| Quarterly Magazine Hi-Fi Index |

 

 

 「部屋に来た友だちに振舞うレコード」というお題を戴きました。音楽をよく知っている人も、全く知らない人も一緒に楽しめる音楽とその空間が、僕は大好きです。理屈やうんちく抜きに素直に「いいね−!」と感動を分かち合える瞬間ほど嬉しい時はありません。誰でも素直な歓喜に満ち溢れた顔って素敵ですよね。そこに「音を楽しむ」ことのリアリティ−を感じます。音楽を聴きはじめたばかりの頃に味わった新鮮で純粋な感動をいつまでも大切にしていたい。素晴らしい音楽に胸をドキドキさせながら接していける感性を持ち続けていたい。
 そんな自分の音世界を広げていけたらいいなと思っています。

  

1.BOB CREW/Kicks With Bob Crew (1959)
 「Let Me Entertain You」。まずは、なにかいいことがありそうな予感のするこんな曲ではじまるレコードをどうぞ。フォーシズンス等のプロデュ−サ−・作曲家として有名なボブ・クリューが1959年に発表したアルバムです。ここでは、スタンダード曲や彼がドゥーワップ・グループのRaysに書いた「silhouttes」等の曲をジャズのビッグバンドの見事なアレンジ・演奏をバックに歌っています。バックに一歩も引けを取らない素晴らしいボーカルがゴージャスな雰囲気をつくり上げます。若々しい躍動感のあるジェントルでクールな美声に酔わされます。体が自然に動き出してしまいそうになる素晴らしい1枚です。

2.JOHN PIZZARELLI/Dear Mr. Cole (1994)
 ジョン・ピザレリのナット・キング・コール集。ピザレリ流のアコースティックな洒落た演奏と軽妙にスウィングするヴォーカルが、JAZZ=POPSな雰囲気で◎。大衆音楽としてのジャズ本来の魅力がこのアルバムには生きています。ジャズって決して身構えることなくごく自然に楽しめる音楽なのですね。さり気なく、「小難しい知識なんておまけみたいなもの、気楽に楽しんで!」なんて無言で語りかけているようでもあります。それでいて、伝統的なスタイルの中にも新しい感覚を同居させ、しっかりと今風なカッコよさを追求する姿勢は、ジョンの優しさの内に秘められた頑固な男気を見る思いがします。そういうところにブライアン・セッツアーと相通じるものを感じるのは僕だけでしょうか?

3.CHARLS BROWN /Music,Maestro,Please (1978)
 戦後のウエスト・コースト代表するブルースマン。1940 年代にデビュー以来、そのアーバンかつメロウ&スイートなスタイルでワン・アンド・オンリー的な存在として知られています。1978年の本作も、よりアーバンでメロウでスイー トな、ブルースの枠を越えた、ジャズやソウルやポップスのエッセンスが絶妙にクロスオーバーした極上の名盤です。すべての音楽は奥深いところで1つの地下茎で繋がっているんだという感動をあらためて認識させてくれ る1枚です。残念なことに1999年にこの世を去ってしまいましたが、晩年の作品には、「世界残酷物語」テーマ曲の「More」やルビー&ロマンティックスの「Our Day Will Come」をスムーズなボサノヴァ風なアレンジで聴かせてくれたりもします。押しつけがましくないのに訴えかけてくるような渋い歌声がたまりません。阿部さんはチェット・ベイカーやデニス・ウィルソンを引き合いに出していましたね。アルコールを片手に、でも気取らずに聴くのがよく似合うレコードだと 思います。

4.「THE MUSIC MAN」/Original Broadway Cast (1957)
 ブロードウェイ・ミュージカル「ザ・ミュージック・マン」のサウンドトラックです。音楽担当はメレディス・ウィルソン。これは、ジャケットに惹かれて手に入れた1枚なのです。とあるレコード屋さんで、何気なしに手をのばしたミュージカルの棚の中でこのレコードに出会いました。そのまま戻すの はもったいなくてジャケットの表裏に何度となく目を通しました。「Till There Was You」.....ペギー・リーやビートルズのバージョンで大好きな曲... ..その原曲が収められたレコードを手にしていたのです。試聴させてもらいこのレコードと一緒に家に帰ることになりました。ペギー・リーやビートルズをはじめラテン風に料理されることが多い曲ですが、原曲はオーケストラをバックにバーバラ・クックとロバート・プレストンの名唱で聴かせてくれます。ミュージカルの世界って、名曲の天の川のようです。珠玉の 名曲の数々がいつまでも輝きつづけています。

5.DION/Drip Drop (1963)
 
ディオンの1963年のヒットシングル。オリジナルは、ドリフターズ。ボビー・ヘンドリクスがリードボーカルを担当していた頃のものです。リーバー=ストーラー作。山下達郎さんも取り上げていますが、このディオンのバージョンが元になったと思われます。
 「とにかく50〜60年代のレコードって音がめちゃくちゃいいですよね。とくに45回転のは」。望さんがよくHOTに話してくれます。CDよりも音圧やグルーヴ 感が全然違いますね。これもそんな1枚です。恐るべし迫力です。シングル盤に秘められた魔法については土橋一夫さんのSOUNDS ZOUNDSNo.3で大変素晴らしい内容で感動的に触れられていますが、50〜60年代のシングル盤に関しては、それに加えてその圧倒的に良い音も魅力の1つであると信じて疑いません。リイシューもののLPやCDで慣れ親しんできた僕にとって、オリジナルの45回転のガッツのある音はショックでした。目の前のすぐそばで演奏しているかのようなライブ感というか、鼓動まで伝わってくるかのような生き生きとした躍動感を感じます。

6.FREETWOODS/Mr. Blue (1959)
ワシントン州出身の、ハイスクールのクラスメート同士で結成された、男性1人女性2人のソフトポップグループ。ダンスパーティーで楽しげに歌っているかのような、よい意味での素人っぽさがとても魅力的で友だちのような親近感を感じてしまいます。本作は「Come Softly To Me」「Mr. Blue」の名作を含む彼らのファーストアルバム。デビュー・シングルになったオリジナル曲「Come Softly To Me」の♪ダン・ダン・ダンル・ダリルリル .....というフレーズに大滝詠一さんを連想し、このレコードを買った思い出があります。いつまでも耳に残るやさしさ溢れるメロディが素敵な名曲です。素晴らしい曲は、アレンジを超えて輝きを失わないものと言われることがありますが、この曲の場合は、ソウルシンガーのブレントン・ウッドによるカバーが秀逸です。何故かこれもナイアガラチックに聞こえます。美しいストリングスや女性コーラス等随所にナイアガラ・サウンドを彷彿とさせる香りが漂うグルーヴィー なソウルで、楽曲とアレンジセンスの素晴らしさが見事にマッチし、曲に新たな生命が宿ったかのような逸品になっています。

7. WHAM ! /Make It Big (1984)
 
もはや何の説明もいらないほどの最高にHappyなコレ。ぼくは大好きです。60年代のモータウンやスペクターサウンド、70年代ソウル等の遺伝子を受け継ぎ、よりポップでカラフルに80年代に蘇らせたようなアルバムです。バブルガムなブルーアイド・ソウル。質の高いオリジナル曲の他アイズレー・ブラザーズのカバーも、すべてセルフプロデュースでセンスよく仕上げられています。スタイルの継承に留まらず、ポップスに秘められた楽しさ、ドキドキ・ワクワクまでもが詰め込まれた文句無しの名盤。これぞポップスの王道って感じです。このような王道ともいうべきレコードと、真正面に向き合ってこそ、はじめてポップス裏街道の良さや奥深さといったポップスの醍醐味を十分に堪能する旅に出る力を養うことができるようになるという気がします。アイドル的な存在故に敬遠されがちでしたが、そういった偏見や先入観は、素敵な音楽と出会うチャンスを自ら消し去ってしまう悲しいことなんだってことを思い知らされるレコードでもあります。

8.SALT WATER TAFFY/Finders Keepers (1968)
 フィル・スペクター、アンダース=ポンシアの蒔いた種が、こよなく美しく可愛い花を咲かせました。ドリーミーなポップスの宝石箱のような理想的でミラクルな名盤です。良質なポップスっていつでもフォーエヴァー・ヤングなエネルギーを与えてくれるものです。最初にこのアルバムに触れたのは、確か佐野元春さんのラジオからだったかな?ラジオという魔法の箱から流れ出る夢見心地なメロディは僕に一生涯忘れることができない感動を与えてくれました。僕が初めてハイファイを訪れてまだ2年にもなりませんが、あの頃、お店の看板にこのレコードのジャケットが貼り付けてあったのを思い出します。ちょっぴり懐かしくなってしまったので、ここに登場させてしまいました。

9.FRANCE GALL/Gall(1967)
 
フィリップス時代のフランス・ギャルはどれも好きなので迷ってしまいましたが、今の気分でこれを選びました。ジャケットもいい感じです。イエイエ 、バロック調、ジャズ風と相変わらずクオリティの高い楽曲がバラエティ豊かに並び、全体的にメロディーが美しくロマンチックな雰囲気のアルバムです。作家陣はお馴染みのセルジュ・ゲンスブールは1曲のみで、パパのロベール・ギャル、アラン・ゴラゲール等の他、本作では、フランク・プールセルやレイモン・ルフェーブルらも名を連ねています。曲によって変幻自在に唱法を変えるボーカルセンスも見事で、イノセントな歌声が舞い、楽曲の持つ世界にさり気なく色彩を添えます。その様がとても魅力的で淡い恋心さえ抱いてしまそうになってしまいます。このレコードがある限り、彼女はいつまでも”放って置けない気になる女の子”なのであります。

10.JOAO DONATO/quem e quem (1973)
 
ボサノヴァ界の奇才、ジョアン・ドナート。ボサノヴァ全盛期はアメリカで活動し、ブラジルに帰国後にマルコス・ヴァーリの協力を得て製作したアルバムです。ボサノヴァのエッセンスに、天才的なリズムセンスで織りなす軽快なエレクトリック・ピアノが新鮮なグルーヴを展開しています。特にオープニングの「Chorou chorou」は、喩えようもないほど心地よく、いつ聴いても心を晴れやかにしてくれるポジティヴな感動を与えてくれます。個人的には、「イパネマの娘」や「サマー・サンバ」等と肩を並べるマイ・ブラジリアン・スタンダードです。さらにジョアンの音楽にはAORにも通じる感覚も持ち合わせていると思います。そういえば、マイケル・フランクスの名盤「Sleeping Gipsy」にもジョアンの名前がクレジットされていますね。

11.SUMMER/In Maribu (1976)
 
ハワイの男性4人組のグループ。ソウル〜AORなアルバムです。ジャケットに写る風貌からは想像できませんが(失礼!)、内容はとってもビューティフルなのです。軽快なギターのカッティング、コーラス、エレクトリック・ピアノを織り交ぜ、時に風のように爽快に、時にはメロウでグルーヴィーに、ハワイの美しい1日を音で描いたかのような好盤です。テンダー・リーフやレミュリアに通じるようなテイストがあります。ハワイ産のサウンドって独特の味わいがありますね。この、音が体に溶け込んで音と体が一体になるような心地よさは、ハワイの風土がもたらすものなのでしょうか。きっと、彼らの音楽文化ってゆとりとしての娯楽以上の、我々よりももっとぐっと生活に溶け込んでいて、空気のように音を肌で感じ、体全体で楽しむものなんだろうな。そんな感性がこういう音をもたらすんじゃないかな。このレコードを聴いていると、ふと、そんなことを思いました。

12.BAT McGRATH & DON POTTER/Introducing (1969)
 
グリニッジヴィレッジの空気が詰め込まれたフォーク・ロック系SSWの大名盤です。若き日のボブ・ディランに大きな影響を与えたといわれるポール・クレイトンへの敬意が込められているアルバムです。ここでは彼の「YOUR KIND OF MINE」を取り上げています。心温まる歌声が優しい気持ちいっぱいにさせてく れます。聴いていると、僕は何故か子供のころのことがいっぱい胸に甦ってくるのです。一生涯愛聴できる、体温のあるレコードだと思います。
 もし、Hi-Fiのみなさんが、僕の部屋にいらっしゃることになったら、といろいろ考えて選んだ1枚です。まずはこのレコードでおもてなしすることにします。「この人はこんな感じのが好きだろうな」と思ってかけたレコードを気に入ってもらったときなんてとっても嬉しいものですよね。このレコードは、とくに大江田さんがお好きなような気がします。気に入っていただけるでしょうか?

13.O.D.SCORE/Goodies (1979)
 ダン・ヒックスから灰汁(あく)をとったような、素朴なグッドタイム風のいい感じのレコードです。お店のドアを開けるや否や、阿部さんが、かなりイイの見つけてきたんですよ〜って教えてくれたレコードです。ありがとう。片田舎のブルース・ブラザース(?)みたいな風貌以外、彼らについてはプロフィール等は一切何も知りませんが、このレコードに針を落した途端、世の中からすべての争いごとが無くなってしまったんじゃないかって錯覚するぐらいほのぼのとした世界に連れていってくれるのです。こんなに素敵なレコードが当たり前のように並んでいるなんて、Hi-Fiって素晴しいです!遥か彼方、僕の見知らぬ土地で生まれた音の宝物を時空を超えて届けてくれる、そんな尊く偉大な仕事に敬意を払いつつ、音盤浪漫の旅を堪能していこうと思います。Hi-Fiバンザーイ!しかしながら、大変に苦労して探してきた珠玉の名盤と離別しなければならないという、Hi-Fiのみなさんの切なさを察すると、僕も少し辛いと想う今日この頃です。(涙)

14.ROY ORBISON /Only With You (1965)
 アメリカ最高のシンガーの一人、ロイ・オービソンの隠れた名曲「Only With You」 をどうぞ。これはシングル「Good Night」のB面に所収のシングル・オンリー曲です。ミディアムスローな、どことなくエルヴィスのナッシュビル録音の「I'm Yours」 やハーブ・アルパートが歌うバカラック作の「To Wait For Love」 のような雰囲気が漂う佳曲です。「誰も彼のようには歌えない」、ロイ・オービソンはよくこう讃えられます。彼ほど感情が言葉を越えて胸に染み込んでくる稀有の歌声を持ったシンガーはいないと思います。聴く度に胸が締めつけられ、涙腺が熱くさせれてしまいます。彼は偉大なるミュージシャンズミュージシャンであり、ビートルズの「Please Please Me」も元はジョン・レノンがオービソンのような曲を作りたいということで書かれた曲なのです(テンポを落として歌ってみると、確かにそうですね)。ブルース・スプリングスティーンの70年代の金字塔的名盤「Born To Run」もオー ビソンの影響無しには生まれなかったという話は有名です。



To Mr. 松原 広明
 松原さんが選ぶレコードにとてもひかれます。お客様が選ばれるレコードを見ていると、その方の音楽的な嗜好を語ると同時に、期せずしてお人柄を語っている場合もあるようです。松原さんが選ばれるレコードはどことなくやさしくて、ほんのりしています。やわらかい気持ちになります。ハイファイでお買い上げいただくアルバム以外にどんなレコードがあるのか、松原さんのレコード棚をちょっと覗かせてもらいたいという気持ちもあって(スミマセン!)こんなお願いをしてしまいました。松原さん、ありがとうございました。
 Pat McGrath And Don Potterは、僕も大好きです。返歌ならぬ、御礼の1曲を選ぶとすれば、60年代のヴィレッジの空気を伝えるサークルの「レッド・ラバー・ボール」なんてどうでしょう。サイモン&ガーファンクルのツアー・サポートをしていたメンバーのトム・ダウズが、ツアー中にポールからプレゼントされた曲だそうです。ちなみに「59番街橋の歌」もプレゼントされたそうですが、こちらは好きになれないという理由で彼らは取り上げませんでした。サークルの歌う「59番街橋の歌」。聞いてみたかったなあと思いません?松原さん。(大)
 
 
 


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