Sounds Zounds!

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■ツライ朝はまだ明けない……

 補習を受けに7:00に登校! なんて我ながらよくできていたと思う。
 10年経って20代後半まっさかりの今、早くて8時遅くて11時の起床。編集者という不規則な職業ということもあってか、非常にルーズな目覚めの毎日。そんな感じで新聞に目を通し、朝食を摂るような充実した“朝”を過ごさなくなって久しい(ひとり暮らしということもあるかもしれませんが)。
 毎日あるはずなのに感じられない“朝”。
 なんだか懐かしい感じがする、と書くとキチンとした生活をしていないと実家の母に怒られそうですが、今の僕にあってない時間帯“朝”で曲を選んでみました。




■tell me where you're going / silje
Everything But The Girl / Walking Wounded

 今から10年程前の思春期の頃、夜中に理由もなしに居ても立ってもいられず、街を走りだしてしまいたくなることがありました。尾崎豊の有名な「盗んだバイクで走り出す……」というフレーズがあるので、僕だけのことではないようです。いま思うと、エネルギーが余っていたんだなぁと他人事のように思えてきます。万年燃料不足の僕は、電車に乗るための小走りですら億劫です。トホホ。
 しかたまに、本当にたまにですがあの頃の衝動が甦る時があります。
 ノルウェーの女性ボーカル、セリアのファーストアルバム。パット・メセニーが参加し、全体に彼女の透き通った声とアコースティックギターの音色は、とてもさわやか。ヒットしたタイトル曲“やさしい光につつまれて”をヘッドフォンで聴きながら歩いていると、知らぬ間に足取りが軽く、歩幅も広く、そして速さも上がって、いつのまにか小走りに。イヤな会社にも、気持ちよく向えます。



■ Coup de te'te / Kip Hanrahan
UA / 電話をするよ


 「思えば遠くへ来たもんだ 故郷離れて6年目」とは、同郷の海援隊の『思えば遠くへ来たもんだ』の有名なフレーズ。気がつけば、その6年をかるくオーバーして、どちらかといえば「思えば時間が経ったもんだ 20も今年で8年目」といった感じのこの頃です。多くの人がそうであるように、子供の頃に思っていた20代後半の大人のイメージから、小学生が中学生をみて、中学生が高校生をみて思うように、かけ離れてしまっている。あぁ。28年間だけども生きてきた時間を思うと、自分のヤレっぷりと何やってんだか……という切なさに押しつぶされそうになってしまう。
 キップはカッコイイよなぁ〜と、憧れていているもののそうなるための糸口が見つからない。どこをどうすればいいの? どうしなければならないの? と自問しても、答えがでてくる気配すらない。夜は深くなっていくばかり、朝の気配はどこにも感じられない。悪夢にうなされる毎日に終わりがくるのか? とりあえず今日は二度寝をして、やり過ごすことにしてみる。




■Nirvana Peter / Peter Ivers
ERICA / You Used To Think

 何で昨日は……、嫌なことは寝て忘れたいのに、寝て覚めてもまだドンヨリと気持ちが晴れない。なぜあんなことを口してしまったのか? なぜあんなことをしてしまったのか? 時間を置いて考えてみると“?”ばかりで、自分でも信じられないことばかり。規則正しい生活は狂ってしまったが、自分の情けなさ具合は、あの頃から何も変わっていない。ハァ〜とため息。
 フワフワと夢のような『Alpha Centauri』が終わったら『MIRACULOUS WEEKEND』が 始まる。ピーター・アイヴァースの情けない男っぷり全開のこの曲のメロディはとても美しいけれど、同時にとても哀しい。
 消去してしまおうとしても、拭いされないドンヨリが漂う朝に聴くと、涙がポロリとしてしまう。「何やっているんだろう、俺」。いろいろと悩んだり考えた始めた頃から、問題は解決するどころか、増えるばかりで、たいした成長のない自分にため息ももらしてしまう。これからもそうなのかも……と途方にくれる。



■セシルのブルース / 小島麻由美
Elyse Weinberg / Elyse

  どうしても起きれない朝がありますよね、みなさん。寝坊してしまうのは僕だけではないです。小学生から高校生まで、実家で暮らしていた時は、キチンと毎日同じ時間に起床していたものですが、上京し学校に通い始めた頃からどうにも生活が不規則で……。律することなく、空が明るくなるまでテレビをみていたり、本を読んでいたりしているのが悪いのでしょうか? 特に今は、仕事で強制的に不規則な生活になってしまうので、寝坊のケが顕著になってきてしまいました。あぁ。
 小島麻由美のファーストになるこのアルバム。全曲好きなのですが、特に“恋の極楽特急”がお気に入りです。
 寝坊して「ええい、このまま二度寝、三度寝と決め込むか」というツライ朝でも、おめざに大福やケーキを食べるように、女の子ボーカルの軽快なポップスを聴くことで、脳内の血糖値は上げることができます。
 何かとこのアルバムに頼っている日が多いこの頃です。



■E2-E-4 / Manuel Gottsching  
かまやつひろし / ムッシュー

 眠くて眠くて本当に眠いのに無理やり起きた朝、出がけの準備をしながら考えるのは、次に寝ることが許されるのはいつになるだろう? ということ。心の中の時計はいつくるか分からない、その時にむかってカウントダウンを始めます。それは月曜日の憂鬱に似ている感じです。
 延々、1時間近くもミニマルな音が流れ、もうそろそろ終わるのかなぁ、と思っているとマニュエル・ゴッチングのこれまたウニャウニャとしたギターが入ってきて、まだまだ先の見えない終わりにむかって曲は盛り上がっていきます。
 適度な興奮を感じつつ脳が犯されていっているようなこのアルバム。いつ終わるかもしれない曲を聴いていると、起きているのか、寝ているのか分からなくなってしまが、曲が終わると不思議な感覚も消えて終わり。でも今の僕の夢のような生活に朝はくるのか? フワフワ、グニャグニャの毎日にも終わりがきて欲しいと、聴き終わる度にため息をついてしまう。



■Holiday For Pan /Jaco Pastorius
浅川マキ / 灯ともし頃


 滅多にくることはありませんが、僕にだって“さわやかな朝”なんてものがあります。溜まっていた洗濯ものをすべて干し終わり、部屋の掃除をしてもまだ10時! そんなマジメでマトモな素晴らしい生活を送る日だって僕にもあるんです(ただし年に指で数えるほどですが)。そんな“目覚めもいいし、天気は晴れ!”なんていう日には、自然とテンションが高くなります。
 そんな朝にこの1枚。“Holiday For Pan”タイトルにあるように、スティールパンを中心にしたこのアルバムを聴くと、それだけでウキウキと楽しい気持ちをさらに倍増!! にしてくれる。透き通ったスティールパンの音は、とてもキレイでキレイで。
 このアルバムはジャコの遺作。彼の死にまつわることを考えると、なんだか暗くなってしまうけど、それはこのアルバムのキレイさには関係ない。キレイさは僕を駆り立て、珍しくどこかに行きたい衝動を与える。







To 安井克至
 安井クンは、前回の本コーナー執筆者、徳田クンの友人。ハイファイがファイアー通りにあったころからのお客様のひとりで、彼が大学生時代からのお付き合いということになります。かつてのようにくり返し顔をつきあわせて、冗談の一つや二つを飛ばしあい、ときには安井クン主催のDJパーティにお邪魔させてもらっていた頃に比べると、いまでは一月に一回、それもほんの少しの時間を過ごす程度のお付き合いになってしまいました。それでもなんだか顔つきを見ていると、彼の気分の一端がわかる気もしてきます。
 世の多くはうらやむ編集者の生活も、ちょっとした充実と、また再び襲ってくる深い疲労とのイタチゴッコのよう。端から見ていても、大変そうです。ささやかにでもそんな彼を元気づけている、そんな音楽を紹介してもらいました。
(大江田)



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