Sounds Zounds! 稲葉将樹

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「イタロ系をきどる」
 訳知り顔で「イタロいいっすね〜」と話していたら、大江田さんに「イタリア人になりたい」というお題で、振られちゃいました。でも、そんな意識して音楽聴いてるほうじゃないんです。どっちかっていうとイギリス(いわゆるネオアコとかギターポ ップ)が好きだったんですが、「年を取るに連れて、ファッションも音楽もイギリスからアメリカに行くねえ〜」というヒックスヴィル中森さんの言葉のように、バタ臭いけど都会なアメリカのポップスが気持ち良くなりました。で、中でも、 最近しっくり来てるのがイタリア系アメリカ移民(イタロ・アメリカーノ)の音楽。 例えば、デ・ニーロかっこいい!とかそういう単純なレベルなんですが、好き!不良っぽいのに、メローな音楽って言うんでしょうか。ほどよく黒いグルーヴとか、せつないファルセットとか……が気持ち良くて。





■志村ふくみ『一色一生』

■Kenny Vance & The Planotones/Looking For An Echo
 ケニー・ヴァンス自身はイタリア系移民じゃありませんが、ソロ作「ヴァンス32」の長門芳郎さんのライナーで、なんとなく「イタロ」という言葉とか、当時のニューヨ ークの情景を知りました。♪「僕とベニーとアイラ、そして2人のイタリア人の男の子、みんなでオールデーズを歌った」という「ルッキング・フォー・アン・エコー」 の歌詞が最高。ムーングロウズ、ハープトーンズ、デルズが歌詞に登場していて、みんなでハーモニーを練習している様が描かれている。まるで優れた短編小説のよう。 そして、この歌をモチーフにした映画『奇跡の歌』も、ぜひぜひ観てみてください。 でも、映画バージョンだと、オリジナルの「イタリア人の男の子」の部分の歌詞が変わっていた!!「イタリア人の男の子」→「近所の男の子」へ。「イタリア」というのが現在じゃ唐突だと思ったのかな?監督は『ブルックリンの青春』の人。ブルックリン出身。こちらの出演はあのS・スタローンと、ハッピーデイズのヘンリー・ウィンクラーのイタロ・スターの共演。彼らヤンキーチームがダイナーで暇つぶしにハモるドゥーワップ・シーンにはゾクゾクした。



■志村ふくみ『一色一生』

■Barnaby Bye/ Touch
 ピンク・レディもカバーしたことのある70年代後半のアイドル「アレッシー」の前身。ネオアコ経由の僕は、「Can't live this way」の爽快な16ビートにやられました。 アレッシー兄弟の場合、8歳のときに歌い始めてるんですが、イタロというのは、親戚が集まる機会が多く、ちょっと歌ってみないかって感じで歌い始めるらしいです。 アレッシーだと、やっぱりジャジーな「愛しのローリー」が好きです。アレッシーは後期になると、「何となくクリスタル」じゃないけど、わりと透明感が出てきて音もパキパキしてくるんですが、Barnaby Byeはクリーミーな感じです。大江田さんが以前してらした人種のお話ですが、80年代に入って「人種のサラダボウル」と表現される前の「いつかアメリカはクリーム色になるだろう」と言われる余地が、まだブロンクスの街角にはあったんでしょうか?デ・ニーロの『ブロンクス物語』なんて観ると、対立しつつも閉じてはいない当時の白人・黒人の様子がわかって面白い。「ドゥ-ワップなんて嫌いだ」といって黒人を毛嫌いするイタロ少年がケンカをふっかけている次のシーンでは、ディオンが全米1位になったりなんてシーンもあったり。



■志村ふくみ『一色一生』

■Sweet Breeze/Two Faces Have I
 レア盤で閑話休題。ポール・アンカと並ぶイタロ・スター男性ボーカル、ルー・クリスティの変名シングル。A 面は、歌い出しは甘く、後半はいなたい“どディスコ”になってしまう曲ですが、B 面のこの曲が好きです。こちらはネオアコ・ファンも御機嫌なカッティングと、独特のファルセットで歌う軽ディスコ。オリジナルは1963年のルーク・リスティのLP収録楽曲のリメイク。



■志村ふくみ『一色一生』

■Dion/King Of The New York Streets
 ブロンクス兄貴、ディオンの声を聴くと、誇らしい気分になる。聴いている自分も 胸を張れるようなような、そんな感じ。ブロンクスの少年たちには、それこそいろんな夢を与えたんでしょうね。箱ってあまり買わないんですが(お金ないので)、この箱は買ってよかった。ホント宝物って気がする。いろんな時期のアルバムを聴くにつれ、その等身大の音楽変遷ぶりが、モッズ兄貴ポール・ウェラーともかぶったり。ソロ初の大ヒット「浮気なスー」のシャウトはパンクの第一歩? ブルース、フォークと傾向しつつも、ディオンは圧倒的にオリジナルです。機材、録音までオールディズ・マナーによった99年の新譜『デジャ・ニュー』は、僕にとってはむしろ現在的でした。オン年61歳で、今この音を鳴らすから素晴らしいんだ。



■志村ふくみ『一色一生』

■ARDIGO/Summer Time In Blookyin
 タイトルがいいですよねぇ〜。目をつむれば、ニューヨークはブロンクス。ラスカルズ調の哀愁に満ちたメロとファルセット。エモーショナルに込み上げてくところなんて、まさにイタリア人。グループの詳細は不明。60年代、こういうイタログループっていうのは、たくさんいたんでしょうね。その中でも傑作のシングルだと思います。ポップだけどガッツがある。現実に疲れてはいるが、枯れていない。イタロ・アメリカンが感じたニューヨークの音がする。



■志村ふくみ『一色一生』

■Jonathan Richman/Spring Time In New York 
 こちらも、タイトルも曲も◎。ほんとに素直な(そのまんま?)ラスカルズ「グルーヴィン」調の曲です。「The Mystery Not High Heels and Eye Shadow」に収録。 ジョナサンのこういうメランコリーさがたまらん。でも、ジョナサンはスペイン好きなんですよね、松永さん。



■志村ふくみ『一色一生』

■Alzo/Sunday Kind Of Love
 イタロ系優(やさ)男、アルゾー。かなりフェイクな感じでホワイト・ドゥーワップを演ってるプロモ盤だと思うんですが、僕の中のイタロ音楽はこれにつきます。オリジナルは有名なオールディズ。デル・バイキングスかな?聴いたことないです。シャネルズがライヴでカバーしてたのはR&Rな感じだった。アルゾーは大袈裟に、ホワイト・ドゥーワップの節回しで、歌いあげてます。お得意のファルセットも、かなりふざけた調子をつけてますが、すげぇ気持ちよさそう。風呂場でエコーつけて鼻歌してるようなノリ?至福を味わえます。フェイクはフェイクでも、マジフェイク。始めて聴いたときの濃密な3分間。もう一度、針を落とし、その展開に酔いました。♪ドゥワ 〜。ハイファイのイタロ系伊達男・片島さんが入社されて間もないころ、レジにこの 7インチを発見!「それ買います!」と言ったら、「これ私物なんです」と。また、 入荷したらよろしくです。俺もヒゲはやします。



■志村ふくみ『一色一生』

■V.A./21st Century Doo Wop 
 ホワイト・ドゥーワップといえばイタロ。ドゥーワップ・コレクターのエド・エンゲルの監修したコンピ。往年のおっさんグループから若手までが収録されているこういうコンピを聴いていると、 共同体音楽とまではいかない仲間音楽、ドゥーワップの暖かさを味わうことが出来ます。イタロがドゥーワップをはじめたのは、ブラックコミューンに近接していたことや、「楽器が買えない」という理由から。対して、ユダヤ系はギターとか買ってもらえたんでしょうかね?
 最高にかっこいいロックンロール・ムービー「ストリート・オブ・ファイアー」(音楽はライ・クーダーが担当)初出の自作曲をケニー・ヴァンスが、このコンピでリメイクしてます。日本でもアカペラ・グループが流行ってますが、ファッションとか、文化とか、先達のレコードとか、もっと勉強しなきゃイカン!といいたい。自戒も込めて。やっぱ、服装とかもイタロじゃないとね。その点、元エイムス・レコードの桑原さんのイタロ・スタイルは、尊敬。



■志村ふくみ『一色一生』

■Brigati/Lost In The Wilderness
 ラスカルズのブリガッティー兄弟。このジャケ・センス、何なんでしょうか?でも、このカラー・パターンって、イタロカラーと呼べる色づかいじゃないでしょうか?イタリアといってもモンド系のエロ・サントラを聴いていた学生時代は、イタリアンでバイトしてました。アンチョビとにんにくが、やばいくらい好きなんですが、アンチョビに卵黄を合わさるとすごくコクがでるんです。不思議。この組合せはシチリア風と呼ばれてます。ニンニク、鷹の爪、オリーヴオイル、アンチョビ、そして卵黄。シチリア風パスタ、美味しいです!そんな風味のレコード。グルーヴィンの下世話な感じのディスコ・アレンジもイタロ!って気がするし、スローテンポな曲のハイトーン・ボイスも心地よい。



■志村ふくみ『一色一生』

■Barry Manilow/Live
 シナトラ、フランキー・ヴァリ、ポール・アンカなどなど、持ち前のラテン気質を活かしたエンターティナーを輩出したイタロ・ショービズ界。ブルックリン生まれのバリー・マニロウもその代表格。スカしてると接する機会のないレコードだと思います。「コパカバーナ」のようなラテンでアッパーなイメージがあったんで、積極的に聴いてみようとは思いませんでしたが、僕には、幸運にも世代の違う音楽の師がいて、こういう王道を教えてもらいました。感謝。ブルース・ジョンストンの「歌の贈りもの」はもちろんですが、ランディ・エデルマン作「Weekend In New England」から、ルパート・ホルムズ作「Studio Musician」の展開に涙。「Looks Like Mede it」など、バリー・マンとも見まがおう大作風な曲をコンサート・ホールで聴く!



■志村ふくみ『一色一生』

■JJOCKO/That's The Song
 シャナナのVo.のソロ。この人も多分イタロです(顔で判断&決めつけ)。こちらも、もろロックンロール・ショーなジャケですが、ここでもやっぱり好きなのはメローな曲。70年代ニューヨークの正統派ミディアムなポップスが聴けちゃいます。バック・メンバーのクレジットを見ると、キャロル・ホール、リチャード・ティーというニューヨーカーな面々。次に挙げるアラン・ゴードンのメンバーともかぶります。イタロ系はジャケでだまされちゃいけません。



■志村ふくみ『一色一生』

■Alan Gordon/Ally & The Soul Sneekers
 元マジシャンズ。「CAUGHT IN ANOTHER WAY WITH LOVE」のシンセの音が気持ちいい。同じくイタロ系ライター、ヴィニポンシアのプロデュースによるファラガー兄弟のメローなミディアムポップ「open your eyes」のシンセも、たまに聴きたくなるときがある。で、アラン・ゴードンは、タイガーリリーから出したLP『The Extragordonary Band』がめちゃくちゃいいんです!激レア盤のためCDRで聴いているんですが、求ム再発。ドリーミーなライター・チーム、アンダース&ポンシアの書く曲もそうですが、アランもドリーミーだけどマッチョな歌い上げにイタロ魂を感じます。セブンス・コードをカンツォーネ調に歌うという……?



■志村ふくみ『一色一生』

■山下達郎/On The Street Corner
「オンスト・シリーズ」では名作『ワンス・アポン・タイム・イン・アメリカ』の主 題歌エンリオ・モリコーネ作「アマポーラ」も歌っています。ずっと、ゴットファザーと同じくイタロ映画だと思っていたのですが、この度見直してみたらユダヤ系移民の 話しなんですね。すいません……。これもデ・ニーロが主演でした。監督のセルジオ・レオーネはイタリア人。かなり好きな映画です。ラストの解釈でその人の人生観がわかる気がする。『シーズンズ・グリーティングス』のようなクラシックな音楽をやっ てもそうですが、達郎さんが歌うと自然とソウルフルなロックンロールのニオイがしてくる。白というには黒すぎる、黒というには白すぎる味付けがクセになる。しかも、最新型の(SFチックな)デジタル・キッチンでの一人多重。和モノということで言えば、最近、イカの塩辛にオリーヴ・オイル(にんにく、生姜少々)とキャベツをからめたパスタがやみつきに。



 イタロ、イタロと、バカのひとつ憶えみたいに書き連ねてきましたが、他にも、ニール・セダカ、テディラン・ダッツォ、スティーブン・ビショップ、ローラ・ニーロなどなど、たくさんいますよねぇ〜。AORやCCMでもイタロな名盤はたくさんあると思います。大変だ。音楽にはイタロなラテン的情熱とスタミナが必要なのだと思い直す。そんな僕の永遠の音楽学校は、タツローさんのラジオ「サンデー・ソングブック」なり。




稲葉将樹  おもしろい音楽があるところに神出鬼没。いろんなライヴ会場でも会いました。好奇心が一杯とお見受けします。本業はプロの編集者。独自の視線でイキな音楽を選ん でくれました。イカの塩辛にオリーヴ・オイル(にんにく、生姜少々)とキャベツをからめたイナバ風パスタ、おいしそう。近いうちに僕もコイツを食べながら、「On The Street Corner」にトライしてみます。飲み物は何にすればいいかな。キャンティでいい?(大江田)



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