| Quarterly Magazine Hi-Fi Index |

 

 

 

大江田さんから頂戴したお題は「酒と音楽」でした。曰く、酒肴とは音楽の謂なり、 酔えば自然と手が伸びて云々。ハイファイにお邪魔すると何故かいつも緊張して大汗 をかいてしまう僕が、その日少しだけ酒の勢いを借りていたのを大江田さんは見逃さ なかった・・・? まったくもってお恥かしい限りです。Sounds Zoundsなる響きの プレッシャーに生半な酔いも雲散霧消するところですが、お題にかこつけて一杯、も う一杯と呷りつつ一筆ご披露申し上げます。やぶれかぶれて言いっぱなしの酔八選。

  

PHIL ALVIN with THE DIRTY DOZEN BRASS BAND

1.PHIL ALVIN with THE DIRTY DOZEN BRASS BAND & SUN RA THE ARKESTRA / Un"Sung Stories"

夜がやってきました! 飲みますよ! カンパーイ! 僕にとって最愛の夜告げ鳥は 三島由紀夫ではなくフィル・アルヴィンです。ダーティ・ダズン・ブラスバンド、サ ン・ラ・アーケストラと、ウルトラ級の百鬼夜行を贅沢にも二列従えて、あのカラリ と太い声をケレン味たっぷりに披露してます。レパートリーも怪物ランドのプリンス に相応しく、幕開きのビング・クロスビーからキャブ・キャロウェイ楽団、「録音史」 の文脈で語る機会の方が多そうなアパラチアン・ソング、R&B、フォーク、ゴスペル 云々ってな具合に、怪奇骨董収集趣味が横溢。ありがちなゴシック・ホラーものの展 開に、「ゴミだらけの納屋から異世界への扉の鍵を偶然掘り当てる」みたいなのがあ るじゃないですか。僕もその紋切り型に襲われちゃって、二束三文盤の段ボールから こいつを発見。興奮してラヴクラフトの銀の鍵だヨ! ルマルシャンの小筐だヨ!  と吹聴してまわったんですけど、周囲の反応はとってもクールでした。やっぱり友達って大切ですネ! もう酔ってまーす! 

CHAS'n'DAVES KNEES UP / Jamboree Bag no.2

2.CHAS'n'DAVES KNEES UP / Jamboree Bag no.2

英国式ドリンカーのアイドル、チャス&デイヴにカンパーイ。ぬるい黒ビールは最高 ですよね、って大江田さんと話してたことがあって、その時ふっと彼らの顔(と腹) が思い浮かんだんです。内心「もしSounds Zoundsにお声がかかったらきっとコイツ を紹介しよう」なんて図々しいこと考えてました! 内緒ですよ! でも図々しさ万 歳! なんの話でしたっけ?そう、チャス&デイヴ! みんなが「奴らはOily Rags が最高」って言ってるらしいんですけど、あれってなんだか出せ出せ言われて仕方な く出した収入証明書みたいで嫌です。出来すぎで。こっちはノリノリ・チューンを50 曲、勢いでメドレー! 曲間なし! 全部同じに聴こえますよ! ソングブックも付 いてて一緒に歌えますし最高です。でもって裏ジャケにThe Album is Dedicated to CHAS's Mum DAISY without Her Help Many of These Songs would Have Been Forgottenって書いてあって泣けるの。イカすヨッパライはみんなママに感謝してる んです。もしくは謝ってるんですよ! ゴメンねママ! 産んでくれて有り難う! 

ANDY NEWMAN / Rainbow

3.ANDY NEWMAN / Rainbow

誰もいない曇天の砂浜に虹をかける白いスーツの男、アンディ・ニューマンにカンパー イ。これでロバート・レッドフォードばりの男前なら、と思うけど全然そうじゃない 腹。肝心のスーツはよれよれだし、コンビの靴は砂まみれ。遠くでぼやけるはアップ ライト・ピアノ。なんて雄弁なジャケット。阿部さんのおすすめで出会うことが出来 た最高の一枚です。サンダークラップ・ニューマンの時からは想像もつかない、全編 オールド・タイム/ジャズ風味満載の宅録インスト、ひとり黄昏る愉楽・・・って聴 いてみたらリードはすべてカズー! ある曲では古ぼけたミュート・トランペットに、 またある曲ではすっかり音の抜けたサックスにカズーが「なりきってる」。スカシた 空気もほのかに黄色くなります。見開きのクレジットを見ると解るんですけど、 KAZOOが全部KAZZOOと表記されてるんですね。飲みながら読んでて思わず「JAZZOO!」っ て叫んじゃいましたよ。この盤のおかげで僕の中の「モダン・ジャズ」の定義は変わっ てしまいました。タイニー・ティムと同位相の超モダンを前に、至極当然の反省です ね! 酔ってます! ラヴ! 

CAB CALLOWAY / Same Titled

4.CAB CALLOWAY / Same Titled

キャブ・キャロウェイのエピック盤、僕の宝物なんですけど・・・この盤と僕、すご く相性悪いんですよ。飲む時絶対に聴くんだけど、気持ちよくなりすぎていつも泥酔。 絶対吐く。自称「セント・ジェームス病院送り」。筋金入りの高級エンターティナー だけに抜群のスイング感、これがきっといけないんですよね。僕、三半規管が貧乏な 作りなんですよ。AB面ひっくり返す頃になるともうベロベロで、レーベルに書いてあ るNONBREAKABLEっていう文句に向かって安心してモドしそうになったり、最高にイカ すジャケット・イラストに黄色い蛍光ペンで「ぬりえ」しそうになったり、もうほん とにこの盤かわいそう。誰か心のきれいな人もらってくれないかな・・・ってもちろ ん口先だけですけどネ! はいカンパーイ。まだまだ飲みますよ! 

JEREMY SPENCER presents ROCK'n'ROLL GOLDEN

5.JEREMY SPENCER presents ROCK'n'ROLL GOLDEN GREATS

・・・スミマセン。このタイトル、いま僕が勝手に付けました。カンパーイ。でも本 当にそういう内容。初期フリートウッッド・マックのメンバー全員参加で繰り広げら れる、笑撃のロックンロール・サタイア。男は黙ってエルモア・ジェイムス!みたい なイメージしかなかったマック第二の男(ガッチャマンでいうとコンドルのジョーに 相当)が、去勢されたトッポ・ジージョみたいなフニャフニャ声でベタベタなロック ンロールをやりまくってるなんて、んもうっ!聞いてないよ!どうにでもしてっ!っ て感じです。ジャケットで亡霊みたいな青白い顔を伏目がちにキメてるのは、ニヤニ ヤ笑いを噛み殺すのココロ?それとも酔ってゲロ吐く5秒前?(B面でホントに吐いて ます。超優秀録音)
前からずっと思ってたんですけど、ミック・フリートウッドってアート・ブレイキー みたいですよね。流動的なバンドの不動尊だし(ブレイキーの場合は新人の登竜門、 こっちは変人の漂着先)、ドコドコ叩いてる最中ずっと口全開だし。彼だけじゃなく、 とにかく全員ベロベロです!

PIGSTY HILL LIGHT ORCHESTRA / Same Titled

6.PIGSTY HILL LIGHT ORCHESTRA / Same Titled

全国津々浦々で今もごくひっそり奏でられ続ける有象無象の音楽にカンパーイ。こち らイギリスはブリストル産ひょうきん楽団謹製のファースト。スタックリッジの前座 を務めた経歴があるとか、後年リーダーがパサディナ・ルーフ・オーケストラに参加 してたとか、そんな小咄も納得の味わい。こういうセンスの若衆って本当にどこにで もいらっしゃるんですね。音程のかなりトボケたポケット・トランペット&カズーの ツイン・リード他、好事家ごのみの我楽多楽器、裏声、イビキ、けっつまづき等々、 失笑を買うのに必要な万事一切を取り揃えて皆様のご機嫌をうかがいます。サイコゥ! 今までずっと英国のフォーク・サーキットに対して「いまいち」なイメージを勝手に 抱いてたんですが(このVILLAGE THINGレーベルなんて特にそう)、この人たちのちょ こざいなブロウをまともに浴びて以来、認識を改めました。これに続く実況録音盤も ヌル燗で最高です!

MIC CONWAY'S NATIONAL JUNK BAND / 21st Century

7.MIC CONWAY'S NATIONAL JUNK BAND / 21st Century Sink

「一生涯バカやり続けるには肉体の鍛錬と集中力は必須」「愚行にも品位がある」等々 、数々の尊い教えを体現する我が心の師父、ミック・コンウェイ氏21世紀の大大大の 大傑作。うやうやしく献杯。ハイファイのカタログにおいても見事な言葉で激賞され てて、いまさら僕ごときが口にする言葉なんて見つからないんですけど・・・ただひ とこと、本当に愛しています、とこの場をお借りして申し上げたいのです、コンウェ イさん! 僕はずっと「音楽はなんとなく聴くものであって本気でやるものではない」 と思ってきました。でも貴方の音楽を知って僕は、そう考えてきた自分のことを今、 深く後悔しています。僕はただの酔っぱらいで、毎晩牛乳をあっためるのに使うユキ ヒラ鍋くらいしか演奏できるものがありませんが、ここのところ毎晩台所でこれを叩 き、本当にむずむずしながら貴方の音楽を聴いているのです。願わくばどうか来日を! 心から!僕はしらふですよ!

ぼちぼちいこか / 上田正樹と有山淳司

8.ぼちぼちいこか / 上田正樹と有山淳司

つとめて美学的なオケラ状況をオールドタイム・ミュージックにのせて数多く歌った このレコードを聴きたくなる頃には、どんなに浴びるほど飲んでいてもすっかり大人 しくなって、真顔で明日のことを考えてみたりします。何度聴いてもキマッてるなあ・ ・・酔っぱらうからには、かくのごとくあるべし!といつも思うのですが、酔い覚め の頭で考えながら聴くと、なんかすっごくカッコ悪い歌ばっかなんですよねコレ!借 金とか貧乏とか。もう毎晩聴いてますよ! 毎晩飲んでるってことですね! 毎日の 度を越した晩酌にノドをつぶされた後、上田さん系のシブ声に仕上がるか有山さんの ヨタ声になるかは、日々の功徳が問われるところです。一日一善!
マリア・ダマートそっくりの女の子に、金子マリそっくりの声でアダっぽく迫られる 夢を見ながら、今夜はこれでお開きです。おやすみなさい!皆さんもよい夢を。



To Mr. 中村健
 
ロックを語るにふさわしい文体、ジャズを語るにふさわしい文体ってあるんだよなあ。ウィッ!落語の話を、国会答弁みたいに語ってもおもしろい訳もないだろうし、あのべらんめぇ口調と筋書きは分けられるはずもないし。ロックな口調や、ジャズな口調、中村さんの文章を読むと、いつもこのことを考える。グビッ!口調と筋書きがピッタリ来ている文章ほど、気持ちのいいものはない。かくして「酒と音楽」なるお題を思いつくにいたりました。だって「酒」と「音楽」、似て似なるものなんだもの。ヒクッ!
 こいつぁ、飲兵衛にしか、書けないお題。読み進むうちに、思わずウィ!、恍惚、グビッ!、至福、ヒクッ!、茫洋とくりゃあ、こいつぁ、たまらんと思ったら、案の定でありました。サンキュー、中村さん!ウィッ!グビグビ!ヒクッ!最高だぁ!
 
 
 


Sounds Zounds !! |1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 |12
▲このページのTOP
▲Quarterly Magazine Hi-Fi index Page