくホワイト・カントリー・ブルース系の編集盤に添付されている、今々演奏が終わったような、ハーモニカ・ホルダー付きのポートレイト写真がむちゃくちゃカッコイイ。実はこれ、電気録音のものと、非電気録音のものがあって、2枚78rpmで続けて聴くと違いが良く分かります。非電気録音の方は、ヴォーカルはきちんと前に出ているのですが、ギターは引っ込んでしまっていて、電気録音の場合はバランス良く部屋全体の空気をとらえています。

Charlie Jackson-Look Out Papa Don’t Tear Your Pants

黒人カントリー・ブルース初のヒットを飛ばした、“パパ”チャーリー・ジャクソン。ラグタイムを意識した、非常にリズミカルなギター・バンジョーと、超低いところからファルセットに近いところまでのレンジの広いヴォーカルで、ブルースからヴォードヴィル的なレパートリーまでこなすのが彼のスタイル。アメリカ音楽産業初の黒人エグゼクティヴとして知られる、メイヨ・ウィリアムスが発掘したアーティストです。27年に吹き込まれたこの曲は数少ないギター伴奏のもの。このパラマウント・レーベルは、当時としてもいち早く黒人音楽を発掘・録音した弱小レーベルで、ジェネット、チャンピオン、ハーウィン、ブラック・パティなどとともに、いいものが多く値段が高いという78マニア泣かせのレーベルです。

Luther Huff-Bull Dog Blues

どうしても欲しくて大枚はたいて手に入れたレコード。けど買って良かった〜。送られてきた箱を開けて盤を手に取りビックリ。光り輝くシャイニー・ミントというやつでした。ビッグ・ジョウ・ウィリアムスなどの吹き込みで知られるミシシッピのレーベル、トランペットの極めつけのカントリー・ブルース。マンドリンのような強烈な12弦ギターのトレモロと、それとは対照的に淡々とリズムを刻む単旋律のリズム・ギター(微妙なピッチのずれ具合がミソ!)、もう完全にロックなヴォーカル。カッティング・レベルが異常に高くて、張り裂けんばかりの音です。

Dixieland Jug Blowers-Boodle Am Shake / Carpet Alley-Breakdown

日本でジャズやブルースの78rpmを集めている人は、海外のディーラーのオークションを利用している場合が多く、僕もご多分に漏れずいろいろチェックしているのですが、これはそのオークションを通して入手した一枚。僕が落札した後、そのディーラーからのメールを見てビックリ!「僕の撮った映画で『Crumb』というのがあって、その日本版ビデオが欲しいんだけど…」なんとR. Crumb And Cheap Suitsserenaders のチェロ奏者にして著名な78rpmコレクター、テリー・ズウィゴフ氏でした!このディキシーランド・ジャグ・ブロワーズは戦前で最も成功したジャグ・バンドの一つ。ルーラルな粗々しい演奏でジャズっぽい曲を演奏していました。サイドAはジム・クウェスキンもジョン・フェイもカヴァーしたジャグ・バンドの名曲中の名曲で、2テイクあるうちのバンジョー・ソロがある、どうしても欲しかった方。サイドBはジョニー・ドッズのクラリネットが素晴らしい超モンディな一曲です。

Friar's Society Orchestra-Eccentric

それで、テリーとメールのやりとりが始まって、「今一番欲しいのは、ニューオーリンズ・リズム・キングス「エキセントリック」のジェネット原盤」と言ったら、「自分はこれ25年くらい前に手に入れて、あまり聴いていないからおまえにやる」と返信メールが入って、狂喜乱舞した一枚です。1920年代のシカゴ・ジャズ・シーンで最も盛り上がっていたクラブ、フラーアーズ・インの名前を冠していた時代の、ホントのオリジナル盤。ビックス・バイダベックも、その親友だったホーギーことホーグランド・カーマイケルも、このグループのレコードと演奏を聴いて音楽を志したのでした。NORKは、ニューオーリンズとシカゴっ子の混成グループ。クラリネットのレオン・ラポロの自由で目まぐるしい演奏にビックスが憧れたことは有名です。



 阿部 広野 
 今回の執筆者は、ハイファイの阿部クンです。身内?と思われるかもしれませんが、彼の音楽志向を興味深く意識して下さっている方は思いの外に多くおられるし、実は僕自身も彼の遍歴にとても興味があります。そこにはミュージシャン・シップが感じられる。そのくせに歴史的な事柄に詳しい。これを読んでどこかで阿部君の感性に接点を感じられる方は、ぜひ店頭で彼をつかまえてみてください。(大江田)

  


Sounds Zounds !! |1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 
▲このページのTOP  
▲Quarterly Magazine Hi-Fi index Page


Home | Shop on Web | How to Order | Shop information | Quarterly Magazine | Topics | Links | Mail | 販売法に基づく表記 |