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「そよ風と私」と私〜“BREEZE & I” & I


 クリスマスのイルミネーションがそろそろ街角を賑わそうかという今日この頃、こんな季節にエキゾの話題もちょっと時候外れのような気もしないでもないけれど、この一年はエキゾに骨がらみというか、エキゾにうっとりいうか、またまたエキゾにいろいろお世話になったというか、とにかくこれほど今までの人生においてエキゾに耳を傾けた年もないので、万難を顧みず(?)エキゾについて書かせて頂こう。

 マーティン・デニーとかレス・バクスターとか耳にしたことは当然あるし、嫌いではなかったものの、それほど熱心にコレクトしていた訳ではなく、デニー師を中心に数える程しかレコードも所有していなかった。細野さんのレファレンス・ネタであるとか、あるいはモンド・ミュージックの一環としてエキゾをとらえており、エキゾをエキゾとして聴いておらず、エキゾのエキゾたる部分については、よく理解していなかったでではないかと思う(まぁ今もそう変わったわけではないのだが)。
 自宅のレコード・ラックにはマーティン・デニー、レス・バクスター、そしてアーサー・ライマンぐらいしかなく、それ以外のエキゾ盤は皆無であった。それも94、5年頃の話。お金がないながらも、様々の音楽へ興味が四方八方へ伸びていく時期だったので、エキゾ探求ばかりできるはずもなく、エキゾのディープな部分はお預けのままだった。
 その後、大学時代からの友人である山本君や松永さん達の会話の端々にのぼるエキゾ/モンド/キッズものの名盤、珍盤の話題にも、ふーん、なるほど、てなんもんで、なんのことやらさっぱり分からず、話についていけなかった。

 それが今年になって何かが突然弾けた。理由は自分でもわからなが、エキゾが頭の中を占めはじめ、エキゾ、エキゾとぶつぶつつぶやくようなレコード・ハンティング・ライフに突入してしまった。バイブが涼しげな音色を奏で、妖しげな旋律がじっと耳からしみこんでいき、バード・コールがこだましてくれば、もうメロメロ。抵抗などできるものではない。とっくに私の白旗はあがっているよ。降参だ。そうやってレコード袋を片手に帰路につくことが日常茶飯事となり、じわりじわりとエキゾ・レコードが増えていったのが私の一年であったと言っても過言ではない。とは言いつつもエキゾのエキゾたる部分について、何か理解したというわけでもない。エキゾ探求のまだまだ途上であります。先人に教えを乞いながら、ずぶりずぶりと魅惑のドロ沼にはまっていこうという所存なので、その際はお見知り起きを。

 その山あり谷あり海ありジャングルありのエキゾ・ハンティングの中で、ふとある事に気が付いた。レコード店の店頭で気になるレコードを試聴しながら、しげしげとトラック・リストに目をやると、“BREEZE & I”の文字が。またかとつぶやこともしばしば。元がスパニッシュ・バレイ用に作曲され、歌詞をつけられてポピュラー・ヒットになったというエルネスト・レオクール・カサドの作になるこの曲「そよ風と私 / BREZZE & I」を収録したレコードに惹かれることが非常に多いのだ。曲それ自身のバックグランドにつしては未だによく知らない。どこかオリエンタルで、どこかウィアードなアトモスフィアにやれてしまったとでもいおうか(そんな上等なイメージではないアレンジも、本当は多いのだけど)。とりわけ「そよ風と私」を気にしながらレコードを探したり、選んでいたわけでもないので、気がつくとこっそり収録されていたり。どうしてこんなに同じ曲ばかり増えていったのか自分でもよく分からない。
「バリ・ハイ」ほどではないにしろ、あちらでは「南国ムードを醸し出すにはこれ」的なスタンダード・ナンバーなのかもしれず、そうしたら全く不思議ではないのだが、でも本当のところは理由なんてどうでもいいのだ。魅惑の音楽は、そのまま謎めいていてくれたほうがありがたい。そんなエキゾ・イヤーを締めくくるべく、私的「そよ風と私」ベスト5を収録したナイスなエキゾ・レコードを5枚紹介させて頂く。




■BUDDY COLE / INGENUTY IN SOUND (WARNER)
Everything But The Girl / Walking Wounded
 バディ・コール奏でるオルガンと明朗なパーカッションがほんわかムードをかもしだし、場末の温泉気分を味わえる「そよ風と私」からスタート。各社のステレオ効果技術の宣伝用デモンストレーション・レコードが数多くつくられた当時のアーリー60'sにおいて、そのワーナー編にあたるというワークショップ・シリースからの一枚。アルバムのオープニングを飾るスカっぽいアレンジの「キャラヴァン」も、なかなかおつなもの。今回選んだレコード中では一等安っぽい「そよ風と私」だけど、これはこれでこのフィーリングを尊びたい。その昭和30年代テイストをたまらなく感じる季節が、誰しも人生において一度はあるはず(わけないか)。私が聴いているのは東芝音楽工業のエバークリーン・シリーズ赤盤、邦題は「スインギン・ハモンド」。昭和の匂いを感じてしまうのは、このせいかもしれない。



■ESQUIVEL / MORE OF OTHER WORLDS,OTHER SOUND (REPRISE)
UA / 電話をするよ

 今更私ごときが駄弁を弄するまでない、紛れもいない天才エキスヴェルの名盤より。アグレッシヴさでは今回の5枚の中で一番。圧倒的な迫力のファンファーレから、その凄まじいまでのテンションを保持しながら、エキスヴェル節ともいえるパーカッシヴなピアノ打撃奏法をくりひろげていく展開は、まさに圧巻だ。スペキュタキュラー・サウンドとはまさしくこれだよね、とついついエキサイトしてしまう。またその他クロード・ソーンヒルの名曲「スノーフォール」も演っていて、メキシコの冬ってこんな感じだろうかとついつい想像してしまうくらい冬を感じさせない演奏なのだけれど、素晴らしい出来栄えを気に入っている。
 それにしても裏ジャケのエキスヴェル師のポートレートは、その独特なフレームを持つ眼鏡のせいか凄い迫力だ。本作で一番のド迫力といえば、このエキスヴェル師のポートレートになるかもしれない。




■SIR JULIAN / A KNIHT AT THE ORGAN (RCA)
ERICA / You Used To Think
 もう一枚オルガンものを。謎のオルガンの騎士サー・ジュリアンの62年RCA盤から。この人については、私は何も知りません。裏ジャケットのクレジットによれば、「THE THIRTEEN FINGERS OF SIR JULIAN」というタイトルでRCAからもう一枚アルバムをリリースしている模様。うーんそれにしても、凄いネーミングだ。「13本指の男」ってホラー映画みたいだ。本作のジャケットだって、サー・ジュリアンと思しき人物の後姿を中心に、ご自慢のオルガンにしなだれかかるブロンド美女と、サー・ジュリアンのシンポルたる甲冑の騎士のミニチュアという構図。まさにビザールとしかいいようがない。
 それはさておき、そんなキワモノっぽいイメージとは裏腹に内容は大充実。ヒップ&グルーヴィーなオルガン・インスト満載だ。特にA面3曲目「DO YOU EVER THINK OF ME」なんてクラブ・プレイ出来そうなほど。肝心な「そよ風と私」はというとメロディをストレートにトレースしたシンプルな演奏。バディ・コールを「ほんわか」とするならこちらは「お気楽」。本来の魅力とは違うものの、このイージー・ゴーイングな感じも悪くない。



■ROBERT MAXWELL/SHANGRI-LA(DECCA)
Elyse Weinberg / Elyse
 数多くレコードをリリースしているハープ奏者、ロバート・マクスウェルの一枚。タイトルのイメージどおり、他のイージー&ラウンジーなアルバムとは違い、どこかほのかで上品なエキゾ・テイストが味わえる極上盤。A面1曲目の「BEWITHED」からすでに、現代では味わえない類のモダニズムとういうか、大人の魅力とでもいおうか、ひたすら美しいメロディとストレンジなアレンジが、涙がでるほど素晴らしい。甘いだけでない、どこか影のあるムードでもうムズムズしてしまう。
エキゾ・マニアにはたまらないEDEN ABEZ作「NATURE BOY」はA面5曲目。乾いたパーカッションの響きとハープの幻惑的な音色とオルガンのサウンドはもう絶品。それに比べると「そよ風と私」の仕上がりは思いのほかアップ・テンポで彼岸への誘い度は低いものの、一風変わったアレンジもまたよく、これも名演のひとつといえるだろう。アルバム全体としても、クオリティが高く、エキゾ・マニアにはお薦めの一枚となっている。



■HNERY MANCINI/DRIFTWOOD AND DREAMS(LIBERY)
かまやつひろし / ムッシュー
 あまたの名曲を残した天才作曲家ヘンリー・マンシーニがリバティ(ワタクシ的に今最も重要なレーベル)に残した夢のような一枚。マンシーニのエキゾ盤というだけで卒倒ものなのに、実際のその美しさ、素晴らしさときたら!!ジャケット、サウンド、その他もろもろエフェククト(?)、まさにパーフエェクト。いうまでもなく今年度の「そよ風と私」大賞はこれに決まりだ。
 プロデューサーがレニー・ワロンカーの父サイ・ワロンカーではないか、同時進行でデニー師が「EXOTICA」を録音してたのではないか、などという本来だったらわくわくする未確認情報も、この圧倒的な音像の前には食前酒程度のものだ。「POINCIA」や「BAL-HAI」などエキゾ・スタンダードからマンシーニのペンになるオリジナル曲まで、ひたすらため息が出るほど素晴らしい。「そよ風と私」の美しさといえば、まさにテクニカラー映画のようだ。
 こんな美しいジャケットと音楽が、セカンド・プレス以降(?)には、改題の上タコオヤジ(マンシーニさん、ごめんなさい)のドアップのジャケットに差し替えになるなんて、私には悲劇としか思えない。




To 五十嵐 学さん
 五十嵐さんは、現役バリバリのCDショップ・バイヤー。毎日、毎日、朝から晩まで音楽漬けの日々を送っているにもかかわらず、未だその情熱が衰えることのない熱烈な音楽ファンでもあります。休日の最大の楽しみは、前日に買い込んだレコードを聴きながら、読書三昧とか。よくわかります。なにしろ頂いた文中の「魅惑の音楽は、そのまま謎めいていてくれたほうがありがたい」という一説に、音楽ファンの願いの真骨頂を見る気がしました。素晴らしい映画を見たり、わくわくする小説を読みながら、終わってしまうのが残念でたまらないという気持ちに似ているかも知れませんね。
 最後にお詫びを。クリスマス前に原稿をいただいたのに、 アップが遅れてしまいました。申し訳ありませんでした。
(大江田)



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